「オレとの婚姻断ったんだってな。」冷たい声は、無表情な顔によく合う。

「うん。今日断ってきた。」その表情に耐えられなくて、下を俯く。

「断るってことは、オレの事が嫌いってことだよな。」

「なに直球ストレートで言うのよ。」余りにも的を得た言葉で慌てる。

「そういうことなんだろう?」

「留学するって聞いたでしょ?」

私は、フランスに行ってデザイナーの勉強しに行く。

これは、ずーっと持っていた夢が叶う為のステップ。

だから、絶対に留学するの。

「聞いた。」

「でも、説得されて1年後まで返事は保留になった。」

「オレの事が嫌いなのに、保留だなんて。」

「皇太子が韓国に帰ってくるまでは、大っ嫌いだったよ。1年の時のあわーい恋を踏みにじられたんだもの。乙女の恨みは怖いのよ。」

「じゃあ帰ってきてからは?」ボソッと聞いたカレの声が声がなぜか震えていた。

「皇太子寒いの?震えてるよ。」

ムスッと怒った顔になり「寒くない!早く答えは!?」

「もうすぐに怒る。・・・よくわかんない。」

「よくわかんないってお前。」

「保健室の眠れる王子様かな?」あははははっとごまかす。

「はあ?答えになってない。」ジロッと睨まれた

「まあまあ好きでもないし、嫌いでもない。これが今の私の気持ち。」

皇太子は急に俯き、深いため息を吐いた。

そして顔を上げて私をジッと見つめた後「そっか、じゃあな。」

夜でも分かるほど磨き上げられた車に乗り、1回だけこっちを見たが、車は走り出し、赤いテールランプの残灯が目に焼き付いた。

暫く行ってしまった方向を見つめていたが「彼女のいるオトコなんか。」保健室で泣いてしまった私。

保健室の先生の優しさに又涙してしまった、

「もう、好きじゃない!」くるっと体の向きを変えて、自分の家の門の扉を開けた。










ガラっ!

勢い良く開かれた保健室の扉。

「チェギョン。ちょっと怪我しちゃったんだ。絆創膏。」同じクラスの男が来たので、私は椅子に座ったまま返事をしようとしたら。

「いやっ、いい。やっぱ大丈夫だよ。」苦笑いをしながら保健室を出て行った。

「あっ!ちょっ、ちょっとーー!」部屋のドアを開けながら呼び止めても、走り去って行った。

「もー―っ、怪我したんだからちょっとぐらい見せてくれても。」中に入りながら言っていると。

ベットの上の人と目が合う。

「もーーーー!なにその威嚇している目!」目を吊り上げて、ベットの上の人と睨みあう。

「失礼だな普通の目付きだが?」淡々と言う

「もう、殿下がそこにいるだけで、皆誰も入ってこないんですけど!」肩肘で頭を支えていた殿下は、むくっと身体を起こした。

ワイシャツを脱いでタンクトップとスラックスで寝ていたカレは、脇に置いてたワイシャツを着てボタンを掛けていく。

最初の頃は、ワイシャツのボタン2つ位外していたのに、今じゃワイシャツを脱いで、横になっている。

もーーっつ、わざとやってるんじゃない?その様子を見ていた私の心臓は急速に暴れ出す。

だって、ワイシャツとタンクトップの隙間からは、肌が。

韓国の男性としては珍しく浅黒い色の肌が見え隠れする

そして最後のボタンを掛けた途端「時間だ。」ベットから降りて、上着を羽織り姿勢を正した。

私も壁の時計を見上げると後、後10分で授業が始まる時間だ。

「あっ。返しに行く時間だ。」慌てて今日の保健室を利用したファイルに手を掛けた時。

一人の名前を見てしまう。

イ・シン

毎日のように保健室に来て、ただ横になっている。

嫌々、来る人来る人につめたーーい目線を向けている(私は氷ビームと命名している)

