おかあさん 
ゆうべ 夢を見ました




まだ生まれてもいない 赤ちゃんが
わたしにいうのです






男に生まれた方が 生きやすいか
女に生まれた方が 生きやすいかと






わたしはどっちも同じように
生きやすいということはないと
答えると





おなかにいるだけでも
こんなに孤独なのに
生まれてからは
どうなるんでしょう

生まれるのがこわい
これ以上 ひとりぼっちはいやだ 
というのです








わたしはいいました
「まあ生まれてきて ごらんなさい」と
「最高に素晴らしいことが 待っているから」と







朝おきて 考えてみました





いったい わたしが答えた
「最高の素晴らしさ」って 
なんなのだろう




わたし自身もまだ 
お目にはかかっていないのに






ほんとうに なんなのでしょう






わたしは 自信たっぷりに
子どもに答えて いたんです








大島弓子
『バナナブレッドのプディング』(1977年)