あきらからのメッセージは、他の男のように性急ではなかった。



あたしがメッセージを送ってから一呼吸おくような間隔で、返事が来た。



『お返事ありがとうございます。今、他に気に入った人がいなかったら、よかったらメールのやりとりをしてください。』



敬語を使ったへりくだった文章。紳士的な印象だった。



『今、2、3人の人とメッセージしてます。それでもいいですか?』



あたしは少しいじわるく返信してみた。



丁寧な態度がにせものなら、ここで返事がこなくなるだろう。



だけど、またしばらくしてから、あきらからの返信。



『いいですよ。ぼくも他にやりとりをしている人がいますから。のんびり続けられたらいいとおもってます。』



なんだ。。。



他にもメル友がいるんだ。だったらあらためて私にメッセージ送らなくてもいいのに。



普通なら、ここであたしからストップすればいい話だ。



だけどあたしの指はすぐ、あきら宛てに、OKのメッセージを送っていた。

『秋の夜長の寂しさをまぎらわすようなメールをしませんか?』



それは、サイトを始めて3週間たったころに入ったメールだった。



あたしの自己紹介は、どんどんと増える新規のプロフィールに押し出されて、いくつページをめくっても出てこないほど後ろに送られていた。



そうなると、新しい相手からのメッセージなんてそうそうこない。



それでも、つなぎのように何度かメッセージのやりとりをする相手が2,3人いた。



どの人も可もなく不可もなくという感じだった。自分が送ったメッセージの返事がくるかどうかにだけ、どきどきと胸を鳴らすくらいで。



勝手だけれど、自分がふっても、ふられたくはない。ましてこんな出会い・系まがいのサイトで。



もっともここも、無料というだけで、出会い・系であることにはちがいないんだけれど。





そんななか、そのメールは確実にインパクトがあるものだった。



たくさんのページをめくって、私のところに辿り着いた。。。みたいなことまで書いてあった。



なにより、少しへりくだった丁寧な文章が、あたしの猜疑心を和らげるのに役立ったようだ。



続いて、その人のプロフィールを読む。年令、職業、性格、メール友達をさがしていること。すべてあたしにとっては申し分ない条件。



そして 「既婚」






初めて興味を引く相手。



あたしはすぐさま、 『あきら』に メッセージを送った。




満杯になったメールボックスを見つめて、一つ一つのメッセージを読んだ。





「仲良くなったら、え○ちしよう」



「近所だから、今から会わない?」



「○○に勤めていま~す!オカネアルヨ」



「ちょっと○っちな○○才だよ~!」



「よろしく(これだけ)」



「メッセお金かかるから、直メして!アドレスは・・・・」



「こんにちは。貿易関係の仕事をしているため、日中あなたの好きなところへ好きなようにして差し上げられます。非日常的な気分を味わってみませんか。お望みとあればそれ以上の快楽を与えてあげることもできます」






『メール友達から始めましょう』と書いたあたしのプロフをまともに読んでいるとは思えないメッセージの数々。




どこかに勘違いが入っている短いメール。もしくは延々と自慢話が続く。




30代の人妻なんて、所詮、肉体か金銭の欲望しかないだろうと、見透かしたような浅い感覚。




それもすべて否定することはできないんだろうけれど。



あたしは、なにがほしいんだろう。



友達が欲しい。できたら異性の。



自分と感覚が似ていて、どうしようもないもやもやした気持ちを、吐露することができるような関係。





だけど、そんな人はこんな軽薄な携帯サイトを通して見つかるはずはなかった。





それなのに、あたしはここを解約することができなかった。



毎日増えるメッセージを消去するためだけに開くのもむなしくなったころ、



一通のメッセージがあたしの指を止めた。

携帯電話のwebサービスなんてまだぜんぜん使い慣れていないころだった。



「コミュニケーション」のコーナーにはたくさんのサイトがあった。



そのなかで一番上にあるサイトをクリックする。




登録するときに感じた、妙に高揚した気分。



それだけで十分非日常だった。



24時間後、最初のメッセージが入ってから、あたしのメールボックスは、あっという間に満杯になった。

きっかけは、夫の女性関係だった。



その女性は会社の同僚。夫は彼女を「戦友」といい、そして「一番幸せになってほしい女性」といった。



なんだ、あたしではないのか。



あたしの夫への想いはここで潰えたような気がした。




だけど認めてあげなくてはいけない。そのころはまだ、夫を愛していたから。





体の欲望も確かにあった。だけれども、妻として、母としてではなく、誰かに「女性」として見てほしかった。




あのころのあたしは、怖さとかよりもただただ、満たしてもらうことだけを考えていた。