「ふーっ。」

大きな溜息をゆっくりと吐き、朝日に向けて両手を思いっきり伸ばした。
ここ何日か大学に泊まり込み、久々に見上げる空の青さに目が驚く。

「眩しいなー。」着替えもシャワーも何もしてないので、思わず自分の体をクンクンと嗅ぐ、まー微かに匂うけど、大丈夫でしょうー。心配した足は一瞬立ち止まるが足早に動いていく。

目指す先は、大学の向かいのコンビニ。

まだ日常の時間が動き出す前なので、店内を見渡しても誰もいない。

「よし。」これでこの汚い体のまま入っても大丈夫だね。

キンパの売り場に駆け込んだら、今日の分の商品が出揃っていない為、仕方なく残り物のキンパを掴む。

そしてとうもろこしヒゲのお茶のペットボトルも抱えレジに向けると

あれ?どうしょー、カップルかー、さっきまで居なかったのに。

でも、まー。どうせ後ろに並ぶだけだし、それに離れていればOKでしょっ。後ろに並ぶと、慌ててもう一人の店員が出てきて「どうぞ、こちらへ。」隣のレジに誘われた。

もー、隣に並んでしまったら、私のヨレヨレが分かるじゃないー。とほほと歩き出すと、フッと気になり横のカップルを見ると。

背が高く、仕立ての良いスーツをビシッと着こなすクールビジネスマン。

ビジネスマンには、知り合いなんかないと思ってもやはり気になる。

チラッ。

見上げる先には、記憶の彼方に追いやった面影。

何年も忘れていた記憶が、一気に私の脳内を駆け回る。

あまりの驚きで、目を見開いていると。

「お客様、お客様。」微かに声が聞こえるがそれを上回る世界で一番素敵な声が体を雷に打たれたように響き回る。

「目と口、開き過ぎだ。」その声だけで、腰が抜けそうになる。

倒れそうな体を押さえながら「何で?」ようやく出した声は、カッサカサの声で恥ずかしくなる。

口元が微かに上がり、レジからiQOSを受け取り私の横を通り過ぎた。


突然の出来事に、まだボケーと口を開けっ放しの私に体を向けて。

「お前、10年経ってるのに、変わらないな。」クールビジネスマンの姿に変身したのに、笑顔は高校生のままだった。

急な言葉にあたふたと言い返そうとしたのに、彼女さんと並んで行ってしまった。

「くー!悔しいー!何も言い返すことが出来なかったー!」地団駄を踏み踏みしていると

「お客様、会計どうしますか?」状況を分からない店員さんがおずおずと話かけてきた。

私は「あっ、ごめんなさい。会計お願いします。」頭を下げた。







コンビニを飛び出し向かいの大学の建物の窓辺たどり着き自分の姿を写し、頭をガッカリと下げた。

ジャージ姿にサンダル履き、ボサボサの髪の毛。

10年振りに会った元カレのイシン。

高校の時もカッコよかったのに、益々イケメンになっていて、ビックリした。
それも綺麗な彼女さんを連れて、お似合いだった。

彼女さん?嫌、カレは私と同い年。奥さんかもしれない。

暫くの沈黙。

パッと頭を上げて「何悩んでるの!」頬をパンパン叩いた。





シン、チェギョン。28歳、独身。

彼氏もいません。

高校の時に付き合ったイシンとは一年で終わった恋。

お互い好き過ぎて束縛してしまい、喧嘩別れをしてしまった。

今思えば、あれが一生に一度の恋だったかも。だってそれ以上の人に出会った事が無い。
仕事仲間のイユル君が結婚を前提に、付き合おうと申し出てくれているが、シン君を超えるような気持ちが全く湧かない。

シン君との付き合いはそれそれは濃厚で、カレは私に全てを教え込み、私は期待に応え、離れられない存在だったのに、あの一回の喧嘩で別れてしまった。

何度も後悔してやり直したかったが。カレは、その後直ぐに海外へ留学してしまって、やり直す事ができなかった。

あの時直ぐに謝る事ができたなら、カレとは続けていけたのだろうか。

大人になっていなかった私達には、相手を思いやる気持ちに欠けていて、きっとやり直す事ができても、又別れていたかもしれない。

久々に会った元カレに動揺してしまい、過去の思い出の詰まった重ーい扉の鍵を開けてしまったが、もーガッチリと鍵を掛けないと。

気持ちを引き締めて、今はラストスパートの制作に集中しないと。

私は、右足を力強く踏み出した。








「何でー。」小さく呟く言葉はあり得ないと言う落胆の声。


私の目の前には、クールビジネスマンに変身した元カレが座っていた。

「チェギョン、次の制作はイシンさんの会社の発注なんだよ。これは君がリーダーとしてやってくれないか?ちょうど今やっていたのが今日仕上げだろう?」
あー、尊敬する教授に頼まれたら、嫌とは言えない。

