「あっ!シン様、朝ごはんの準備できましたーー。」

パタパタと近づいてくるチェギョン。

鏡に映る制服姿のチェギョンは、可愛い。

大学の時、彼女に制服のコスプレを着せている奴がいて、呆れていたが。

最近、その気持ちが判ってきた。

髪の毛を下ろしていると、可愛さ倍増で、こんな可愛い姿を誰にも見せたくないオレは、彼女の髪型をお団子頭にさせる。

たまには下ろしたいと言っても「じゃあ、貴方の周りにボディガードをつけますよ。」強制的に「止めます」と言わせる私。

なので、部屋にいる時は髪の毛は下ろしっぱなし。

オレは、ワイシャツのネクタイを結んでいる途中なので、後ろを振り向けないまま。

「判りました。ちょっとだけ待っていてください。」断りの言葉を言って、ネクタイを結び続ける。

急に、ギュッと彼女の体がオレを抱きしめた。

「チェギョン?」

「すみません、あまりにも背中がカッコ良くて。」オレの背中に頬を当てて溜息を吐いている。

「・・・・。」背中に熱い頬の温度が伝わる。

最初の頃なんて、自分から進んで触れなかったのに。オトコの体に慣れた彼女は思うがまま体に触れてくる。

「シン様、背中までカッコいいなんてずるいです。」

彼女は、オレの背中が大好きで良く抱きつかれる。

オレとしては、抱きつかれるのも好きだけど、やっぱ、柔らかい彼女を思いっきり抱きしめる前からの方が好きだけど。







休日の朝、タバコを吸っているとベットからトコトコとオレの元に来て、背中を見る彼女

「シン様の背中から腰のラインが好きです。今度絵描いても良いですか?」

「さすが、美術科ですね。」

「シン様の肌ってちょっとだけ浅黒いんです。それに綺麗な肌、あっこんなとこにほくろが二つ並んでいます。シン様の背中大好きです。」

「大好きなんですか?」

「はい!」

「もしこの背中に傷がついたり、やけどになったら私の事嫌いになってしまいますか?」

「まさか!嫌うなんてありえません!」ギューーっと抱きしめてくる彼女。

「本当ですか?肌がボロボロになったり」

「だって、それでもシン様なんでしょ?ただの普通の男イ・シン様、私の旦那様です」

私の置かれている状況を知らない彼女は、素直に私への想いを言ってくれる。

「ハハハ八っ、嬉しい言葉言ってくれますね。」

彼女の腕を離し、オレは彼女に向き合い「チェギョン、貴方が私の許婚で本当に良かったです。」

ギューーっと抱きしめてあげた。








少し前の事を思い出しながら「チェギョン、抱きつかれているのは凄く嬉しいのですけど、ご飯食べないといけません。」

「はっ!」慌ててオレの背中から離れる。

「もーーーっ。やっぱ魔性の背中です。何も出来なくなります。」困った顔でオレを見上げる。

「あはははっ。魔性ですか。じゃあ私にとって魔性の唇とキスしたいんですが?」ニコッと笑う。

オレの背中を堪能して、頬を染めていた彼女の頬がもっと赤くなる。

「恥ずかしがっている場合じゃありません。早くしてください。」

「じゃっじゃあーっ。頬で。」真っ赤になった彼女はつま先立ちしながらオレの頬にキスをしてくれた。

「早すぎて、蚊が止まったかと、もう一度して下さい。」済ましてネクタイをもう1度結び直す。

「シン様ーー。」

知らない振りをしながらも、彼女にキスをしやすいように、体を傾けた。

諦めた彼女はさっきよりもゆっくりと、キスをしてくれる。

オレの動いていた手が止まり、彼女のキスを感じていようと。

「アンタ達、遅いから呼びにきたら、なにイチャイチャと。」洗面所の入り口に、私の姉が腕組みながら立っていた。

「ヘミョンおねーさま!」ビックリした彼女は慌てて私から離れていった。

「チッ。」ジロッと睨んでしまった。

「チェギョンちゃん、こっちに来なさい。アホが移りったら大変ーー。」チェギョンの腕を引っ張ろうとしたが。

「チェギョンは私の嫁ですよ。ねーさんには触らせません。」ギュッと抱きしめた。

そして、シッシッっと手で振った。

「ちょっとーー、犬じゃないわよー!」プンプン怒るねーさんの横を通り過ぎながら

