イ・ユル先生に付いて、先生の態度、在り方、生徒への想いをたった2週間で身に付けようと私は必死だった。

イ・ユル先生が必要な画材・教材を準備しながら、此処は良い所と言うのを、メモに書き込んでいた。

生徒達とも大分うち解けて来た。

「シン・チェギョン先生!」

職員室で資料作りをしていると、2年の男子がやってきた。

「なに?」最初自分が先生って呼ばれるのが恥かしかったけど、それも段々慣れてきて呼ばれるたびに嬉しくなってきていた。

だから生徒の悩みとか、やり方を一緒にやっていた。

「イ・シン先生、わからないとこがあるので、教えてください!」二人の生徒が真っ赤になりながら、イ・シン先生のとこに立っていた。

男子生徒に教えてあげながら、耳のレベルを全開にして、二人の女子生徒の言葉に向けた。

「先生、どうしても分からないの!」イ・シン先生は、彼女達に丁寧に教えていたが

最後に、紙を渡されて、ジーっと見ていたが

「こういう事は、ダメだからな。判らないとこ教えたから、さっさと教室に戻れ。」

紙を一人の子に戻し、入り口まで送った。

戻ってきた時に、イ・シン先生をあまり見ないようにしていたのに、つい目が合ってしまって、目が離せなくなってしまった。

御互いの視線が絡まる。

「シンチェギョン先生!ボーッとしてないで、ここどうやったらいいんですか?」悩める少年が私を揺さぶる。

先生に見惚れていた私はハッとして、意識を戻した時、イ・シン先生は嫌な顔で私を見ていた。

あっ!そうだよね。

先生に酷いことした女なんか、先生の事見ちゃいけない。話もしてはいけない。

自分自身に言い聞かせ、生徒の方に集中した。





木曜日の夕方からの会議の前に、教育実習生の歓迎会のお知らせと言う紙を渡された

イ・ユル先生がニコニコと笑いながら、私に紙を渡してくれた。

「えっ?」

「各学年に一人ずついるから、三人合わせて歓迎会するから、出席するよね!」ニコニコと笑いながら、紙を指さす。

イ・ユル先生って、普段良い人で、ニコニコしているが、こういう時の押しが強いと思う。

断れない私は「はい!行かせてください」頭を下げた。








会議が終わり後片付けをして、職員室を目指して歩いていると、人の声が聞えた。

もう直ぐ19時になりそうなのに、誰だろう?

辺りを見渡し、声の方に歩いて行った。

「イ・シン先生大好きなんです」

か細く途切れ途切れの声は、緊張、嫌、キモチが溢れ出して押さえるのに一生懸命。

「だから、私のキモチに答えてください。」私は角に隠れながら、二人の様子を見ていた。

「無理だ。」イ・シン先生のイイ声が廊下に響く。

「何でですか!?こんなに好きなのに!」この間の職員室に来た女子達とも違うオンナの子

イ・シン先生に近づこうとしたのに、長い腕が彼女の動きを止めた。

「それ以上近づくな!」左腕を伸ばして、手のひらを向けた。

「お前のキモチは分かった。でも、オレにはいるから。」自分の手を口元に持っていき、ゴールドに輝く指輪にキスをした。

「!!」隠れて見ている私でさえ、引き付けられる優しいキス。

「だから、オレなんかの事早く忘れてしまえ。」その女子生徒に向かって言っている言葉が、まるで私に言っているように聞こえた。

胸に抱えたファイルを持つ手が震えだす。

「こんな30の男より、同じ年頃のオトコに恋しなさい。」彼女の目線まで体の位置を下ろして言う。

「嫌です!」女子生徒が先生に抱き付こうとして。

「オレに抱き付いていいのは、コイツだけだから。」又もや指輪を指差す。

「イ・シン先生、学校だけでも良いの。」

「ダメだ。それに君は口が軽そうだ。オレは相手が嫌がるようなことはしない。」腕を組みながら、彼女を見下ろす。

「それでも、好きなんです。」ボロボロと泣き出しながら走って行った女子高生。

イ・シン先生には奥さんがいる。

そしてとても大事にしている。

何落ち込んでいるのよ、判っている事じゃない。

ボーッと考えていると。

「!」人が驚く気配がした。

見上げた先には、イ・シン先生。

ヤバイ、ボーッとしていてここから離れるのを忘れてた。

「シン・チェギョン先生。立ち聞きですか?教育実習生はそんなことまで教わるんですね。」

その言い方にカッとなった私は

「偶然です!失礼します!」慌てて後ろを振り向き全力で走ろうとして、体が何故か中に浮いていた。

そうだった。ここは階段だよ。

このままじゃ転げ落ちてしまうーーー!