殿下のお蔭で、ここを訪れる人がだいぶ減ってしまった。

そんな殿下もたまに来れない日は、公務の時や私が保健室に居ない時だ。

これは何を意味することなのか考えないようにしていた。

「ほらっ。もう出るぞ。」扉の前で殿下は私を待つ。

「あっ!待って!」慌ててファイルと鍵を持ちバタバタと出ようとすると、カレが私の持っているファイルと鍵を取り扉の鍵を掛けた。

「ありがとう。」最初の内は、自分でやるって言っていたが「オレがやる。」背の高さと腕力を使い、私が持っているファイルを奪った。

何度も繰り返していたが,もう諦めた。

二人並び、職員室を目指す。

気を使ってカレの後ろを歩こうと遅くなると、カレは私の歩調に合わせ隣に並ぶ。

自然に寄り添って歩く私達。

周りのみんながヒソヒソ、ニヤニヤと見守る中、カレは素知らぬふりで職員室を目指す。

職員室に着き、ファイルを返し終り廊下に出ると壁にもたれて私の事を待っているカレ。

丁度ここは、映像科の校舎と美術科の校舎の分かれ道。

「じゃあ。」私は今日も此処でのあいさつをして自分の校舎に歩き出したら、スッとカレは私の隣に立って歩き始める。

「殿下なんでついてくるの?」

ポケットに手を入れて歩いていたカレがいったん止まり、私を見下ろす。

私もカレを見上げて答えを待つが、何も答えずに又歩き出した。

「もーー!」歩き出したカレなのに、私が付いてくるのを待っているみたいだ。

カレがこんな行動をとっているのか判らなかったが、私の足は自然に殿下の元に辿り着き一緒に歩き始めた。

美術科に着き、私は今度こそ殿下に挨拶をする

「じゃあ。」軽く手を振り中に入っていくと、カレは映像科に向けて歩き始めた。

一旦中に入った私なのに扉まで戻り、殿下の後ろ姿を見つめる。

「何でこんな事するのよ。」小さな呟きは、私の肩に手を置いたガンヒョンにしか聞こえなかった。

「アンタの旦那もマメだねー。」

「旦那って、何言ってるの!」ガンヒョンの声でビックリした。

「もう学校では、公認カップルなんだから。」ニヤッと笑う。

「嫌々、そこんとは否定して。」私の手は横に揺れる。

「でも、どう見てもカップルでしょう?」

「なーんにも言われてないし、それに殿下には彼女さんがいるし。」教室の中に戻りながら、話を続ける。

「あ~っミン・ヒョリンっかーーっ。忘れてた。」しまった顔になる。

机に座り、次の授業の準備をしながら私達の会話は終わらない。

「そう、そう私達には何にもないの!」チッチッと指を振る。

何にもない・・・まーーっ。これは嘘だけどね。

許婚。

でも、私は1年後にも断るつもりだ。

だって、全てに対して無理がある。

妃教育もダメ、殿下には愛しの彼女さんがいるし、無理無理。

だから、10年後に自分の子供に皇太子の許嫁だったんだよって、笑い話しにしようと思う。

教室の扉が開かれて担任が「ほらっ、授業を始めるよーー。ちゃんと席に着きなさい。」言いながら入ってきた。

先生の一言で、現実に戻った私は大慌てで、ペンケースからペンシルを取り出した。









午後のベルが鳴る少し前に自分の席に着いた。

目の前に座っていたインがオレの方を向いた。

「今日も騎士は、姫を悪い虫から守り切ったのか?」ニヤッと笑う。

オレは,前の椅子をガンッと蹴った。

「オイ、痛いぞ。」それでもニヤニヤ顔は止まらない。

「今日は,男2人が来た。」アイツら絶対にチェギョン目当てだ。

「目つきがハンパないんですけど。落ち着けって。」インは笑いながら「お前が昼休みあそこでチェギョンの事見張ってるから、大分男達が寄らなくなったんだから、さすが皇太子。」