「じゃあ、イシンさんが直々に詳しい説明をしたいと言っているから、このファイルを君に渡しておく。それと特別に助手にイユルを付けてあげるから、仲良くしてあげなさい。」ニヤニヤ笑顔の教授は、私とユル君の仲の良さを知ってる。

でも、教授はイシンとの関係を知ってないでしょー。
心の中で、ジワーっと涙が出てしまう。

「シンチェギョンさん、シンチェギョンさん。
おい、チェギョン。オレの話聞こえないのか?」私の頬を大きな手が覆い、ぎゅっと寄せられた。
「!!」あまりの驚きに目を見開いてしまう。
「全くー。これは仕事何だから。ちゃんと聞けよ。」カレの真剣な目線は私を射るように指す。
「はい。すみませんでした。」そーだよ、仕事なんだからちゃんとしないと。

私がちゃんとカレの言葉に理解出来たことを確認したシン君の手は私から離れて行った。
一通り説明をした後、ファイルを閉じたカレは、私を見ながら

「オレにはお前が必要なんだ。」

ドキンっ。カレの良い声は私の体に響き、ホットックの餡みたいに熱くなる。

熱さを知られたくなく、モシモジと体を無意味動かしてしまう。

もー、この声に未だに反応してしまう。

私は熱くなった体と心臓の動悸を抑え「イシンさん、そんな言葉、勘違いしてまうかもしれないので、言葉は選んで下さいね。」大人の対応をしようとニッコリと笑う。

「では、イシンさんのご希望を叶えるために、期限までには仕上げます。」立ち上がってファイルをまとめていると

ドアをノックしてユル君が入ってきた。

「教授に言われて来たんだけど。」小さな声は私だけに聞こえる。

私は頷き「イシンさん、こちらがイユルです。今回、私のサポートに入ってもらいます。
では、これからイシンさんの案件に向けて全力で頑張ります。」

 イユル君はこの大学内でもイケメンランキングの常連さんで、笑顔が又素敵なんだよねー。

そんな彼が、何で私なんかと結婚を前提にって、ほんと不思議。

彼とは、気が合って一緒にいて楽しいし。

周りの皆んなも、教授もさっさと付き合いなさいと急かすけど、一歩踏み出せないんだよねー。


ボーッと考えていると、シン君に向けて、ユル君スマイルをピカーっと放ち輝き、手を差し伸べた。

「イシンさん、初めまして。イユルと申します。宜しくお願い致します。」胸に手を当ててお辞儀をした。

「イシンと言います。宜しくお願い致します。」胸に手を当ててお辞儀をしながら手を差し出し握手に応じた。

「では、進行予定表を明日には、メールで送信します。」ユル君の営業スマイルは完璧だ。

「お願いします。では、細かな所や注文する時に直ぐに対応出来る様に、携帯番号をお願いします。」シン君が携帯を差し出した。
「分かりました。」ユル君が携帯を出そうとした時に。

「シンチェギョンさんの携帯でお願いします。」真っ直ぐな瞳は私の体を貫き、心臓が危ない危ないと鐘を鳴らす。

「イシン様。うちのリーダーを仕事に集中させたいので、私の携帯でお願いします。」ユル君の営業スマイルが柔らかだったのに、急に真顔で応対する。

「その理由は理解出来ますが、私の意見を通して頂けますか?」シン君の目力が半端なくなってきた。
高校の時、この目力で何人もの人を黙らせてきたんだからー。

私は慌てて「ユル君、大丈夫だよ。私の番号教えるから。」慌てて2人の間に入り込み携帯を取り出し高らかと振り回した。

番号のところを開いたので。シン君に見せようと、カレの携帯の待ち受けが見えてしまった。

ガッターン。

静かな部屋に携帯が落ちる音が響いた。

「チェギョン、携帯が落ちたよ。」慌てるユル君の声が遠い。

だって、携帯どころじゃないよ。

シン君の持っていた携帯の画面には、高校生の私が写っていた。







皆様、お久しぶりです。
アカシアあーんど青ぱんだです。

Yahooから、このブログに引っ越ししてから放置していましたが。

孫も大分手が掛からなくなり、少しゆとりが出てきました。
でも、男の子なので、追いかけ回しています。笑

で、腕慣らしにお話書いてみました。
この間まで放送されていた。「この恋温めますか」毎週観てハマりましたねー。
2人は運命で繋がっていると宣伝では言ってるけど、そんなそぶりは全くないじゃーんと言っていたら、最終回で爆発。
イチャイチャしまくりで、観ていた私はこれをシンチェでやりたいなーと悶々として書いたお話です。

短いお話なので、少しの間お付き合い下さいませ。