慌てる手は何とかしようと、バタバタと宙を切るが、重力に逆らう事も出来ずに、私の体はグンっと落下した。

「キャー――っ!」

確実に落ちるのを感じた私の見ている映像がゆっくりとなる。

ゆっくりと落ちて行く私の体。

せっかく教育実習で来たのにー、怪我したら皆んなに申し訳ないよー!

最悪な事を考えていた私。

「バカ!」大きい声と共に、グイッと私を引っ張る強いチカラ。

「お前なー、ここが階段だって分かってないのか?お前元々おっちょこちょいなんだから、周り見て行動しろ!」怒られているが、放心状態の私は、ボーッとしたままだ。

イ・シン先生に後ろから抱きつかれた格好で

「・・・落ちなくて良かった。」小さく呟く言葉

私の腰が抜けてしまい、ヘナヘナと崩れてしまった。

「チェギョン!大丈夫か?」イシン先生が心配そうに聞いてきた。

ボーッとしたまま「腰が抜けた。」と呟き、カレの腕にしっかりとしがみ付いた。

「とにかく怪我がなくて良かった。」ギュッと私を抱きしめて、肩のところに顔を埋めた。

夜の19時、部活の生徒もいなくなり、階段辺りはシーンと静まり返っている。

私とイ・シン先生は抱き合い、4年前、初めてシン君先生に抱きしめて貰った時のように心臓が高鳴り続けた。

私の家の前で待っていてくれたイ・シン先生と抱きあったあの日。

初めて抱き締めてもらい、あまりもの嬉しさで震えていたって知ってた?

あの時のように、震えている体。

このまま、ずーっと抱き合っていたい。

そう願っていたのに、いきなりイ・シン先生の携帯の着信音が鳴った。

「!」抱き合っていた体が、咄嗟に離れた。

二人共、この状況をどうしたら良いのか顔を見合わせた。

顔を見合わせている間も、着信は鳴り止まない。

「イ・シン先生。携帯でて下さい。」

私の事をジロッと見て、ゴソゴソとスーツのポケットから携帯を出した。

あっ!4年前と同じのを使ってる。

携帯の画面表示を見て、慌てて電話に出た。

「どうした?」

イ・シン先生は立ち上がり、ボソボソと話をしていたが

「・・・・まだ熱が下がらないんだな。じゃあ、帰るから。」通話終了のボタンを押して、ポケットに戻した。


私の顔をマジマジと見て「怪我が無くて本当に良かった。じゃあっ。」急いで階段を降りて行った。

イ・シン先生の降りて行った方をボーーッと見ていた私。

携帯の会話が聞こえて来た。

気を使って低い声で言ってたみたいだが、聞こえてたもん。

エマの熱が下がらないんだな・・・って。

きっと、イ・シン先生の子供の名前だ。女の子かな?

先生の顔に似ていたら大変だろうな。

男の子ならイケメンだけど、女の子だったら目つきの悪いコだよ。

でもきっと、ミン・ヒョリン先生の綺麗な顔に似てくるって。

腰が抜けてしまい、座ったままイ家の家庭の事情を心配していた私は、いつの間にか泣いていた。

床にポタポタと落ちて行く涙。

何で涙が出るんだろう?イ・シン先生が幸せなら良いじゃない。

アンタは何も口出す事なんか出来ないんだから!

「教育実習の期間が終わるまでに、イ・シン先生のお子さんの画像見せて・・」

涙が溢れてしゃべる事も出来なくなり、今だけ、今だけ泣かせて。







皆様、こんばんは。

イ・シン先生…指輪にキスって・・・。

恥ずかしい・・・・。

何時も訪問有難うございました。

おやすみなさい