インサートコイン(ズ) | 家具 通販 赤や 竹田のブログ

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詠坂 雄二さんの「インサートコイン(ズ)」を読みました。
今回は長いです。


インサートコイン(ズ) 詠坂 雄二 

スーパーマリオ、ぷよぷよ、スト2、ゼビウス、そしてドラクエ、ビデオゲーム史に燦然と輝く巨大タイトルを、さんざん遊び倒したプレーヤーの視点から描く、まっとうなゲーム小説って、ほんとうは、こういうことだ。ビデオゲームの高度成長期に青春を費消したファミコン世代、必読。シニカルな仮面の奥深く、やわい心を突き刺す傑作。「BOOK」データベースより


本屋で「人生(ライフ)を削ってPLAYしてきたすべての仲間たちへ。この本を読んで泣け。これが青春だ。」という
帯に書かれた大森望さんの推奨文を見て手にとった。
上に書かれたどのゲームもかなりやり込んで育った私の世代の人間にはドストライク!
詠坂雄二さんの著書もミステリファンとして読んだことがあるので、これは読まなくては!と速攻レジに持っていった。

最初本の目次を見た時、三章「俺より強いヤツ」という明らかに格ゲーを題材にした章に一番興味が湧いた。
私は高校の青春時代のほとんどを「ストⅡ」に費やしたような人間だ。
当時はそれはもう、今から思えばドン引きされるぐらいやり込んだ。
大学入試本番の昼休みでさえ、わざわざ抜けだして試験会場近くのゲーセンに行っちゃうぐらい病んでいた。
毎度毎度なけなしの小遣いをゲーセンで全て費やし、「俺より強い奴に会いに行く」を体現して色んなゲーセンに行きまくっていた。
だから、四章の「インサートコイン(ズ)」で(この章はシューティングゲームが題材であったが)
「ゲーセンで財布の中の百円玉を全て両替機で50円玉に崩して、そのポケットの中の50円玉が自分のライフと思えた」という表現はまさにそうだ、と読みながらこの上なく共感してしまった。

結局、格ゲーを題材にした三章の内容はこちらの予想の斜め上を行く、まるで格ゲーの世界を具現化したようなリアルファイトの話だった。
ゲーメストで連載していた「ダルシム小僧」みたいなものを想像していた自分は肩透かしだったが、
格ゲーのキャラがリアルにいたら…的な発想で、それはそれで面白かった。
ともすると臭いセリフ回しが格ゲーのキャラそのもので笑ってしまった。

どの章もゲームをやり込んでいない人でも十分に面白いストーリーだと思う。
ミステリ作家らしい日常の謎も盛り込まれている。
スーパーマリオが取り上げれられている一章から、作中のゲーム談義がものすごく面白い。
マリオのジャンプ時のグラフィックはなぜ手を上げているのか?
キノコは移動するがファイヤーフラワーが動かないのはなぜか?
さんざんやり尽くしたゲームだが、いままで全く気に留めていなかったので非常に興味深い。

ラストの章の「ドラクエⅢで最大の伏線は何かわかるか?」という謎かけも、
自分も当時の記憶を引っ張り出してきて色々悩まされた。
自分が初めて深夜からゲーム屋に並んで買った、これまたすごく思い入れのあるゲームだ。
Ⅲ→Ⅰ→Ⅱと物語が続くことか?なぜ遊び人が賢者になれるか?とか??
色々悩みながら読み進めたが、最終的には私にはまったく思いつかないオチだった。
しかも見事。
当時エンディングで感動してドラクエⅢのサントラを聞き倒していた事をとても懐かしく、感慨深くさせられた。

しかし自分が一番魅入られた章は実は二章の「残響ばよえ~ん」。
ぷよぷよの章だ。
主人公の柵馬が中学時代レンタルビデオ屋のゲームコーナーでゲームを通じて、クラスの女の子「ミズシロ」と交流を深める、という淡い思い出話を振り返るという構成。
学校帰りにレンタルビデオ屋のゲームコーナーに入り浸って「ストⅡ」をしていた自分は共感しまくれる話だ。
そして実は「ミズシロ」にはその時を一緒に過ごした柵馬ですら気づいていなかった謎があったという事を、柵馬の先輩の流川さんがその思い出話だけで見破るという、著者の推理作家らしさが盛り込まれたところも、ミステリファンの自分はすごく満足な話。
ここから先はネタバレも含みます
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「ミズシロ」という女の子は紅葉の見事な公園に校内写生に行っても紅葉は描かずに透明な空を描く。
ハンバーグを焦がすまで焼いてしまう。
ゲームの腕前は相当あり、テトリスは抜群に上手なのにぷよぷよは苦手。
連鎖の仕掛けはうまく作るのに、連鎖のトリガーとなるぷよの色を間違えたりとミスが多い。
そして、中学生の段階で「私は子供は作らない。」と言い切る。
流川さんはこの情報を元に彼女の謎を解き明かす。
そう、彼女は色弱だったのだ。

私も読み始めてすぐに彼女の秘密がわかってしまった。
それはもうぷよぷよの色間違いの部分と「子供は作りたくない」という発言で確信した。
なぜなら私もこの「ミズシロ」と同じ色弱でまったく同じような経験をしていたからだ。
そうなのだ。
いちばん最初のぷよぷよは色弱者にとって非常に辛いゲームだった。
赤と緑、水色と紫の区別がつかない。
サッカーゲームで自分が浦和レッズ、相手がアントラーズやヴェルディを選択したら、敵のプレイヤーにパスをして負けることもザラ。
当時のゲームは色弱者に優しくなかった。

ことゲームに関しては異様に負けず嫌いだった私はものすごく苦労し悔しい思いをした。
だから作中にも説明があるが、ぷよぷよ通(2)でぷよの色ごとにグラフィックが変わった時は狂喜した。
「ぷよの区別がつけられたら、絶対負けねー!」との思いから、
初代で悔しい思いをした反動もあったのだろう、めちゃくちゃやり込んだ。
わかる、わかるぞ「ミズシロ」さん。
紅葉なんて微妙な赤を多用する絵は描きたくないし、女性なら子供を産みたくなくなってしまう気持ちもでるだろう。
色弱の女性が男の子が生んだら100%色弱の子になってしまうし…。
色弱のメカニズムとして伴性劣性遺伝の説明も文中にでてくる。
親に恨みはないが、そんな事はこちとら物心ついた時から知っていた。
就けない職種も意外とたくさんある事もその時知った。

推理小説でも色弱のトリックは結構古くから使われるが、
小説の中の色弱の人の経験にここまで共感できたのは初めて。
(そういえばゲームつながりでサターンの名作「クロス探偵事務所」でも色弱のトリックが使われていたなぁ)
自分が共感できる一番のポイントが初代ぷよぷよするのがキツイってのもどうかと思うが、
それでも仲良くなったクラスの男の子との交流を優先しぷよぷよをし続ける健気な姿勢に感動。

いろいろな意味でこの「インサートコイン(ズ)」は自分の胸をえぐり、心に残る素晴らしい小説となった。
突発的に読んだ本だったが、本当によかった。