「インフルエンザ大丈夫?」

季節外れのインフルエンザにかかって、1週間休んでいた私。

みんなが心配してくる。


「私が休んでいた時変わった事あった?」

「あったあった。」

「何々?」

「2年の先生に、イケメンが二人も!

ずるいよねー。

うちら、三年には、じーちゃん先生しか居ないよ。」

「イケメン?私の好みはうるさいよ。」

「確かに、アンタは好みうるさ過ぎ。」

「だってー、ねー。オトコは顔じゃ!」

皆んなとギャーッ、ギャーッと騒いでいたら、授業のベルが鳴った。

それでも騒いでいると、扉がガラッと開き人が頭を下げて中に入ってきた。

見上げるほど大きい人。

ストライプのシャツにジャケットを着て、ジーンズ姿の先生?

「お前ら、3年なのに騒がしいなー。」ちょっとだるそうな言い方。

「ちょっ、ちょっと、二年のイケメン先生だよ!なんで?なんできたんだろう?」女子たちが騒ぐ。

「担当の先生が急遽帰られたので、代わりにオレが授業をします。」

ぎゃー!

だから、女子五月蝿いって!

「ここの委員長、出席簿持ってきてくれ。」このクラスの委員長のファン君がすっと立ち上がり、出席簿を渡した。

名前を確認していると、先生の顔が驚く。

「30番のイ。」

あれ?私だ。

「あっはい!」座ったまま返事をした。

ジーっと私の顔を見て「お前今日からパンダなっ。」

「へっ?」

周りの女子が騒ぐ。

「えー!いいなー。なんでー!」ブーブーうるさいよ。

私が一番困ってるんだから。

「さー、授業始めるぞ。」

初めて会ったのに、私の事をパンダっていう先生。

まっ、体型がパンダだけどね。






それから、イシン先生は担当の先生が休む度に来てくれて、女子達のハートを鷲掴みした。

皆んなには、ちゃんと名前で呼ぶのに、私だけなんだよねー。

パンダ

皆んなから羨ましーと言われても、なんかからかっているみたいにしか、聞こえない。

「パンダ、これ教室まで持ってけ。」食堂から教室に戻る私は、イ・シン先生に呼び止められて、資料をドンッと持たされた。

「 イ・シン先生!私、女子!」スカートを指差す。

ジーっと私を見る先生。

「あははーっ。」笑って職員室に入った。

「もー!」プンプン怒る

「ネーネー、イシン先生って、あんたの事スキなんじゃない?」友達達が言ってくる。

「はー?ないない。」こんなガタイのいい女なんか、あの細い先生が好きになる訳な いじゃん!」

「イヤイヤ、もしかしてデブ専かもよ。」

「マジか!」

みんなで笑いながら、歩き始めた。

笑い飛ばしながら、先生なんで私をパンダって呼ぶの?

なんで?

小さな小さな疑問は、小さなキモチを育てていく。

廊下で会う度、食堂で会う度、ニッと笑う先生。

小さなキモチ、又1ミリ大きくなった。


「周りの友達も、イシン先生はデブ専だったかー。これは諦めるか。」

私を見て、ニヤニヤする。

「ないない。」

「あるあるー。」みんなと笑う高校三年生。

毎日がなんか楽しい。

ふざけ合い、放課後のトッポギ・・夏の暑さ・・・全てがあっという間に駆け抜けていく。

イ・シン先生への変な気持ちも大きくなり続け、何時も目で追っていた。





秋になり、この学校にも教育実習生が入ってきた。

朝礼時間に壇上に立ち上がった三人。

あっ、一人可愛いけど、よくある可愛さだね。

自分の学年じゃないから、名前も知らん。

横をフッと見ると、イ・シン先生の顔が見えた。

「!!」なんか、何時もと違う顔。

何時もとクールが売りの先生なのに、なんか違う。

誰を見てる?私は目線の先を見ようとしたが、先生は目を伏せてしまった。

あの教育実習生の中に、誰か知り合いでもいるの?

そして・・出張に出掛けると言ったのに

「あれー?イ・シン先生ーー、出張に行くからって、お土産買って来てくれるって。」

「あっ・・・あーーーっ。急に変わったんだ。」何か心此処に在らずッて顏。

「なんかイ・シン先生、何時もと違うね?」

「そうか・・・?」ボーっとしたまま行ってしまった。

「どうかしたの?」一緒にいた友達が私に聞く

「ウン。私をからかわない。」

「そうだっけ?」

「うん。」何か寂しい、パンダっていつも呼んでくれてたのに。




教育実習生の最後の日。

イ・シン先生は私の横を通り抜け「じゃあな。パンダ。」ポスッと頭を叩いていった。

「あれ?」なにか吹っ切れた?