「で、お姫様はお前のキモチに気付いているのか?」

首を横に振る。

「もういい加減言ったら良いじゃないか。」

「焦らない、確実に彼女のキモチがオレに向いてくれたら。」

「じれったいなー、さっさと言わないと伝わらないぞ。」

仕方ないじゃないか、高1の時に彼女のチョコを無視しておきながら、自分が好きになった途端、許婚になれって、そんな都合のイイ話。

この恋は慎重にいかないと。

インにもギョンにも許婚の事は内緒にしてある。

チェギョンが留学から帰って来て、本決まりになったらちゃんと二人にも伝えようと思っている。

授業が始まり、インは前を向きオレはテキストを開いた。











それからというものオレは、慎重にしないといけないのに、時々暴走してしまい保健室で彼女の反感を買って怒らせたり、泣かせたり。

彼女とオレだけの昼休み時間を楽しみ、教室に送り届けた時、彼女にお菓子を一個渡す。

世界各国から届けられる珍しいお菓子を、彼女の為だけに渡す。

そして、彼女の笑顔を独り占め出来るという特権を得る。

人の為に何かをするという行為をした事のなかったオレなのに、彼女の為にお菓子を選んでいる

たださえ可愛いのにあの笑顔が見たくて、コン内官に無理をさせてばかりいた。

この間、ベルギー産の美味しそうなチョコを持ってきたら、彼女はすまなそうな顔をしながら「ごめんなさい、チョコは食べれなくなってしまったの。」下を俯き、声に少しだけ震えが入る。

「あっ。」今よりも子供だった高1の行動に、いまさら悔しがる

周りの音が聞こえなくなり、二人だけの空間にいる様に沈黙が流れる。

「済まない。」ようやく出た声は、擦れた声で彼女にもようやく聞こえたみたいだ。

「謝らないでよ。殿下にはミン・ヒョリンさんって言う彼女がいるんだから、私なんかのチョコ受け取らないのが正解なんだよ。」顔を上げて苦笑いをする。

あぁ、ミン・ヒョリンか。

忘れてた。

最近、オレの頭の中にはチェギョンの事しかなく、思い出す事もなくなった人。

高1からの彼女だったミン・ヒョリン。

綺麗で、静かな女だった。

2人で寄り添い、お互いの悩みを分かち合う。

初めてオレの事を分かってくれる人だと、ずっとこのまま過ごせると思っていたのに。

ミン・ヒョリンは学校の交換留学生に決まった途端、オレとの付き合いを止めてまで旅立った。

その後、彼女を追いかけオレも留学したが、バレエに忙しい彼女とは中々会えない日々。

宮からは許婚との婚姻を進められて、焦ったオレは彼女にプロポーズをしてしまった。

彼女は何時ものようにオレにキスをしながら、プロポーズを断った。

「まだまだバレエがしたい。」お互いを慰めあっていたのに、彼女の言葉には夢と希望が満ち溢れていた。

彼女は、オレとは違う道を歩み始めた。

もう関わる事はない。



それよりも、オレは、隣に並んで歩いているシン・チェギョンに振り向いてもらいたい。







何時も通りに二人並んで職員室に着き、殿下は廊下の壁に凭れ私を待つ体勢をとった。

職員室の中に入り、殿下から受け取ったファイルと鍵を返して外に出ようとした時、美術科の担任に呼び止められて意外な言葉を聞かされていた。

「パリに交換留学していたミン・ヒョリンが練習中に怪我をしてしまい、短い期間だけど代わりの生徒を行かせないといけなくなったので、選考で2番だったシン・チェギョン。

チェギョンを行かせたいと、先生方の意見が一致したんだけど、どうかしら?

それに、チェギョンは高校を卒業しちゃうとパリに留学するんだったよね。

ちょっと早めの留学と思えば、悪い話じゃないと思うわよ。」担任が嬉しそうに言う。

「・・・・。」

「チェギョン、どうしたの?」

「・・ビックリ過ぎて。」

「そうだよね。考える時間は限られているから、親御さんに言ってみて。さーーっ、授業が始まるから行った行った。」グイグイと押された。

ボーっとしたまま、廊下に出たカレと目が合う。

午後の授業の5分前の予冷が鳴り響く。

この廊下には、生徒の姿が一気にいなくなったが、殿下はずーーっと私の事を待っていてくれた。

壁に凭れた姿勢を止めて、私の傍に寄ってくる。

「どうした?」

「・・・・。」

「オイ!シン・チェギョン!」殿下の強めな声にビクッとなる。

ハッとカレの顔を見上げて見る。

毎日保健室から、教室まで一緒に居てくれる殿下の存在が無視出来ないモノになっている。

交換留学に行ってしまったら、殿下どう思うんだろう。

選ばれた事を喜んでくれる?それとも行くなって引き止めるの?