「さっ、チェギョンの作ってくれた朝ごはん頂きますか。」ギュッとチェギョンの腰を離さなかった。









オレはこの苦痛に耐える為に、チェギョンと結婚してからの日常や実家に泊まった日を思い出していた。

早くこれを終えて、チェギョンに会いに行かないと。

きっと泣いているだろう。早く安心させてやらないと。

「つぅ・・。」

何事にも耐え忍ぶように育てられた筈なのに、この小さな痛みは結構身に染みます。

愛する者を得て、オレが変わったせいなのか。

会いたい。

初めて愛した子。

早くあのマシュマロのような柔らかい体を抱きしめ眠りにつきたい。











私の目の前には、ものすごくでかい門が聳え立つ。

門には、イ家の家紋がデカデカと見える。

そう、ここはシン様の実家

車で2回ほど来た所だが、なんとか記憶を頼りにようやく着いた。

ちゃんと学校が終わってから来たので、辺りは暗くなりつつあった。

だってシン様は必ず「学校はちゃんと行きなさいって。」言っていたから。

ドデカイ門の前には厳ついオニーさん達が立っていたが、皆私を見ると深々とお辞儀をしてくれた。

「あっ、そんなに丁寧な挨拶はーっ。」オロオロしていると

「シンぼっちゃまの奥様には、ちゃんとした挨拶をしないといけません。」私よりも20才位上の人が礼儀を弁えて言う。

「奥様・・。」そうだ。私はシン様の奥さんなんだもの、ちゃんとした挨拶しないと。

オロオロと慌てるのを止め、ちゃんと皆さんに挨拶をした。

「シン・チェギョンが来たと、お伝えください。」

その言葉で、皆がハッとしながらも、行動を起こしていた。

家の中に通されて、応接間に通された。

サイドボードの上には色んな写真が写真立ての中に納まっており。

1つデカくて真新しいのがあった。

シン様と私の写真だった。

この間お泊りした時に、撮ってもらった写真。

ポーズがちょっと違うのが私達の部屋にもある。

実家なので髪の毛を下ろしているシン様、最高にカッコイイ。

ボーっと見惚れていると。

扉が開き、お母様とオネーさまがいらした。

「チェギョン・・・。」私の泣き腫らした顔を見て、ビックリしている。




そう言えば、このまま学校に行って、私の顔を見たみんなに驚かれた。

そして、ガンヒョンだけにこの事を伝えた。

「あの大人の人だもん。やっぱチェギョンの事物珍しさで結婚したんだけど、もう飽きちゃったんだよ。」

「そんな事ない!何か大事な用事があって。」

「じゃあ、もう泣かない!」彼女の大きな声にビクッとする。

「ガンヒョン・・。」

「じゃあ、信じて待っていな。指輪買う時のチェギョンの旦那は、本当に嬉しそうだったから。私もチェギョンの旦那の事信じてあげるよ。」ポンポンっと頭を撫でられる。

ガンヒョンのカッコ良さに、涙はますます止まらなくなってしまった。





スッゴイ顔のまま私は二人に向き合う。

「お母様、おねーさま。シン様がいなくなったんです。なにか心当たりはありませんか?」遠慮、遠まわしの言葉なんて煩わしい。

お母様とおねーさまは顔を見合わせる。

ちょっと二人で話し合っているみたいだ。

そしてお母様は、私に向き直り「シンが何処に行ったのか知らされてないわ。」

「そんなーーっ。じゃあお父様は?何処に行ったんですか?お父様にも聞きたいです!」段々声も高くなっていく。

「あの人はちょっとばかり出掛けました。シンも、もう少ししたら戻ると思うから、チェギョン顔見せなさい。まーっまーーっ。泣き腫らした顔。」優しく優しく摩ってくれる。

「泣かないで、シンは必ず貴方の元に戻ってくるから。信じて待っていて。」

「そうよ、チェギョンちゃんにベタ惚れのシンなんだから、必ず戻ってくる。」オネーさまは頭を優しく撫でてくれる。

「シンはちゃんと戻ってくるから、泣かないで。そんなに泣いてしまったら、私達がシンに怒られてしまう。

なんで、チェギョンのこと泣き止ませる事は出来なかったのですか?ってね。

そんな可愛い顔で泣かないで。そうだ、シンがいない間、この家に泊まりなさい。三人で楽しく過ごしましょう。」お母様が伺ってくれたけど。

「いえ、シン様がいつ帰ってくるのか判りませんので、あの家に帰ります。」

