チェギョンの前には、優しい顔の男がいた。

「チェギョンちゃん、久し振りだね。」

「オッパ!」

「元気だったかい?今日から2年の先生の代わりに来たんだ。」

「オッパーー!」その男のところに飛び込もうとしているのを、グイッと腕を止めた。

「チェギョン。」

「えっ?」

「この方は?」できるだけ冷静に、こいつがチェギョンの好きだったやつだって、言われなくても判る。

夫としては、ここは努めて冷静にしないと。

「あっ、美術の先生。去年の何ヶ月か来てくれていたの。」オレの腕から離れようとしていたが、オレの手はそれを許さなかった。

「私の妻が、去年お世話になったそうで。」皇太子振りを使う。

「あっ!そうだよね。チェギョンちゃん、君結婚したんだよね。」オレの事を優しい顔で見る。

「オッパ!結婚したけど。」彼女は反論しようとしたが。

「チェギョンは、私の妻です。」オレの背中に彼女を隠そうと

でも、彼女はその手を振り切り「オッパ会いたかった。」切ない顔で見上げている。

「チェギョンちゃん、お団子頭止めたんだ。お団子頭が君らしくて好きだったよ。」ニッコリと笑う。

「!」オレの目は、チェギョンを射る。

だから、ずーっとお団子頭だったんだ。

この男が好きだって言うから、振られても毎日毎日してたんだ。

お前、健気過ぎ。

オレの喉の奥が痛み始める。

そんなに好きだったんだ。

チェギョンの想いを知り、オレの心臓が泣き始めた。

苦しい。

苦しい・・・・。

「チェギョン、もう授業だ。行かないと。」彼女の手を無理やり引き、この男から離させた。

「シン君!まだオッパと」

角を曲がり、人の少ない実習室に入った。

「チェギョン!アイツがお前の好きなやつだったんだな?」

立ち尽くす彼女の口元から「うん。」

オレは目を閉じ、現実を受け止める。

「前の恋は、忘れるって。」

「・・・・。」

「オレと一緒にもう追いかけないって、言ってじゃないか。」彼女の手を掴もうと、差し出したが。

彼女は自分の手をギュッと強く握り締め「だって忘れようと。忘れようとしてもシン君とじゃれあい、宮の人達と過ごしてきたのに、オッパを見ただけで、前の想いが溢れ出す。」1つ1つ涙が床に落ちていく。

「やっぱり、オッパの事が好きなの。」オレの目をしっかりと見つめ言う言葉。

そんなに、好きなんだ。

オレの心臓は泣き過ぎて、ギューーッギューーッと壊れそうだ。

オレはどうしたら良い?

