室内が明るくなったのか、瞼を閉じていても光を感じる。

 

もう・・・朝?

 

 

何だか気怠い身体。

 

こんな感じも、久しぶりだな・・・なんて、暢気に思っていられたのも、この時まで。

 

 

 

 

・・・そうだ、俺・・・・・櫻井社長に抱かれたんだっ!!!

 

 



パチッと目を開けると、すぐ目の前には生まれたままの姿の櫻井社長が居て

 

目を細めて俺の方を見ています。

 

 

 

「松本君、おはよう。」

 

「おはよう・・ございます。」

 

「身体の具合はどうかな?」

 

「えっと・・・あちこち痛いのと、怠い感じはします。」

 

「動けるか?」

 

「ゆっくりでしたら。」

 

「そうか。でも、その状態だったら、Rainbowには出社できそうもないな。」

 

 

 

・・・あ・・・・そうでした。

 

今日は、平日。

 

退職届は確かに受理されていますが、まだ退職の日を迎えたわけではありません。

 

 

 

どうにか動こうと試みるも、今はまだ、起き上がることすら困難です。

 

 

 

「無理させてしまったな。すまない。」

 

「・・・・いえ。」

 

「でも、君を選んだのは間違いではなかったようだな。昨夜も言った通り、嬉し誤算だ。」

 

「そう・・・なのですね・・・・。」

 

 

 

昨日言われた事すら、殆ど覚えていないのに

 

それにしても・・・今日はどうしよう?

 

 

そう思っていると、櫻井社長が

 

 

「今日は、直接Blossomへ出社したと連絡すればいい。わが社からも、担当の中丸から連絡をさせておこう。」

 

「いえっ・・・・イテテテテ・・・」

 

「ほら、無理しないで。今日はゆっくり休んでくれ。動けるようになったら、夕食を準備して待っていてくれると嬉しい。」

 

「・・・・分かりました。申し訳ありません。」

 

「否、これは松本君が悪いわけでは無いからね。」

 

 

 

 

そう言って、櫻井社長が差し出した手は、俺の頬を優しく撫でてくれています。

 

こんな風に・・・優しくしてもらったことって・・・あったかな?

 

 

思えば、痛くて起き上がれない朝でも・・・「朝ご飯は?」なんて言われたっけ。

 

 

 

何度も頬を撫でられ

 

チュッと軽く唇を合わせ

 

ぎゅっと俺を抱きしめる。

 

 

 

ここまですると、櫻井社長は起き上がり、着替えを始めた。

 

 

「松本君は寝ていて。」

 

俺に、そう言うのも忘れずに。

 

 

 

 

 

スーツに着替えてくると、手には3本のネクタイを持っている櫻井社長。

 

 

「松本君だったら、どの色にするかい?」

 

「この色のスーツでしたら、俺だったら、この薄紫のネクタイかな。」

 

「ありがとう。これからも、こうやって選んでもらえると嬉しいな。」

 

「・・・・俺でよければ。」

 

 

そう返事をすると、櫻井社長は小さな声で「よしっ!」と喜んでくれている。

 

 

 

 

恋人じゃないけれど

 

こういう反応をしてくれるのが、何だか嬉しい。

 

 

今までは、彼に尽くすことだけが、幸せだと思っていた

 

俺が今までしてきた恋愛って・・・こんなに甘い感じだったかな?

 

 

 

 

 

 

今朝は、自分だけが頑張らなくっていいんだよ・・・そう櫻井社長に教えてもらった気分だ。

 

 

 

 

 

 

きっと・・・櫻井社長は、そんなことを微塵も感じてはいないだろうけどね。