「チェギョン。」私の様子が変な事に気が付いた殿下の声は優しいトーンに変わる。

カレへの恋心を諦めてしまった私なのに、見上げた先には殿下の顔しか見えない。

「殿下あのね。」言葉に詰まる。

「どうした?」状況が分からない殿下の不安な顔。

「チェギョン涙が」あっ!?頬を触ると冷たい。

自分でも気づかない内に涙が流れている。

「あれ?何でだろう。ごめんね急に泣いちゃって。」ボロボロ落ちていく涙をハンカチを使って止めているが、止まらない。

急に目の前が暗くなった。

ギュッ

暗くなったんじゃない、殿下が私の事を抱き締めているんだ。

細い体なのに、抱きしめられた腕の強さはオトコなんだと改めて思う。

息が苦しいほど抱きしめられている時、職員室のドアが急に開き、こんな所で2人抱き合っているところを先生達に見られたら、怒られるにきまっている

殿下は慌てて職員室の隣の資料室に逃げ込んだ。

「何でここに?」抱きしめられたまま上を見上げて聞く。

「お前の泣いてるとこ、誰にも見られたくない。」ボソボソ呟いた言葉。

「殿下。」

「殿下って呼ぶな。」

「他の奴らと同じ呼び方するな。ちゃんと名前で呼べ。ずっと言いたかった。」大事そうに何度も抱き直される。

狭い資料室に私達二人しかいない。

「無理。」

「お前―、こんな状況だったら名前で呼ぶのが普通だろう?」抱きしめていた体を少し離し、私を睨む。

「だって、急には呼べないよーっ。」

「無駄な抵抗はするな。」殿下の手は、私の頬をギュッと挟んだ。

「ちょっ!ちょっとーーっ、止めてよ!」ジタバタと暴れるが、殿下の力には負ける。

「ほらっ,言え。」

「名前忘れた。」

「ほーー―っ、オレの名前を知らないって、お前どこの国に住んでるんだ?」殿下の目が嫌味な目付きに変わっていく。

「韓国です。」

「じゃあ、特別だ。イ・シン。お前の前だけはその名前しかない。」真剣な目にくぎ付けになってしまう。

頬を手で包まれたまま、殿下の顔が近づいてくる。

「ほらっ、名前呼べ。」ジーッと見詰められたまま、時が止まっている。

ギュッと目を瞑り、この状況の中震えだす声。

「イ・シン様」

「様なんかいらない。」

「だってーーー。」

「お前の前だけはただのオトコだ。」強めな口調は、目を瞑っていても分かる。

「シン…シン君。」ボソッと呟いた言葉。

「シン君?なんだ。それ。」怒り口調の殿下。

「それ以外は、無理!」自分でも分かるくらいに頬が熱い。

「仕方ない。」ふーーっと溜息を吐く音がして、私の鼻をギュッと摘まんだ。

「二度と殿下って呼ぶなよ。」

「ちょっとーー!痛かったでしょ!」目を開き、抗議をしたけど、殿下は知らない振りをして、私の右手を掴み自分の手にしっかりと握りしめた。

「!!」ビックリして顔を見上げると、殿下もまた照れてるっぽかった。

二人目線も合わずにこの資料室を出て、シーーンと静まった廊下に出た。

この時間はまだ授業をしているので、見つかるとまずい私達は職員室から段々離れて行く。

ゆっくりと手を繋ぎ廊下を歩く私達。

私が殿下と手を繋ぐなんて、さっきまで考えられない事だった。

私はチロッと殿下を見上げる。すると殿下と目が合う。

なんだ?と言う目線が下りて来る。

そうだ、あの事を聞いてみよう。

私は勇気を出し殿下に「あのね。」私の問いに立ち止まるカレと私の足。

「私の留学、学校卒業してから。」真っ赤になりながら殿下に伝えようとしたら。

「シン!」

私の後ろの方から女の人の声が聞こえた。

殿下の顔が驚きの顔に変わる。

「シン!」声の方向を振り向くと、松葉杖をつき、ギブスでガッチリと固定された足を上手く移動させながら近づいてきた女の人。

「シン!会いたかったーー!」殿下の顔を見てホッとしたのか、泣き始めるミン・ヒョリンがいた。

「シン・・会いたくて、会いたくて。病院から抜け出してきたの。」あの学校一の美人さんが何時も綺麗でバレエのように上品だった彼女が、ボロボロ泣きながらもう1度歩こうとしたら躓き、バランスを崩してしまい床に倒れこんでしまった。

