敬遠策のブログ
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遠くまで 第一章 後編

話の途中でチャイムが鳴った。




外に出て行っていた男子が帰ってきて、立って話していた子達も席につき。俺たちも前を向いた。




数人の男子が噂の子の話をしていたがそんなに興味はわかなかった。




とにかく先生のおでましだ。




頼むからいい先生でありますように。ホントどんな先生かで今後が決まると言っても過言ではないからだ。




がらがらがら。




クラスの生徒の目線が一気に今開いたばかりのドアへと向けられる。




入ってきたのは中年のそこまで年老いていないくらいの女の先生。優しい顔をしている。まぁ悪くはないんじゃないかな。





「みなさん、はじめまして。今年一年よろしくお願いします。」




先生の自己紹介が終わると今度は生徒の番だ。




俺は迷っていた。




笑いを取りに行くかどうか。しかしここですべろうものならそれこそ一年を無駄にしかねない。




それでも俺はいつも笑いをとりにいくような輩だったから悩んでいた。




結局普通に終わった。やってしまった普通の自己紹介。悔やまれる。




自分の自己紹介が終わると緊張が解けたのか、あとの自己紹介はまるで聞いていなかった。




そのかわり回りにいる友達とぺらぺら話していた。




生徒の自己紹介が終わると、今度は委員会決めだ。




俺は学級委員になった。立候補したわけではないが小学生の頃から目立ちたがり屋だった俺は、いつもそういう役を任されていた。




というかみんながめんどくさいことを押し付けているだけだったのだが、俺はそういうことをやるのが苦ではなかった。




その後は女子のほうを決めるのだが、こちらも立候補者がいなく推薦投票みたいのになっていて、各小学校の頃にそういう役を任されていた子、二人が選び出され、決選投票していた。





しかしかわいそうなものだ。別に立候補したわけでもないのに選び出され、しまいには優劣を投票によって決められ、なんだか見ていていたたまれなかった。




前に出ている二人を見ていると一人は俺と同じ小学校出身でいつも俺と一緒に委員会をやっていた松本さん。何でも出来る子。




もう一人は、さっきの女の子だった。




俺は近くにいる子を呼んで聞いてみた。




「あの子ってやっぱり小学生の頃からそういう役を任されていたの?」




「古賀さんのことかな。うん、そうだよ。でも実際本人はやりたくないっていっつも言ってるんだけどね、リーダーシップのあるいい子だよ。」




「へぇ~。そうなんだ。」




そして投票結果がでて、結局俺はまた松本さんとすることになった。




「よろしくね、立花君。」




「あぁ、また一緒だね。よろしく松本さん。」




委員会決めが終わるとその日は終わりだった。




放課後俺は、サッカー部へ仮入部に行く途中で古賀さんと会った。




「どうも。今日は大変だったね。まぁ選ばれなくてよかったな。」




「別にどうでもええし。ってか、結局わたし他のに選らばれてるし。あんなん、みんながやりたがらんだけよ」




彼女の言うとおり結局彼女は他の委員会に選ばれていた。




「まぁお互い大変だけど頑張ろうや。」




「そうやね。んじゃわたしこれから仮入部行くからまた明日ね。」




「おぅ。じゃあな」




その後俺は、仮入部でへとへとになるまで走らされてすぐに家路についた。




俺の家は山奥で、坂が急で長くて。不便性に満ち溢れている。疲れた日の帰り道など最悪だ。




でも俺はこの自分の家が好きだ。




夜景がとてもきれいで、風が気持ちよくて、とても静かで、俺に落ち着きを与えてくれる。




その日も俺はいつも行っている家の近くの高台にいき夜景を眺めていた。




そこでその日、一日あったことを思い出しながら色んな考え事をする。その時間がとても好きだった。お気に入りの曲を聴きながら。





その頃は、俺はずっとここにいるものだと思っていた。




そこがとても好きだったから。




思えば今生きているこの場所もこの自分も、もしどこかで違う選択肢を選んでいたら、なかったかもしれない。




みんなとも会ってなかったかもしれない。




そう思うと重大に思えるけど、一つ一つ選んでいくとき、そこまで重大に思えない。




一つ一つが今の自分を作る選択肢だった。

遠くまで 第一章 前編

あくると出会ったのは中学一年生のとき。入学式の後。さわやかなハルのことだった。




うちの中学校は二つの小学校から成り立っていて、顔見知りが半分、初対面が半分といったところだ。




そしてこの学区は転勤族が非常に多い学区だったから全く知らない人がもちらほらいた。




その日は入学式だった。式が終わると振り分けられたクラスに帰ってくる。




俺はすぐに席に戻った。




周りを見てみると、初めて会った友達に自己紹介をする子、春休み明けに久しぶりに会った友達と話をする子。




俺は一人で席に座っていた。友達がいないとか、内向的というわけではないが、ただそのとき俺はなぜかそんなに元気もなく一人ぽつんと席に座っていた。




するとクラスが少し騒がしくなった。騒がしいほうを見てみると男子の集まりが出来ていた。




「おい、隣のクラスに可愛い子がおるらしいぞ。ちょっと見に行こうぜ!」




その言葉をきっかけにクラスの男子が大半、外へ出て行った。




いつもなら俺も率先して出で行くタイプなのだがそのときは行かなかった。




でもおそらくその噂の可愛い子は他の小学校の子だろう。出て行ったクラスの男子はほとんど顔を知っているやつらだったから。




「自分、見に行かへんの?」




急に後ろから聞きなれない関西弁混じりの声が聞こえた。




初めて聞いたときからこの喋り方は好きだった。少しくすぐったいようなそんな感じ。




振り返ると見たことない顔。たぶんこの子も他の小学生出身の子だな。




「うん、興味ないから。」ちょっと嘘をついた。




「なんや、おっさんみたいな発言やな。」




いきなり失礼なやつだ。




「あんな、男がみんなそんなんに興味持ってると思ったら大間違いやで。」




「えっ?ホモなん?」少し笑いながら彼女はそういった。




ますます失礼なやつだ。




「ちゃうわ。なんで俺がホモなんじゃ。」




「ふ~ん。」




自分か話しかけてきといてそれかよ。




「ってかいきなりなんだよ?」




「いや、見に行かへんのかな思うて、見に行っといたほうがええで。ホンマかわええんやから。」




そこまで言われるとますます意地を張るのが俺。




「絶対見に行かんからな。」




「そんなむきにならんくてもええやん。」




「まぁ、そうだな。」




いつも俺のことは見透かされている気がしていた。




だから全部分かっていると思っていた。




でも人の気持ちを見透かしたように全て分かる人なんていない。ただ自分が素直になれなかっただけ。




若さとか、経験不足とか。言い訳だけがつのっていく。




恋しい過去がつのっていく。




遠くまで プロローグ

梅雨に入った
 

 

 

雨がいつものように降る季節が来た
 

 

 

悲しみの雨を降らし、悲しみを雨で流し
 

 

 

上を向いても青く晴れ渡った空も満点の星空も見えやしないから
 

 

 

気付けば下を向くような季節
 

 

 

ようやく見つけた空は水溜まりの中で
 

 

 

やっぱり空は曇っていた
 

 

 

雨の日は家で音楽を聴く
 

 

 

ランダム再生にされたミュージックプレイヤーから流れだす曲が僕の思い出を一
つずつ、鮮明に思い出させる
 

 

 

一つ一つの曲に思い出があって
 

 

 

目を閉じればそれらがバックミュージックになって
 

 

 

まぶたの裏に一つのドラマがあって
 

 

 

それは僕しか知らない
 

 

 

誰にだってある物語