西村翔太は、平凡な日々を送っていた。仕事は単調、将来に対する大きな期待もなく、何となく毎日を過ごしていた。そんなある日、彼は道端の露店で、奇妙な機械を見つけた。古びた箱の中に、透明なガラス球がはめ込まれた装置で、店主はそれを「未来予報機」と呼んでいた。
「この機械は、あなたの未来を一日だけ予測してくれますよ。明日、何が起こるかを知りたいなら、これを使ってみませんか?」店主は怪しげな笑みを浮かべて勧めてきた。
翔太は半信半疑だったが、特に失うものもないと思い、好奇心に駆られてその機械を買うことにした。
家に帰ると、彼はさっそくその「未来予報機」を使ってみた。装置の説明書には、ボタンを押してガラス球を覗き込むだけでいいと書いてある。翔太は深呼吸してボタンを押し、球の中を覗いた。
すると、球の中に明日の自分が映し出された。仕事場で彼が笑顔で同僚と話している様子が見えた。特に驚くようなことはなかったが、妙に具体的な映像だった。
「まあ、こんなもんか…」と思いながらも、翔太は翌日、予報通りに過ごしてみた。すると、本当に彼が見た通りのことが次々と起こった。最初は同僚と冗談を交わし、次に昼休み、偶然カフェで友人と会い、まさに予報機の映像通りの一日を送ったのだ。
「本当に当たるんだ…」
彼は驚きと興奮を覚え、翌日もまた未来予報機を使うことにした。次に映し出されたのは、彼がコンビニで買い物をしている映像だった。その映像の中で、翔太は急に女性とぶつかり、謝罪する様子が見えた。
「明日も同じことが起こるのか…」
興味本位で、翔太はその映像通りに過ごしてみた。すると、翌日、本当にコンビニで女性とぶつかるという出来事が起こった。まるで未来が決まっているかのようだった。
翔太はその機械に完全に夢中になった。毎晩、未来予報機を使っては、翌日何が起こるのかを確認し、それに合わせて行動する日々が続いた。彼の生活は、まるで予報機が支配するかのように変わっていった。
しかし、ある夜、彼が未来予報機を覗き込むと、いつもと違うものが映し出された。
それは、自分が道路で倒れている映像だった。翔太は血だらけになり、誰かが駆け寄ってくるのが見えた。恐怖で冷や汗が流れた。これは、まさか事故か何かだろうか?
「これは…避けられないのか?」翔太は震えながら機械を見つめた。
翌日、彼はどうにかその未来を避けようと、慎重に行動した。いつもなら通るはずの道を避け、家から出るのも極力控えた。だが、夕方になっても何も起こらず、彼は「やっぱり未来は変えられるんだ」と安心しかけた。
その瞬間、玄関のインターホンが鳴った。翔太がドアを開けると、そこには宅配業者が立っていた。荷物を受け取って一歩外に出た瞬間、目の前の道路で車が急停車した。翔太は驚いて足を踏み外し、倒れ込んだ。
そして、彼は気づいた。未来予報機が見せた通り、彼は道路に倒れていたのだ。確かに大事故ではなかったが、血が滲むほどの怪我をしていた。そして、通りかかった人が慌てて駆け寄ってきた。
「結局…逃れられないのか…」
その夜、翔太は未来予報機を再び見つめた。しかし、その時、彼は気づいた。この機械は、未来を「予測」するのではなく、未来を「決定」していたのだ。彼がその映像を見てから、行動するたびに、運命はその通りに進んでしまう。未来予報機は、彼の選択肢を奪い取っていた。
「こんなもの、もう使うわけにはいかない…」
翔太は決意し、未来予報機を手放すことにした。次の日、彼はそれをゴミ捨て場に持っていき、二度と手に取ることはなかった。
しかし、最後に彼がちらっと見たガラス球の中には、新たな持ち主がその未来予報機を手に取る姿が映っていた。そして、その持ち主もまた、未来に囚われることになるのだろうと、翔太は薄ら寒い予感を抱えながら家に帰った。