コツ。

コツ。

コツ。

松葉杖を右脇に抱え私はゆっくりと歩いていた。

右足にはギブスがはめられている。

バスから降りた私は、目の前に見える学校に向かって歩いていた。

慣れてない松葉杖と、重いリュックは私の肩に食い込む。

でも頑張って行かないと!

ゆっくり歩きだした私に皆関心がなく、通り過ぎていく。

何ヶ月前まで、私もあんな風に歩いていた。

歩けるのが当たり前のように。

そして、ハイヒールを履き走り回っていた日々。

ちょっと前なのに、懐かしい。









「妃宮・・・・。妃宮の足は海に落ちた時に、岩にぶつかってケガをしてしまったんだ。

そして、リハビリを頑張っても今まで通りには歩けないそうだ。」

白い病室に響く陛下のお言葉。

「・・・・・・。」

「そして姫宮の声が出ない、これは直るかもしれないが、何時直るか判らない。

で、我々が考えた結果は廃妃です。

その状態では公務は難しくなり、そして妃宮教育もあまり進んでいなかった。

そして、太子とも合房はまだなので、妃宮にとってもいい提案だと思う。」

お二方の提案に、私はただ頷くしかなかった。

「2・3日したら、ちゃんとした返事を聞きに来ます。あっ、妃宮が落ちた事は世間に公表していないので、チェ尚官だけ置いて行きます。何でも尚官に行って下さい。」とお二方は部屋を出て行った。

「妃宮様、私が傍にいますので、何でも書いて下さい。」と紙とボールペンを枕元に置いた。

私は紙とボールペンを取り、書き出した。

皇太子殿下は?

「皇太子様は妃宮様を助けだした後、宮の病院に行きました。大事を取って2・3日入院なされるそうです。」

そっかー、あの皇太子殿下は夢じゃなかったんだ。

私の名前を呼んでくれたのは、本当の事だったのね。

こんな状態だけど、嬉しかった。

「ミン・ヒョリン様が皇太子殿下に付き添っておられます。」

私の顔がビックリしたのを、チェ尚官は見つめながら話し出した。

「妃宮様の婚姻する前に、殿下はミン・ヒョリン様にプロポーズをして、承諾を貰ったそうです。

そして、家柄もよく、成績も良いミン・ヒョリン様は皇太子妃になる為の、審査結果待ちでした。

でも、久し振りに宮に来た皇太后様が、遺言を言いなされて、ミン・ヒョリン様とのご結婚がなくなり、妃宮様が皇太子妃につきました。」

私は自分の知らない話に驚きを隠せなかった。

彼女との結婚を控えていたのに、そこに私が勝手に入っちゃって。

彼女さんとかじゃなく、婚約者だったのね。

私の目からは涙が溢れた。

ごめんなさい、ごめんなさい。二人にはほんと申し訳なかったです。

あの海の中で、消えてしまえばよかった。

紙に。急いで私を、廃妃にして下さい。
そして皇太子殿下と、ミン・ヒョリンさんと結婚させてください。と書いた。

「妃宮様・・・。」

元に戻しましょう。皆の関係を元の鞘に。

泣き続ける私は最後に妃宮らしい言葉を書いた。








私は済州島の病院を退院して、宮に戻る事もなく実家に帰った。

2度と皇太子殿下に関わりたくないので、挨拶もなく別れた夫婦。

私は心の小さい箱にイ・シン皇太子殿下を好きなキモチを閉じ込めて、鍵を掛けた。

半年振りに実家に戻ってきた私を、両親は優しく扱ってくれた。

声が出ない、右足にはギブスと言う状態で、出戻ってきた私なのに。

「辛かっただろう。慣れない所に、送り出した私達が悪かったんだ。ごめんな、チェギョン姫。」パパはずーっと私の事をチェギョン姫と呼んでいたけど。

紙とボールペンを持ち

もう、姫って使わないで

「そうだよな、パパが悪かったよ。」と頭を撫でた。






今で通っていた芸術高校から、ソウルの郊外の高校に転校した私。

後、1・2ヶ月で卒業だけど、だって同じ高校だとあの二人に出会うじゃない。

それだけはもう勘弁してください。

身の程を弁えてますから、もうお二方の傍には寄りませんって、手を合わせて祈る。

今の高校は郊外なので、通うのはバスになる。毎日毎日バス停までゆっくり歩く。

転ばないように、転ばないようにと思っても、やはり1日に1回は転んでしまう。

急に転校してきた私は、あんまり歓迎されていなかった。

だって、話せないし、右足にはギブス。そして廃妃になって、急に転校してきた

最初は皆、私に興味があったけど、声の出ない私はただ笑うのみで。

一人二人と、私の傍から離れていった。

今日も頑張って歩いていくと、やはり躓いて転んでしまった。

何回も転んでいるうちに、立つ要領を覚えて割りと早く、立てるようになった。

あっ、しまった。

リュックが外れて下に落ちていた。

リュックを見つめボーッとしていたが、仕方なく拾い上げようと頑張ったが、中々取れないでいた。

でも、頑張んないと!!私は無理な体勢をして、リュックを拾い上げ肩に背負った

良かった。無事に取れたよ。

まだまだ寒い日なのに、汗かいてしまった。私は松葉杖を握り直し、又歩き始めた。


後ろの方で車のドアの閉まる音がなったのも、気が付かず。







皆様、こんばんは。

人魚姫4です。

自分で書いておきながら、あらーっ。つらいお話だわー。

あの頃は切ないお話が書きたくて仕方がない時期でした。

では、また人魚姫5であいましょう。