「ヒョリン!」私と殿下の体は助けてあげようと自然に動いたが。

殿下の動きの方が早かった。

彼女を支えてあげながら「ヒョリンこのギブスは?」松葉杖を持ち、ギブスをマジマジと見つめ。

「バレエは?」

「出来なくなってしまったの。」殿下の前で、ボロボロと泣き出すヒョリン。

「もうどうしたらいいのかシンに話ししたいけど、最近全く連絡取れなくなってしまって、私どうしたら。」殿下に抱き付き泣き続ける彼女。

私はただその二人の様子を黙って見ているだけだった。

足が動かない。

此処の場所から直ぐにでも立ち去りたいのに。

動かない足。

忘れてた。殿下には愛しのヒョリンがいたんだったね。

あははははッ、何勘違いしてたんだろう。

自分の立場を理解した途端、足が動き始めた。

早く行こう。一秒でも早く逃げ出そうとしたら、私の目の前で。

ヒョリンは抱き付いたまま自分の唇を殿下の唇に重ねていた。

ギューーーと重ねている唇と唇を間近で見てしまい、私の心は悲鳴を上げてしまった

グイグイと奥深くまで、心臓に杭を打たれたような。

見たくない。

殿下へのキモチを判らない振りで見逃していたのに、心臓を押さえながらその場所を離れた。

もう嫌だ、二人のキスするとこなんか見たくない。

バタバタと走る私が向かう先には、何時もの文字が見える。

鍵を返したのをわすれたのに、何時もの場所に来てしまった。

開かないはずなのに、なぜか扉が開いた。

「あれ?シン・チェギョンさん?どうしたんですか?」優しい声が聞こえる

「先生----!」スカートの生地をギュッと握りしめボロボロと泣く私を先生はビックリした目で見た。

「泣いてますね。君の泣き顔を良く見ます。」先生は私に近づき立ち止まった。

「保健室を利用したいんですけど。」ようやく言えた言葉は嗚咽で変な言葉になっている。

先生は優しく笑い「良いですよ。いっぱい泣きなさい。」私の頭を撫でながら、ポケットティッシュを渡してくれた。

「先生、足りません」じゃあと言って箱ティッシュとタオルを持って来てくれた。

「じゃあ、僕は資料を取に来ただけなので、もう行きます。あっ担任には言っておきますから。」又頭をポンポンと撫で出て行った、

一人この白い世界に取り残された私。

馴染みの消毒液の匂い。清潔な場所に包まれたままタオルを顔に押し付けた私は、涙が枯れるまで泣き続けた。








次の日。

私は美術科から出なかった。

昼休みになってもこの教室に留まり、ガンヒョンと過ごした。

そして、昨日泣き腫らした顔で家に帰って、家族に相談した結果。

「先生、ちょっといいですか?」昨日の話の事かな?と言う先生。

「はい、交換留学の話、受けたいと思います。」

「決めたんだ。元々留学の予定だったからね。」先生は嬉しそうに私の頭を撫でてくれる。

「チェギョンの才能はあっちに行ってもっと開花する、このチャンスを生かして。」

「先生、どうしたの?先生らしいね。」からかう私。

「良かった、チェギョンの顔泣き腫らした顔してたから、家で嫌な事があったかと思ってたんだ。」

「そんなことないです。」作り笑顔を張り付けた。

「じゃあ、ちゃんとした手続きしよ。放課後職員室に来なさい。」判りましたと言う返事と共に頭を下げた。

ガンヒョンの傍に行き「先生に言ってきた。」

「そっかー、本決まりかーー。チェギョン。」

「何?」

「私が寂しいって事判ってる?」

「うん。判ってる。」二人の真剣な顔。

「あっちに行っても頑張ってね。アンタなら絶対出来るから。」ガンヒョンは私の手を握りしめながら言った。

「ありがとう。」泣き腫らした顔で登校してきた私を見てビックリしていたが、優しく接してくれたガンヒョン。

その時の思いも一緒に言葉に込めた。







放課後。

職員室で先生方との交換留学生の説明を受け、手続きをした、

今週の土曜日に出発だそうだ。

早い、でも殿下の事を考えたくない私にとって助かる。

大きい封筒を手に持ち、帰ろうと玄関を目指していたが、途中の家庭科室の辺りから、良い香りがして来た。

誰だろう?