教育実習生の担当になっていた先生は、3年の授業に来てくれてなかったので、久々に会った。

「イ・シン先生ーー、さいならーー!」

又パンダって言ってくれた嬉しいなーー、やっぱこうでなくっちゃー、私は大きな声で挨拶をした。

「ほらっ、たまたまだったんじゃない?何時も通りだね。」

「うん、忙しかったんだね。」

パンダ、パンダ。先生のイイ声で呼ばれるこの言葉が、スキだってようやく気が付いた。

自転車置き場に行き、自分の自転車を捜していると。

ハアハア・・と息を荒く吐き出している確か教育実習生。

「あれ?もういっちゃった?」情けない声。

「先生、どうしたんですか?」友達が聞く。

「イ・シン先生のバイクってどこら辺に停めてるの?」

「えっ?イシン先生は車ですよ。バイクなんか知らないです。」

何位言ってるんだ?この実習生。

「?」凄い顔でビックリしてる。

「どうしたんですか?」

「車?まさか、絶対にあり得ない!」

「車の方だから、行ってみて!」

何か分からないけど、友達と二人で実習生を行かせないとと思って叫んだ。

先生の行動は早かった。さっきの戸惑いの表情は無く、潔く走り出した。

スカートなのを気にせずに全速力で行ってしまった。

「すっごーーーい。」

「うん、白いペンティー。それに足綺麗。」

自分の象の足を見て「あんな綺麗足あるんだねー。」

無言で頷く友達。

一瞬に駆け抜けて行った実習生を私達はただ茫然と見ていた。








教育実習生の事なんか頭からなくなってしまった毎日。

そして、又季節が変わり、冬が来て春がやってこようとしていた

卒業式。

皆と離れたくないと泣き、何枚も写真を撮っていると。

イ・シン先生と会った。

「パンダ。」私を呼び止める先生。

「もーー何?」泣きながら振り向いたら、先生は手を差し伸べた

「へっ?」条件反射で手が勝手に出て先生の細い手を握り締めた。

「卒業式、おめでとう。」優しい顔でスタスタと行ってしまった。

「ちょっ、ちょっとーー、アンタ、先生から握手してくれるなんてー。」友達達が騒ぐ。

「・・・。」驚きのせいで何も言えない。

立ち去る先生、その姿はもう見えない。

卒業式の事や皆の事なんかすっぽりと抜けてしまった。

なんだろう?

ずーっと大きくなっていた小さなキモチは、もう大きくなり過ぎていた。

イ・シン先生。

式の為並んでいると、先生たちが正装でやって来た。

何時以上にスーツをビシッと来ている先生に、女子達の興奮レベルが異常になる。

「イ・シン先生カッコイイーー!」自分達の卒業式なのに、なぜか先生に涙する女子。

ア、本当にカッコイイ。

背が高くて、声が良くて、そこそこに優しくて、でも私にはイジワルだったよ。

イ・シン先生・・・イ‣シン先生・・・。

この感情を持て余し、先生に見られない様に隠れたのに。

私の傍を通り過ぎる時。

「パンダ、ヘマすんなよな。」笑いながら私の手を握り、行ってしまった。

「ぎゃーーーー!」女子達の声が叫びに変わる。

「アンタ、もうこりゃー、告るしかない!」友達が煽る。

「・・・・。」又もや握手をしてしまった。

皆にもみくちゃにされ、もう心臓のドキドキが止まらない。

卒業式もイ・シン先生の事をずーっと見ていて何も覚えていない。

式も終わり皆、教室に戻りもう会えなくなる人達と別れの挨拶、又会える人達と次に会える約束。

色々な想いを皆で語り合い、涙を流し続け最期を迎えた。

友だちは「アンタはまだやり残している事があるでしょ!」

グイッと手を引っ張られ、走り出した。

「何処に行くんだよーー?」太ってるから走るのはキツイ。

「決まってるでしょっ!」

職員室に行ったら凄い人で溢れていた。

我が高校のイケメン2大先生達が3年に囲まれていた。

告られたり、挨拶されたり、プレゼントされたりもみくちゃだ。

それを見た私達の足が止まった。

「あっちゃー。」

「凄いわ。」

「ねー、こんな綺麗なオンナばっかいて、なびかない先生って凄いね。」

でもようやく歩き出した先生は、ビシッと着ていたスーツの乱れを直しながら、職員玄関に行く途中フッと私と目が合った。

「パンダ。」

「イ・シン先生。」

「この一年間楽しかったよ、ありがとうな。」先生は又手を差し伸べた。

「嫌々、皆見てるし。」

笑いながら、私の手を取り,ギュッと握手してくれた。

「オレも卒業しないとな。」先生の声が聞えた。

「??」先生の手が私から離れて行った。

その後ろ姿を見ていると、熱いキモチが溢れていく

イ・・シン・・先生。

イ・シン先生!

「早く追いかけろ!」友達にドンッと押され、私の足はイ・シン先生に向かって駆け出した。

中の上履きのまま外に出て、先生を追い掛けたら


「高校1年の時から、このキモチは変わってません。大好き!」大きな声が響いていた。

イ・シン先生の目の前に、大学の卒業式の映像でよく見るガウンと角帽を被っている

アレは教育実習生?

