カザンでは半年くらい、トルクメニスタン人の青年と暮らしていた。

彼は敬虔なムスリムなので、狭い部屋いっぱいに敷物を広げて、一日に5回お祈りをする。祈りがはじまると、僕は暫くベッドの上から降りられなくなる。

僕にはまるで信仰心がないので、せめて彼が彼自身の神に祈る時間くらいは邪魔をしたくない。

 

そうは思うものの我慢がならないのが、ラマダンの期間だった。

ラマダンの一か月、彼らは日中の飲食を禁止される。ということはつまり、夜のあいだ盛大に飲み食いをするということ。毎夜二時間おきに目覚ましが鳴って、隣人がいそいそと食事にとりかかるというのは、結構辛いものだ。

 

それで僕は今年のラマダンの途中に我慢の限界がきて、引っ越した。

ちょうどそのとき元恋人との別れ際で、気分を変えたかったということもあった。

そして借りたのが今の家。

小汚い部屋を、安い値段で借りている。

窓から手が届きそうなところに、白樺の木の幹がみえる。風が吹けば高いところから葉音が聞こえてくる。

 

僕にしては、やっと落ち着いて暮らせる家ができたのである。

それを恋人に「おまえの家は嫌いだ」と言われた。

コノヤロー。

 

おしまい。