「私の体は現実を受け付けないの。だから、何も見えないし、聞こえなくなっちゃった。」
「こんなゴミだらけの腐った世界にいるくらいなら…死んだ方がいい。」
そう言葉を残してから、
君は籠に閉じこもるかのようにして、
僕の前に姿を見せなくなった。
あれから何年立っただろう。
「今日も、空が綺麗だよ。
君も出てこない?‥…なんてね‥」
毎日のように、僕はある部屋の前に立つ。
そして、話をする。でも、返事はない。
木材のドアが、まるで鉄のように開かない。
君にこの声が届いていることを信じて、
いつかこのドアが開くことを信じて、
話しかける。
今日も…明日も…明後日も、
僕は毎日毎日やってきた。
「もう……何も怖がることはないんだ。誰も君を檻に入れたりしない。
新しく…やり直そうよ。」
静かな空間に僕の声だけが残る。
「‥…‥…‥…また、明日も来るね。」
“また明日”
次の日、僕に明日はやって来なかった。
不慮の事故だった。
あぁ…君の所に行かなきゃ…
もしかしたら…待ってるかもしれない…
僕は“僕じゃない体”で、
いつもの場所に行った。
「ごめん……もう‥ここに来ることが出来なくなってしまった。天に…行くんだ…」
一枚のドアを前に僕は話しかけた。
小さくすすり泣く声が聞こえた気がした。
良かった…僕の声はちゃんと届いていたんだ…
しばらくすると、足音が近づき、
ゆっくりとドアが開いた。
そこには変わらない、君の姿があった。
「せっかく出てきてくれたのに…
最初で最後になってしまったね…」
君は黙って下を向いたまま、静かに涙を流した。僕はほとんど透けているこの手で、君の頭を優しく撫でた。
「大丈夫だよ。君が思っているよりも、この世界はずっと綺麗になった。君の目で、耳で、心で確かめてごらん。きっとそこは眩しいほどに明るいはずだから。」
「大切な人を見つけて
幸せになるように願っているよ。」
僕はそう言うと、君の小さく震えている体を壊れないように大事に抱き締めた。
その直後、僕の体は羽のように軽くなり
みるみるうちに透けていった。
「…‥…ぁ‥り‥がとう…‥」
顔をあげた君は僕を見て、
ぐしゃぐしゃの笑顔で言った。
「空から‥ずっと見守っているよ…‥
さよなら‥」
最後に言葉を交わし、僕は天に上った。
“世界はこれからもどんどん変わっていくだろう
だけど、そのたびに恐れていてはいけない。
現実と真っ直ぐ向き合っていくんだ。
そうすればきっといつか分かり合える”