二人の沈黙が続く。

それでも彼女に言わないといけない事がある。

「それでも、オレ達は夫婦なんだ。」

言葉を告げると、彼女がハッと顔を上げる。

「判ったか。想いを捨てれないのは仕方ないが、妃宮だって事を忘れるな。」ようやく出した言葉を呟き、彼女を置いて自分の教室へ戻った。





その日から、彼女はオレのベットに来なくなり、髪型がお団子頭に戻った。

前みたいなはしゃぐ姿が消え、何時も悩んでいるような顔でソファに座っている。

他の男を想い苦しんでいる姿を見ていられない。

その姿を見ているだけで、オレの心臓が泣き始める。

このままで良いわけがない。

今日の課題撮影の為に、外に出ようと玄関を出たら、2回の渡り廊下をチェギョンが何時ものメンバーと通っていく。

そこにあの男が通り掛る。

皆が挨拶する中で、チェギョンだけは挨拶もせずにただ見つめる。

お前、そんな目で見たら。

ギューーーっとオレの胸が痛む。

チェギョン、オレだってお前の事好きなのに。

「シン!?」

「なんだ?」

「結構呼んだのに、心、ここに在らず。悩み事か?」インが優しく聞く。

「・・・嫌っ。何ともない。今日の課題の撮影場所だよな。」ポケットに手を突っ込んだまま俯く。

「お前なーーっ。バレバレ。ちょっと前までは氷の王子様って言う異名を持っていたのになっ。」インがかすかに笑う。

「!」カッとして、顔を上げる。

「ほらなっ、前は何言われても、シカトぶっこいてたのに。」ニヤッと笑う。

オレがさっきまで見ていた方向を見上げて

「最近のチェギョン、元気ないよな。お前とはしゃいでいる姿が見れなくて、つまらないぞ。」バシッと腕を叩かれた。

「・・・痛いぞ。」睨んだが、話は続くようだ。

「ちゃんと自分の気持ち、伝えろ。」インだけにはこの状況を伝えた。

「伝えろって、東宮殿でも、アイツはオレと口も聞いてくれない。」

「自分の想いで精一杯か。」溜息がでた。

「どうしたらいいのか、大人ぶってたけどまだまだガキだ。」フッと笑う。

「なあ、シン?最近お前調子悪いだろう?」

「うん?嫌、いつもこんなもんだろう。」

「そっかーっ?ちゃんとメシ食ってるか?」インの心配は止まらないようだったが。

「オイ!二人で何深刻な顔してるんだよーー!」ギョンとファンが駆け寄ってきた。

「早く課題やらないとーー!」

「判ったよ。じゃあ行くかーっ。」インは仕方なく歩き出した。

オレは3人の後ろを歩きながら、考える。

判らない振りをしていたが、知っているさっ。

悩んでいる彼女を楽にさせる方法

離婚

2年後って言う約束を早めて、直ぐに宮からオレから開放してあげるのが、1番だって。

でも、それだけはしたくない。

口を聞いてくれなくても、お前がオレの傍にいる。それがオレの秘かな希望







外での課題が終わり、教室に戻ろうとしたら、アイツにあった。

爽やかな笑顔が、むかつく。

オレはジーーっと睨む。

「おや?そんなに睨まなくても。」何事もなかったように話しかけてくる。

「ふん!」オレは通り過ぎようとしたら。

「ちょっとだけ良いですか?話があるんです。」ニコニコ笑いながら、傍にあったピアノ練習室の扉を開けた。

そこは、2年間ヒョリンと隠れて会っていた場所。

ただ思い出しただけで、今は何の感情もない。

チェギョンと婚姻してから、通わなくなったこの場所。

久し振りなこの冷たい空気。

二人でこの部屋に入ったとしても、お互い何も言わない。

ピアノの蓋を開けて、鍵盤を1個叩いたアイツ。

「去年、昼休み時間や空いた時間を通ると、殿下と女の人が良く使ってました。

チェギョンも通る度に見たようで、私達と同じく堂々と出来ないんだね。

好き合っているのに、皆に言えない辛さ判る。って言ってました。」

チェギョンは知ってたんだ。オレとヒョリンの事を見ていたんだ。

ずーーんと体が重くなる。

「私は、チェギョンの事好きです。」寂しそうに言った。

そんな気がしていた。

そっかー、お互い同じ想いなんだ。

又、心臓が泣き出す。

どんだけ泣いても、チェギョンはオレのキモチに答えてくれないのに。

泣き始めたら、止まらなくなる。

シクシクでなく、ザーッ、ザーーッと言う大雨に変わってしまった。

「去年、ずーっと付き合っていた彼女と別れて、落ち込んでいた時に チェギョンに会いました。ミュシャの絵画展での出会い、学校での再会でビックリ。

気になる子が生徒だったとは。

私も、教師なので、生徒には恋愛感情を持たないようにしていたのに、彼女の明るさ、一途さに、段々惹かれていき、彼女の想いに答えようとしましたが、まだ十七歳の彼女の人生を狂わせてしまうなんて、出来ませんでした。

だから、彼女の前から姿を消して、もう会わないようにしていたのに。

ある日、テレビをつけると、チェギョンが皇太子殿下と婚姻するニュースが流れ、愕然とした。彼女は、他の誰かのモノにならないと勝手に思っていたので。

予想以上のショックでした。

再び彼女への想いが膨れる日々に、又臨時のお誘いがきて、飛びつきました。

チェギョンに会いたい。会って、僕の本当の気持ちを伝えたくて。」

「・・・・。」ヤバイ、クラクラしてきた、慌てて額を押さえる。

「チェギョンが、借金の為に婚姻したそうで、2年後には離婚が決まっていると言う話でした。皇太子殿下!僕は、待ってます。彼女が自由になる日まで、待ってます。」

堂々と言う姿に、オレは敗北感を味わう。

言い返す言葉は、いっぱいあるのに、頭がグルグルする。

オレの体は、フラフラしながら、この部屋を出た。

心が拒絶反応してしまい、意識が朦朧とする。

気がついたら、彼女の教室に。

どうやって辿り着いたのか、判らないが。

朦朧とする中、キラキラ光るのが見える。

オレの足は、そこに向かい続けキラキラと光り続けるチェギョンに覆い被さった。

「チェギョン・・・好きだ。」ようやく出した言葉と共に、意識がなくなった。





皆様、こんばんは。

何時も訪問ありがとうございます。

さて、この北国にも雪が降りそうです。

今年は初雪が遅いのですが、12月以降は寒気が強まるという予想で・・。

嫌です。

雪掻きしたく無し、冬道の運転したくないしー。

早くこいこい、春。

では、おやすみなさい。