革命によって既存の分断が破壊され、階級が破壊され、都会も田舎も戦乱と改革の渦にまきこまれた。

 

内戦には多くの青年たちが参加した。

ロシア中で巻き起こった戦闘には、赤軍として多くの農民や労働者が加わった。

そのまま共産党に入党し、都会に出て作家活動をはじめた青年たちも多くいた。

 

簡単にいえば、ロシアは大鍋をひっくりかえしたみたいになった。

その全部混ざったごった煮の状態で、ソビエトという国が出発した。

 

革命後の作家の出所をみていると、革命前とくらべて驚くほどに多様になっている。

 

たとえば同伴作家の代表者を挙げると、

(*同伴作家…共産党の方針を積極的には支持しないが、まあそうなったんだから仕方がないかぁと認めている作家たち。ソビエト初期に大半の知識人たちがとった態度。)

 

・フェージン(代表作「都市と歳月」)は文房具屋の息子。

・フシェヴォロド・イワノフは現在のカザフスタンの生まれ。父は鉱山労働や村の教師をしていた。

・レオーノフ(「穴熊」「ロシアの森」)は農民の息子。

 

彼等の多くは内戦に取材して、ロシアの僻地を舞台にした小説を盛んに書いた。

 

これによってロシア文学の舞台が、ロシア全土へと広がった。

 

 

他にも、たとえば共産作家の代表者だと

・グラドコーフ(代表作「セメント」)はヴォルガの農民の息子。

・ファデーエフ(「壊滅」)は商人の息子で、ウラジオストクにて商業学校を卒業している。

 

 

もちろん例外もいる。

・アレクセイ・トルストイ(代表作「苦悩のなかを行く」)は革命前の大貴族出身であり、革命後も「伯爵」として豪華な人生を送りつつ、ソビエト文壇でも高い地位を占めた。

しかしそれにもイデオロギー的な理由がある。

彼が「前世紀(帝政ロシア)と今世紀(ソビエト)をつなぐ象徴的作家」として持ち上げられたから。

 

 

ソビエトという新しい国を創り出した次にソビエトが取り組むべきだった課題は、そこに新しい文化を創り上げることだった。

 

労働者の国のためには労働者による労働者のための芸術文化が必要だと考えられた。

 

それで、多少なりとも文才のありそうな労働者が全国の工場などから引っこ抜かれて、作家活動を強いられたりもした。

 

そのような不毛な試みから文学的な成果が現れなかったのは当然のことだけれど、こういう天と地をひっくり返すような大騒ぎによってロシア文学は、貴族階級からすべての階級へ、大都市からロシア全土へと開かれていった。

 

 

この連載はあと二回で終わり。