今年の有明海産海苔は歴史的レベルで不作です。

 日本で流通されている国産海苔の50%以上が佐賀、福岡、熊本の有明海産ですから、3月以降の海苔の流通がどうなるか、予測するだけ怖いという状況です。

 

 3月ごろからは、今冬の海苔が本格的に市場で出回ったり、加工される海苔の主流になりますから、それ以降は海苔の価格は高騰すると予想されます。

 有明海の海苔の出来不出来は、日本の海苔がどうなるかに大きく影響を与えます。

 

 では、その原因は何でしょうか?

 

 社団法人日本水産資源保護協会の資料によると、良質な海苔ができる条件には6つあると書かれています。

 

1 光

2 水温

3 塩分

4 栄養塩類

5 流れ

6 干出

 

これらの一つ一つについては、別の機会とするとして・・。

 

これらのどれもが良くなかったことになりますが、先日、忙しそうにしている兄を捕まえて、強引に聞き出したところでは、

 

「暖冬」

「栄養塩がない」

「風が吹けば攪拌されるが、おだやか過ぎ」

「暖冬なためプランクトンが多く発生し、それらが摂取する栄養分と海苔が必要とする栄養分は同じ」

 

とのこと。

 

海苔の生育に最も良い水温は15〜16度だそうです。

秋口の種付けの時だと水温が23度以下にならないと種付けができないらしく、秋口の水温が下がらない時は、海苔漁師や海苔屋はハラハラしないといけません。

私が子どもの頃、冬の両親たちの会話は、「気温が下がらないと色が落ちる」とかで、子どもとしては寒くないのが嬉しいのですが、うちの商売的には寒くならないといけないのだと思っていました。海苔から離れていた数十年の間も、冬に暖冬だと「色が落ちるんだろうなあ」「困ってるんだろうな」と条件反射的に頭に浮かんでいました。

 

兄の話を聞いて、なるほどと思ったのは、「少雨」だといけないということ。

「雨が降らないといけない」というのは?

川が栄養分を運んで来てくれないといけないからです。

佐賀、福岡には筑後川が、熊本だと白川や、うちの地元玉名だと菊池川が、それぞれ、有明海に流れ出す時に栄養分を運んで来てくれるわけです。

 

そして、その栄養分が有明海という内海の中で、適度に流れないといけないわけです。

ですから、有明海の中のどの当たりに位置する浜なのかで、海苔の質がとても違うわけです。

 

これが農業で、水田や畑であれば少しが区切りがあるのですが、海苔の場合は海ですから、海水を区切るわけにはいかないわけです。

 

そして、下の写真は、熊本県熊本市の河内の浜ですが、雲仙岳を背景にして海苔ひびが立っているのがわかると思います。

海苔にとって海は畑なわけです。

そして写真のように海に固定されている支柱で育てる養殖方法を支柱式といい、海岸から比較的近い場所で行われる方法です。

それに対して、ここでは写真がありませんが、もう少し陸から離れた場所で行われるのが浮き流し式と言われる方法です。(地元の漁師さんたちは「べた」とおっしゃるそうです)

その「べた」だと川からの栄養分が届きにくいために、少雨による栄養塩の不足や流れの状況が悪いことなどの影響をより強く受けるらしいです。

 

 

 

本で読んだところでは、長いスパンで捉えると、種付けの時期も、だんだんと遅くなっているのだそうです。

温暖化は、自然の産物である「海苔」という日本の伝統的和食の食材の生産に大きく影響を与えているわけです。

 

有明海は日本の中でも、最も南に位置する海苔産地であることからも、冬に温度が下がらないことは、とても辛いものとなります。

おそらく、今冬から春、夏、そして今年の秋、冬にかけての次の海苔シーズンまでの海苔の市況は予測不可能なまでの混乱が予想されます。

 

また、別の機会に書こうと思っていますが、日本の海苔の生産者数は年々減少しています。

今年、九州有明海沿岸3県(佐賀、福岡、熊本)の海苔漁師さんたちがこれ以上減らないでいいように、と願わずにはいられません。