『ちりめんじゃこのふりかけが余ってるの。

松岡君好きだよね?

お裾分け要る?要るなら家まで届けるよ。

今、家にいる?』



日曜日、ユキコは松岡へメールを送った。



夏休みに入って、子供達は友達を家に連れて来るようになった。


ずっと子供の相手をしていなくて済む。
友達が来ている時はユキコは自分の時間を満喫した。
小一時間なら家を空けても平気だろう。子供達は遊びに夢中だ。


旦那のタカシは出張に行っている。
それも本当かどうか怪しいが…。




あれから松岡からの連絡は途絶えた。



学校では普通に接している。



ベテラン女教師達が、父親になった松岡を冷やかしている時も、ユキコは皆と一緒に冷やかした。


学校で二人きりになる事はよく有ったが、松岡は夜会う時のように好意を示す事はしなかった。



すっかり元通り、ただの友達のように…。



夜松岡に会う事がなくなり、ユキコは退屈していた。



ワタルとの関係は相変わらず順調だったが、忙しいワタルが夜に会いに来てくれる事は稀だった。



土日はワタルとデートできるが、平日の夜に予定が無いのがユキコには耐えられなかった。



旦那のタカシと会話も無く過ごす夜が、何よりもユキコは嫌いだった。




ピロリロリン♪


可愛らしい音楽がメールが来た事を告げる。



松岡からだった。


『おぉ!ふりかけはアツいな!
今学校。これから帰るけど、何時頃来る?』



ユキコは返信を送る。



『いつでも行けるよ。
じゃあ家に着いたらメールしてね。』



出産したばかりのレイコは、まだ実家から帰っていない。


松岡の家にいるのは、松岡と2匹の猫だけだ。



ふりかけを玉葱型の小皿に入れてラップをかける。



レイコが家に来た時に、しきりと褒めていたガラスの器。



レイコが帰って来てこれを見たら驚くだろう…。
松岡と喧嘩になるかもしれない。


「ふふふ…。」



口の端から息が漏れた。


「何なに?お母さん何で笑ったの?」



いつの間にか側に来たシュンちゃんが、不思議そうに聞いて来た。



特徴ある、かすれた声が愛しい。



その時、松岡から「帰宅した」とメールが来た。



『じゃあ、これから行くね!』



返事を送り、姿見で髪型を整える。



コットン地の白いブラウス。
襟などにフリルがついていてロマンチックだとユキコは思った。



女の子女の子して見えないように、踝丈のぴったりめのジーパンを合わせている。



数年前までは、こんな可愛いい格好は出来なかった。



ユキコは、当時より10キロ以上痩せた体を鏡に映してニッコリした。



魅力的な自分が笑い返して来る。



「さぁ…、出掛けようかな。」



これから二人きりでする会話を思い浮かべる。



松岡に旦那との関係は冷えきっていると伝えよう。


「こんな事を話せるのは松岡君だけなの…」とうそぶいてやろう。



きっと喜んで私にのめり込むはずだ。

以前そうだったように…。



携帯をフリル付のトートバックへ放り込み、ユキコは玄関へ向かった。


星空の下を松岡と歩く。


草むらの中で、やたら大きな音を立てる虫が鳴いている。



今夜は特別湿度が高い。
髪を耳にかけると、セミロングの髪が広がっているのを感じた。



「どう思ってる?」
という質問の答えは まだ聞いていない。


ユキコの方から適当な話を始めて話題を変えてやった。

ユキコは松岡に逃げ道を与えてやったのだ。


松岡は喜んで別の話題に乗って来た。

「ほっ。」としているのが明らかに伝わって来る。
大した事ない話題だったが、いつも以上に勢いをつけて食いついてきた。



そして、くだらない雑談をしながら歩き続け、もう1時間近く経っていた。



「疲れちゃった。ちょっと座ろう。」



近所の公園のベンチへ松岡を誘った。



茂みの中に有り、周囲から見えにくいので、2人はよくここで休憩をした。

長い時は2時間以上話し込んだ事もある。



ベンチへ腰掛け、空を見上げながら突然ユキコは切り出した。



「それでね。まだ答えてくれてなかったよね…。

私の事、どう思ってるの?」




言い終わって松岡を見つめる。



次こそは「好きだ」と言わせよう。
そう決めていた。



関西弁で告白って何て言って来るのかな…。



ワクワクしながらユキコは待った。



遠くの街灯を見つめながら松岡は困った顔をした。



「うぅ~ん…。」


唸り声を出す松岡の返事を、黙って待つ。



沈黙が一番のプレッシャーだとユキコは熟知している。



長い時間がそのまま過ぎた。
ユキコにとって長く感じただけで、実際は数分かもしれない。



夏の虫の音をうっとおしく感じながらも、ユキコはじっと返事を待った。


何を考えているのか、松岡はまだ何も言わずに街灯を見つめている。



いつまで待たせるつもりなの?
私の事好きじゃないの?



じれったい態度にユキコはイライラしてきた。



「…どうなの?私の事…嫌い?」



我慢しきれなくてユキコは尋ねた。



「嫌い…ではない!」


今までの態度が嘘のように、松岡はハッキリと言い切った。



ついに告白させられる!ユキコはゾクゾクした。


「それって…どう言う事…?」



優しく囁くように聞き返した。




「好きか嫌いかで言えば…、好きやと思う。」


曖昧に松岡は答えた。




え?…何?その答え?