えー―っ。全然違う!キラキラ輝いていてカワイイーー。

先生を見上げる顔は、好きで好きでたまらないって顔で見ていた。

そして言うだけ言って走って行ってしまった。

それも角帽が取れたのも知らずに、行ってしまった。

男子が取ろうとしたのを止めさせ、拾い大事そうに持った。

なんて顔をしてるんだ。

今まで見た事もない顔。

イ・シン先生の教師の顔じゃない顏。

恋する顔をしていた。

私はただ先生の顔を見ているしかなかった。

先生が車に乗って行ってしまっても、呆然とそこに立ち続け後から来た友達に

「コクった?」と聞かれた。

ブンブンと横に首を振った。

「何でよーー。絶対にイ・シン先生アンタに。」

話の途中で「ねー秋に来た実習生のカワイイ女のひとって。」

「うん?カワイイ?アー―っ、アンタと同じ名前の?」

「同じ?」ビックリ

「そう、確かシン・チェギョン先生だったよ。」

「チェギョン。」そっかー、チェギョンなんだ。

私の名前は、イ・チェギョン

だから先生にとって、この名前は特別だったんだ。

だから私の事パンダって呼んでたんだー。

涙が出て来たが、笑うしかなかった。

「なんだーー、なんだーーー、危うく、告るとこだったー。」

アハハハーーーっ、と笑う。

「どうしたの?」

「なんでもなーーーい。」笑おう、笑ってこのキモチを忘れないと。

アハハ八っ

「アンタ、おかしいよ。告れなかったからおかしくなったか!?」

「イイって、今は笑わせてーーー。」

卒業式の日、私はずーっと泣きながら笑っていた。




アレから、3年が経ち。

私もすっかりと大学生らしくなった。

でも体型はそのまま。(笑)

明洞のドーナッツ屋さんでお昼を此処で食べようと入った。

凄い人。

会計に並ぼうとしたら「・・・パンダじゃないか?」うん?イイ声

振り向いた先には、懐かしい人イ・シン先生。

「先生?」子供を抱いていた。

「やっぱり、パンダだよなー、お前全然変わってないな。」

にこやかに笑うその顔は、先生お得意のクールな顔じゃなかった。

「子供?」

「あっ、オレの子供。ジフンって言うんだ。」眠いのかボーっとしている。

「先生の子供。」何とも言えないキモチになる。

「結婚したんだーー。」

「ああ。」幸せそうな顔。

「パパーーー!ドーナツ買ったよーー!」そこにキラキラと眩しい顔の。

「チェギョン!」嬉しそうに呼ぶ先生の元にやって来た可愛過ぎるこの人の名前で思い出した。

教育実習生のシン・チェギョン先生。

「どちら様?」不思議がる顏。

「あーーー、お前と同じ名前の卒業生だ。」

「あーーっ、そうなんだー。パパがお世話になってました。」ぺこりと頭を下げた。

「双子ですか?」実習生の腕にはもう一人同じくらいの子供が。

「うん。双子なんだよねー男の子のジフンと女の子のウネ。

もう毎日が大変ででも、パパが育児休暇を取ってくれて、子供達を育ててくれたたから、助かっちゃった。」

嬉しそうな実習生。

イ・シン先生は自然にドーナツの袋を持ち「じゃあな。パンダ。」笑う。

「えーーっ、なんで名前で呼ばないの?」

「良いんだ。」恥ずかしそうな顔

「私の名前,イ・チェギョンって言うんです。

イ・シン先生は私の名前一回も呼んでくれませんでした。」

ニヤッと先生に向かって笑う。

「えっ?同じ?」

「パンダって呼んでくれて、まっ体型も同じでしたからね。

イ・シン先生にとってチェギョンって名前は特別だったんでしょうね。」

益々ニヤ付く。

「オイ。」それ以上バラすなって顔。

「だからママって呼んでよーって言っても、名前のままなの?」

頬がピンクになりウルウル目の奥さん。

「パンダ!お前よくもーー。」睨まれたが、そのくらいいいじゃない。

「じゃあ、お幸せにーーー。」私は此処のドーナツを買わずに出た。

店の端で奥さんに抱き付かれて泣かれているイ・シン先生

オロオロしてる。

私はクスクス笑い「卒業ーーー、しました!」ちょっとだけ心にいた先生と卒業した。





「よ――――し、今日は食うぞ―――!」携帯を出して、友達を呼ぶ。

「今日は焼肉食べ放題に集合ーーーー!」明洞に響く私の声。

周りの人がジロジロ見ていたが

「卒業記念なの!」大きな声言い、待ち合わせの場所に急いだ。








皆様、こんばんは。

おまけのお話です。

このお話は、半分は私の体験談です。

中学の時の先生が、私の名前が元カノと一緒という事もあり、よくかまってくれた記憶が。

そして三学期の終わりに、何回も握手してくれて・・。

惚れてしまうやろ!

コホンッ失礼いたしました。

その先生とはそれっきりで‥、シンチェがうらやましい。


では、何時も訪問有難うございました。