可愛く、そして華やかな花束

アレから日にちが経ち、花束は萎れてきた。

それも、半分は潰れているので、痛みが酷い。

何時ものオレだったら、花束なんて捨ててしまうのに。

アイツが一生懸命真剣に言うから、持ってきてしまった。

人前で、このオレが叩かれるなんてありえない

それも同じ女から、2回も!

1回目なんて、頭からトレイごと叩かれた。

とんでもないオンナだ。

アイツが自分で言う「10メートル以内、近づきません!」

当たってる。もう絶対に近づかないで欲しい。




オレの目線には花束が写り、ちょっとだけ時間が止まる。


近づかないでほしいと思っても、アイツとは会ってしまう。



最初は偶然だった。

婚約の為、留学から突然戻され、ヒョリンにプロポーズを慌ててすれば断れ、悲しみの帰国だったのに。

久し振りの登校は、余りにも印象が強すぎた。

オンナは高1の時の、散らばるチョコを思い出せた。

カラフルなチョコが入った大きなバスケットを持つ手は、傷だらけだった。

この国では、綺麗な手足が美人というお国柄なのに、そのオンナの手は、お世辞でも綺麗だとは言えなかった。

だから印象に残っていた。

高3の時に会っても、女の手は傷だらけだった。

それも理由は、最近判明した。

彼女の作り出す花束の創作力。

とても高校生レベルではない。

彼女の傷だらけの指の動きに、惹きつけられる。

ずーっとその作業を見ていたいと思うのは、初めての感情。

ヒョリンのバレエをしている姿も、綺麗だと思う。

でも、只綺麗としか思わない。

何百回も見ているのに、心が動かない。


でも、アイツのは違う。

一つ一つの花達に掛ける思いが違い過ぎる。

傷だらけの指達が動き、花達を重ね、束ね、段差をつける。

アイツの指から、魔法でも出ているんじゃないかと思うくらいのモノが出来上がる。

こんなの見た事がない。

「宮」での生活で、花と言う潜在は絶対だ。

それも、一流の腕前が作り出す花達が、咲き乱れている。

小さい時から、こんな環境で育っているオレの目も、年の割には肥えている。

そんなオレを唸らせるオンナ

こんな凄いのを作れるアイツは、とんでもない化け物だ。

今日は日曜日。

日にちは経った筈なのに、右頬が時々痛む。

女の左手で叩かれたので、全く痕も残らなかった、が、アイツを思い出すと右頬がジーンと痛み出す。

今日は婚約者が宮に来るそうだ。

オレに内緒で勧めていたらしいが、コン内官がひっそりと教えてくれた。

「日曜日に、殿下の婚約者がお見えになれます。」

「フーン。オレに教えないでひっそりと来るんだ。皇帝陛下達の下調べだな。で、良かったらオレに会わせるって魂胆か、面白い。」

「殿下?」

「コン内官、明日から学校に行かずに、公務職務を週末に詰めて、日曜日は何も予定を入れないで下さい。」

「殿下?」

「自分の婚約者なのに、大人が勝手に決めるのは、趣味じゃない。オレも品定めします。」

「殿下ーー!」焦るコン内官。

学校を休んでの公務・職務は大変だったけど、何とかこなした。

一日フリーなんて、久し振りだ。

好きな本を読んでいても、なぜかあの萎れた花束が目に入る。

「ちゃんと持って来たのに!なぜ。目に入る!?」読んでいた本を横に置き、オレは答えない花束に聞く。

アイツが作ったこの花束は、ヒョリンに渡す事は出来なかったが、画像は送った。

オレの大好きなヒョリンへの、誕生日プレゼント。

形有るものを送ったのは、初めてで、完璧な写真を送ろうと何度も撮った。

スマホをテーブルから持ち上げ、ギャラリーを開いた。

そこに、シン・チェギョンが持っている画像がいっぱいあった。

1番上手く取れた花束だけをトリミングして、ヒョリンに送ったけど、彼女が花束を持ったのが、何十枚もあった。

映像科なので、撮影にはうるさいオレは、何度も彼女を撮った。

引き攣った顔、ぎこちない顔から、段々余裕が出てきて、安心した顔、変な顔、可愛い顔。

うん?今可愛い顔って言った。

よくよく見ると、シン・チェギョンは、オレの目から見ても可愛い部類の女子だった。

花束を持ってニッコリと笑う彼女の顔は、何時もよりも何十倍も可愛い顔だった。

ジーーーッと画像を見ていると。

コン内官が静にオレの部屋をノックした。

「殿下、到着したそうです。」控えめなコン内官の声。

「判りました」オレはスマホをジーンズのポケットに突っ込み、部屋のドアを開けた。

この宮の構図は全て頭に叩き込んである。

オレは一目散に、客が来る筈の部屋に向かった。



肝心の部屋の隣に忍び込み、堂々とではなく密かに見てみようとした。

コン内官を入り口に立たせ、聞き耳を立てる。

「この婚約はなかった事にお願いします。」女の声がハッキリと聞こえた。

「今なんと言いましたか?」聞き返す母の声。

「婚約はなかった事でお願いします。」

「お父上の遺言を、破棄すという事ですか?」父の声。

「はい!とんでもない事を言っていると思いでしょうが。この世の中に、勝手に決められた婚約者と結婚するなんて、ありえません!」

「しかし。」おばあさまの声

「我が家には借金もなく生活しております。それに私には結婚を考えている男性がおります。だから皇太子殿下との婚約は破棄させて頂きたいと思います。」

「結婚したい男がいるんですか?」

「はい!」しっかりとした声。

「まあ、それでは仕方ない。」母の声

「いや、心変わりが有るかもしれないではないか?もし良ければ1年間この事は保留にしてはくれないか?」

「えっ?」

「男女の間は、色んな事が起こる。そなたの好きな男性の好みも変わるかもしれない。」

「どうしてそこまで?」

「私の旦那様とそなたのおじい様との約束をどうしても叶えさせたいのです。」おばあさま、そんなに結婚させたいんですか、オレの顔がげんなりとなる

「私、高校を卒業したら留学するんです。」

「それでも、猶予をくれまいか?」

オンナからの返答はない。

「留学して色んな事を学びいろんな人と付き合い、そして大きく成長した時に、この宮の皇太子の事を考えてはくれないか?」

「1年半後には、又断るかもしれませんよ。」

「その時にはもう諦めよう。」

「それなら。」

「おっ!良いのか?私の思いは通じたみたいだ。そなたの留学費用、宮で持ってあげよう。」

「いえ、結構です!奨学金の申請来週にしますので、お気遣いなく。」

「では、シン・チェギョン嬢。一年と半年後に此処で又お会いしましょう。」




えっ?今なんと言った?シン・チェギョンと言ったか?

知ってる名前が出て、ビックリしてしまったが、オレは慌ててドアの隙間から姿を見ようとした。

尚官を先頭に、女が出てきた。

その姿は確かに。

オレの事を2回も叩いた女だった。

シン・チェギョン、お前がオレの婚約者だったのか?

お前は何処までオレの事を驚かせるつもりだ?

髪の毛を二つに結び、赤いジャケットに白いスカート姿のシン・チェギョンは段々離れて行った。








皆様、こんばんは。

何時も、訪問有難うございます。

ようやくこのブログのテーマ別のやり方を覚えて、少しずつ移動しております。

皆様にはご迷惑をお掛けしておりましたね。【汗)

休み時間中にやろうと思っても、ご飯食べてしまうと寝てしまうので、中々進みません。

気長にお待ちください。

では、おやすみなさい。