腐向け表現がありますのでご注意ください。











刑務官からの呼び出しもとい説教が終わり、俺は一人長い廊下を歩いていた。何故かは知らないが此処では囚人同士の争い事は基本的に禁止されている。これに関してもそうだが、警務所のルールとは変なもので訳の分からないものばかりだったりする。
「はぁー…」
ため息。ついたのは俺ではなく俺が囚人が入れられる部屋まで監視をする為に同行している金髪の刑務官だ。俺の心を見透かしたようなタイミングの良さに思わずその人物を見ると、それに気がついたのかにこりときれいな笑みを浮かべて、金髪刑務官は言った。
「なんかさーつまんないと思わない?」
「は?」
いきなりの言葉に思わず眉を寄せる。
「だから、つまんないと思わない?此処のルールとか生活とか。」
一瞬辺りを見渡した。周りに人影は無い。
「誰も居ないからってお前、刑務官がそんな事言って良いのかよ。」
「いやー、だって思うんだから仕方ないだろ。て、言うか俺君の言うとおり刑務官なんだけど敬語とかはないの?」
その言葉にはっとして遅いと分かっていながらも反射的に口を抑えた。
「ま、俺的には良いんだけどねー?」
金髪は俺の少し前を歩きながら後頭部辺りで手を組んだ。
「どうせそんなん守っても無駄無駄、美しくも何ともないって!って考え方なの、俺は。て言うか、今までルールも何も守らなくて問題児扱いされてたお前が敬語使わなかったくらいで何で今更焦るのかな~」
お兄さん不思議だなー。刑務官は笑顔で振り返る。その笑みには全て分かっていてわざとこの話をしたような、そんな感じがする意味深な笑顔の様な気がして一瞬ギクリとする。
「…それは、」
「こんな所で何をしている、フランシス。」
いきなり背後から声がして思わず肩がはねた。
「おー、ルッツ!相変わらず元気そうで…いたぁ!?」
「何をしているのかと聞いている。刑務官が必要以上に囚人と話すことなど無いだろう。」
「別に駄目っていう規則も無いじゃん。て言うか頭叩いた?叩いたよね??」
「お前のことだからまた何か変なことを企んでいるのではないかと思ってな。」
「……“ルッツ”?」
二人のやりとりがピタリと止まり、フランシスと呼ばれた刑務官は不思議そうに、ルートヴィッヒは無言で俺の方を見た。俺としてはただ聞き慣れない愛称が聞こえたから疑問に思っただけなのだが。と、ふとフランシスがニヤリと笑った。
「あー、そうそう!俺が呼んでるコイツの愛称!可愛いだろ?」
「へ?」
「おい、何を言って…」
「良かったらお前も今後から呼べよ、ルッツって。」
明らかに面白がっているフランシスの脇腹にルートヴィッヒの肘付きが容赦なく決まる。フランシスが震えているのは痛さ故か笑っているからなのか。
「……プッ…クククッ」
「あれ?何でギルベルトが笑ってるの?」
「ギルベルト?コイツの名前か?」
「…知らなかったの。ってかホントどうしたの、これ。」
尚も笑い続ける俺に刑務官二人は奇妙そうにしているのが分かるが、止める気にはならなかった。
二人のやり取りが漫才か何かにしか見えない。しかも意外とお堅いと思っていたルートヴィッヒが無自覚でそうしていたのだから余計だ。この滑稽ともいえる状況と、好きな人の新たな面が見られた嬉しさに思わず笑ってしまったのだ。
若干笑いが治まってきたところで、今まで静観していたルートヴィッヒが口を開いた。
「よくわからんが、とりあえずフランシスは早くコイツを連れていけ。」
「了解。ほら、行くよ。」
再び歩き始めた俺は、そこで初めてちゃんとルートヴィッヒの顔を見た。
相変わらず整った端正な顔つきに、聡明そうなどこまでも深い、碧の眼。
「ギルベルト、か。覚えておこう。」
すれ違い様、ルートヴィッヒがそう言ったのが聞こえて、俺は内心でガッツポーズを決めた。