「シン様が言ってました。家に誰かが待っている。それだけで嬉しいって。だからシン様が寂しくないように帰ります。」泣き腫らした顔でニッコリと笑う。

「チェギョン、そうなのね。ふふふっ。貴方がシンに嫁いできてくれて本当に嬉しい。

おじい様達の目は確かだったみたいね。判ったわ。ちゃんと貴方達の家で待っていて。シンは必ず戻ってくるから。」優しく笑うお母様の笑顔は、シン様の笑顔に似てます。

キューーンと胸が締め付けられる。

早く、早く本物のシン様に会いたいです。











車で送っていくと言われたが、私は歩いて帰るとお断りをした。

無駄な事かも知れないが、町の中でシン様を探したかった。

明同の街を当てもなく歩いていると、綺麗な女性が私の目の前に立ち塞がった。

ブラウンの髪の毛に綺麗な巻き髪。

大きなブランド物のサングラス。

白い肌に真っ赤なグロスがギラギラと輝いている。

私でも知っている何百万もするブランドのバック。

全てブランドで身を包んでいるセレブな女性。

えーーっとこんな人、知り合いにはいないんですけど。(汗)

「貴方がシンの妻になった子なの?」

「えっ?シンってシン様の事ですか!?」私はシン様の名前が挙がって、この人に飛び掛りそうになった。

「そうよ。イ・シンって名前。あなたの夫になったんでしょ?私の名前はミン・ヒョリンって言うの。」サングラスを取ったセレブは優しく笑う。

「はい。そうです。私には勿体無い程の良い人です。あっ!私シン・チェギョンって言います。」泣き腫らした顔で、自信満々で言う。

サングラスをグロスでテカテカの唇に持っていき、軽く噛む。

「そう・・・勿体無い・・ないわ。」ニッコリ笑う。

あれ?聞き間違いだったかな?

「最近貴方と結婚したみたいだけど。私とは長い付き合いなのよ。」

「はあ・・・。お仕事関係のお方ですか?じゃあ、シン様が朝からいなくなってしまったんです。何処かに行ったのか、何か知っている事はありませんか?」

「仕事関係?」クスクスと笑うセレブ

「やーねー。貴方高校生でしょ?その位察しなさい。」

「・・・えっっと。仕事関係じゃなかったら。」

「もう、わざとなの?大人の関係よ。」綺麗に笑うセレブさん。

「・・おとな・・」

「そうよ。高校生の頃から私達ずーっと一緒なのよ。彼の事なら何でも判るわ。彼から買って貰ったマンションで、彼を癒してあげるの。そうそう今日の朝に、彼、私の元に帰って来たのよ。高校生との結婚はやはり無理だったってね。やっぱりお前が良いって。あっごめんなさい。そこまで言っちゃうなんて、私も大人気ないわよね。」クスクス。

頭がまっしろ。

大人の関係だったじゃなくて、シン様はセレブの元に帰ってしまったって。

そんなーーーっ。

悲壮感から眉毛に力が入り、目からはボロボロと落ちていく涙。

「こんな人通りの多いとこで泣かないで、本当の事なんだから。まっ、シンってたまに浮気しちゃうけど、最後には必ず私の元に戻ってくるんだから。今回も何時ものパターンよ。あっ、でもきっと遺言だったから仕方なく貴方に付き合っていたのね。ごめんなさいね。後で、離婚届の紙にサインしてくれって、言いに行かないとって言ってたわ。」真っ赤な唇は嬉しそうに話をしていく。

一生懸命立っていたけど、頭がクラクラする。

「じゃあ、そろそろバレエのレッスンに行くから失礼するわ。私の入っているバレエ団も、シンが私の為に資金出してくれてるのよ。もう、愛されちゃって大変。」サングラスをかけて、嬉しそうに笑う。

高さのあるハイヒールを綺麗に履きこなし、タイトなスカートは彼女に合っていた。

私に手を振りながら綺麗な姿勢で私から遠ざかって行く。

ボロボロ落ちている涙は、もう決壊してしまっただろう。

止まらない・・・とまらない。

明同のストリートのど真ん中で、声を出さずに泣き続けた。

皆が変な目で見ているけど、構わない。

ガンヒョンが駆けつけてくるまで、涙は止まらなかった。








皆様、こんばんは。

楽しい三連休も終わりますね。

又朝からお仕事頑張ります。

では、何時も皆様の訪問有難うございます。

おやすみなさい。