ドアのガラスの向こうをこっそりと見ると。

殿下とミン・ヒョリンが何かを作っているみたいだった。

ズキンっ!!

昨日のように、心臓が痛みだす。

松葉杖の彼女を座らせて、エプロン姿の殿下は一生懸命作業をしていた。

交換留学生の封筒を握りしめ、私はその場所を立ち去った。






自分の部屋に入った途端、深いため息を吐いた。

交換留学生に必要なパスポートは、使うと思って手元に持っていた。

書類を書き終わり、机に座った私。

机の端には、殿下から貰ったお菓子がいっぱいバスケットの中に入っていた。

それをじーっと見ていた私の手がお菓子に向かう。

殿下から貰ったお菓子が勿体なくて、ずーっと貯めていた。

今まで食べなかったが、一個掴み「これは1か月前のマロングラッセ。」包装をガサガサと開けて中身を取りだす、

「今日は、全部頂きます!」マロングラッセをポイッと口を開いて、手は次のクッキーを持っていた。

殿下の優しさに甘えていたんだね。次のクッキーもポイッと口の中に消えて行った。








土曜日。

私は仁川空港にガンヒョンとやって来た。

クラスの人や先生とは、昨日のお別れ会でいっぱい泣き別れを惜しんだ。

ここには、ガンヒョンと二人だけでやってきた。

2人でブラブラと中を見たり、食事をしたり最後の別れを楽しんでいた。

そして定刻通りにパリ行きのアナウンスが流れ始め、私とガンヒョンの顔付が変わり真剣な顔になる。

「チェギョン、頑張りな。」

ガンヒョンが私に励ましの言葉を言っている時に

「チェギョン!」オトコの声が聞こえた。

私は声の方向を振り向くと

ガラス張りの空港のなので、逆光でその姿は近くに寄らないと誰だか判らなかったが

その背の高さ、体の細さは見た事がある。

走ってきたんだろう.荒い息を繰り返して私の傍に辿り着いた。

「お前に渡したいモノがある。」

イ・シン。目の前で呼吸を整えようと頑張っている殿下がいた。

「殿下、なんでこんなとこに?」

「お前が今日留学に行ってしまうって聞いて、慌ててここまで来た。」

すると、後から殿下のお友達二人も走ってやって来た。

「シン、間に合ってよかったな。」2人とも息が荒い。

殿下は私に紙袋を差し出してくれた。

何も言わずに差し出された紙袋を受け取った私は、中身が重いことを知る

「交換留学の事、何で言ってくれなかった?」

「・・・。」ガサガサ紙袋を何度も触る。

「留学から帰ってきた途端、オレの頭をトレイで叩く女に一目惚れした。

好きなんだ。留学が終わるのを待ってる。」皆にばれるのはまずいので、サングラスとマフラーでしっかりと変装している。

「殿下、キモチありがとう。じゃあ、もう行くね。ガンヒョン、毎日ラインするからーー。アッ、殿下のお友達さん達もありがとうね。」私は殿下に小さくバイバイと手を振った。

「チェギョン?」ギュッと掴まれた手。

「殿下もう行かないと。」手を離そうともがく。

「ちゃんとキモチ聞いてない。オレはお前の事を待ってい」話を遮って殿下に伝える

「待ってなくていいよ」

手を払い検査場に行こうと歩き出そうとしたのに

「チェギョン!これ」殿下は自分のマフラーを外して、私の首にグルグルと巻いた。

「お前が何と言おうと、待ってるから!」

私は、逃げる様に検査場の中に入って行った。








皆様、こんばんは。

何時も訪問有難うございます。

バタバタとお話が進んでいきますが、許してください。(謝)

おやすみなさい