ボリビアのウユニ塩湖のど真ん中にある、塩でできたホテルに泊まらされたことがあった。

 

なんの手違いか知らないが、夕日を観にいくツアーの途中で僕一人だけバスを降ろされて、「お前は今日ここに泊まるんだ」とツアーガイドに言い渡された。「いえ僕も夕日を見に行くんです」といっても聞いてくれない。僕をおいてバスは行ってしまった。

 

仕方がないからチェックインして部屋に入ると、ベッドも床も天上も真っ白である。触ってみるとざらざらと固くて、触った指を舐めると塩の味がする。窓ガラスは割れていて、その先に広がるのは真っ白い塩の大地。僕の他に客はいない。電気はない、水道もない、インターネットなんて届くわけがない。

 

外にでれば、一面の塩景色(?)である。海のように広く、どこまで歩いても終わりがなさそう。ちょうど夕日が沈むころだったので、僕はやけくそになって、夕日にむかって丸腰でどんどん歩いて行った。ホテルが見えなくなるまで歩いた。塩の平原には、動物が住んでいない。鳥も飛ばない。あのとき自分の半径5キロメートル以内には、人も動物もいなかった。そんな経験は後にも先にもこのときだけだったと思う。

 

日が沈んでから帰ったら、一本だけロウソクの立った食卓に、目玉焼きと冷めたパスタが運ばれてきた。宿主は文盲らしかった。そして僕はスペイン語をしらない。どうやって街まで帰ろうかと考えながら、他にどうしようもないので塩の部屋で眠った。

 

次の日の朝、塩のベッドで案外ぐっすり眠っていたら、ひょっこり昨日のツアーガイドがやってきて街まで車で連れ戻された。

 

僕は一体なにをされたのか、結局わからずじまいだった。