熱い関西弁での告白を待っていたユキコは拍子抜けした。
そして同時に怒りが沸いて来た。



「別に私の事なんて、どぉだって良いって事なんだね…。」


弱々しい暗い声を作って、足下を見ながら言ってやった。



「そんな事ない!
ゆっこちゃんの事は大切やと思ってる!」


急いで松岡は言った。



「…大切?それは…どういう意味なの?」


暗い声を崩さずにユキコは攻めた。
…好きだとハッキリ言えば良いのに。



「ゆっこちゃんは、俺にとって大切な人や。
それ以上でも、以下でもない。」




はぁ?つまり、告白する気は無いって事ね!?




ここに来て思い通りにならない松岡への怒りがむくむくと大きくなった。



あぁ…嫌だ。もぉ止めにしよう。
こんな煮え切らない返答…。
バカバカしい!



ユキコは勢いを付けて立ち上がり、明るくハッキリと言った。



「私にとっても、松岡君は大切な友達だよ。
ほんっと、友達の中で一番頼りにしてる。
これからも仲良くしてよね。」



『友達』を特別強調して言ってやった。



松岡はユキコを見上げながら「…ごめん。」と小さく呟いた。




公園を出て2人で歩く。

ユキコのイライラは治まらない。


もっと松岡を傷付けたいし、ユキコへの好意を言葉にさせたい。



別れ際、名残惜しそうに喋り続ける松岡を試すためユキコは言った。



「松岡君も 来月には お父さんになるんだよね?
お父さんになるんだから、こんな事してちゃダメだよ!」



切れ長の目を少し見開いた後、うなだれながら松岡は言った。



「ほんまに、せやな…。
その通りやわ…。」



松岡の反応にユキコはうろたえた。



…何それ?
私に会えなくなっても良いって事?




更に重ねて強く言う。



「じゃあ、これが2人で会う最期だね!」



コックリと頷き松岡は応えた。


「せやな…。これが最期や…。」



松岡の言葉はユキコは苛立たせた。



なに?何でそんな反応なの?
本当にもう会わないよ!?



松岡はユキコに首ったけのはずだった。

こんなにイライラさせられるなんて…。
そうだ。少し反省させてやろう。

ユキコは揺さぶりをかけた。



「じゃあね!今までありがと。バイバイ!!」



語気を強めて言い、クルリと踵を返す。
ユキコは家へと向かってズンズン歩き出した。



そのまま少し進んで、ユキコは不安になった。



呼び止めるか、腕を掴むか…。
何らかの形で追いすがって来るはずの松岡が、まだ来ない。



…何をしているの?
私、本家で帰っちゃうよ?




そろりそろりと慎重に振り返ると、松岡の後ろ姿が見えた。



見慣れた海外サッカーのユニフォームが遠ざかって行く。



何なの一体?!
どういうつもり!?



ユキコはその場で地団太を踏み、足を鳴らした。


もぉいい!何か楽しい事を考えよう。

ワタルとの京都旅行…。


ワタルの事を思い出すと、スッと心が軽くなった。




「そうだ!明日、仕事が終わったら可愛い下着を買いに行こうっと!
ワタルは喜んでくれるかな?」



ワザと弾んだ口調で呟いてみる。



ワタルの方が松岡よりも何倍もイケメンだし人気者だ。



私は、あのワタルに愛されている。松岡程度の男なんてどぉだって良い。


あんなにじれったい態度の男…。
これからは会わなくて済むなんて清々した。



眉間に深い溝を刻んだユキコの顔を、山から顔を出した赤い月が照らしていた。



あと少しで家に着いてしまう。


旦那はまだ起きているだろうか。

旅行の事で高揚しかけた気分が、また下がるのを感じた。


寅さんは雑食。



果物やヨーグルトなど、好きな食べ物は有れど
嫌いな食べ物は無かった寅さん。



ピーマン、レバー、ホウレン草。
一応、顔はしかめるけれど口に入れば何でも飲み込む。



そんな寅さんにも、ついに食べられない物が…。


その食べ物は…。



納豆!!




手やまな板をヌリヌリにしながら、頑張って ひきわりにしたのに…。



口に入ったら即座に「ぅべぇ~。」



「こんな物を食わせやがって!」
と、テーブルを叩き大抗議。


適当にバナナでゴキゲン取りをするも、
スプーンに納豆をすくったのが見えただけで大絶叫。



…そんなに嫌いか!



納豆ご飯。
栄養ありそうやし(何より一番良いのは)手軽やのになぁ…。



『好き嫌いが出て来るなんて、成長した証し。』


解ってはいるけど…お残しはイヤ~~!!




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「おっ?!あの紙旨そうでし!」


雑食な寅さんの好きな食べ物は紙類全般。


ジャンプやSoup。ミッケにチラシ…。


紙と見れば見境ナシ。


とりあえず紙を手に入れたら口に入れ、
後はメジャーリーガーのように「クッチャクチャ。」


そんな彼のあだ名は、白ヤギさん☆