06 意外な反応 | あるハラスメントの告発

あるハラスメントの告発

ある市役所内で実際に起こった「係長の乱」に着想を得て執筆したもので、いわゆるバブル世代の市役所の管理職(バブル時代に市役所にしか就職できなかった人たち)と、一人の中堅市役所職員との壮絶な職場内バトルを綴ったものです。

 新たなプロジェクトを進めることを上司から許可され、さっそく粟林がデータの収集、澤田が国の研究機関との事前協議、私が企画提案書の作成を進め、1週間ほどで研究機関に申請するための内部決裁資料を完成させる事ができた。

 市役所の「決裁」は、その重要度に応じて、市長が判断するもの、副市長が判断するもの、部門の部長が判断するものなどを細かく定めた規則が存在する。しかしながらルーティン業務がほとんどない企画政策部門で発議された決裁については、政策に直結するものが多いことから、概ね市長決裁となる慣例がある。

 今回の決裁の判断について、事前に越智部長に相談したところ、「自分が決めるので、部長決裁でよい。」と指示され、若干の心配はあったものの、決裁の回議をスタートさせた。

 これまでの様子から、越智に廃案にされる可能性がないわけではなかったが、その心配をよそにすんなりと越智のハンコが押されて決裁が戻ってきた。

 それを受け、研究機関への申請を澤田に指示したところ、澤田はスムーズに手続きを済ませ「林口係長、事前に研究機関と話をした段階で、あちらもかなり興味を示していた様子だったので、必ず採択されると思います。」と自信をのぞかせた。

 研究機関への申請から1か月ほど経ったある日、研究機関から澤田宛てに電話がかかってきた。

 澤田が電話を切った後、電話の内容を尋ねると「やりました!採択される予定とのことです。正式な決定文書が届くまでには、あと2、3週間かかるそうですが、ほぼ決まりと考えて良いそうです!」との嬉しい報告が返ってきた。

 そのことをすぐさま部長の越智に伝えると想定外の反応が返ってきた。

 「そうか、決まりそうなんだな。でもな、これは重要な案件だから、副市長の判断を仰がなければならないな。直ぐにでも副市長に判断してもらえるように、オレの方で日程を調整をするから、プレゼンの準備をしておいてくれ。」と手元の別案件の書類から目を離すことなく、こちらの顔も見ぬまま指示がなされた。

 この段階での越智の発言内容に理解が難しいところがいくつかあったが、重要な案件ということには同意し、指示されたとおり副市長へのプレゼンの準備を進めることにした。



つづきます