私とガンヒョンの引っ越し当日。
荷物を皆段ボールに纏めて、後は運ぶだけにしておいた。
「とうとう、ここを出ていくね。」
「うん、長かったようで短かったようで、色々な思い出があったねー」二人顔を見合わせて笑い合う。
「今年に入ってから、めっきりとここで過ごす時間が無くなっちゃたけど、ここは私達の家だったね。」
二人共髪を束ねてジャージ姿、やる気モード全開だ。
「後もう少ししたら、ギョンがインさんとトラックで来る時間だよ。」携帯の時間を見てガンヒョンが言う。
「そっかーっ、ここもあと少しだね。」キョロキョロと見渡す。
見た先には私の荷物の段ボールが見えた。
4個
オモチャや、ユル君との思い出を捨ててしまったので少ないし、衣類の半分は、シン君のとこに置いてある。
アパートの老朽化による二人の選択は、又一緒に暮らすと決めた。
高校卒業と共に暮らしてきた親友のガンヒョン。
時々喧嘩する事もあったけど、一緒に暮らしていたい。
シン君とデートしたりお泊りしたり、何も変わらずこのままで恋人との時間を楽しみたい。
携帯のLINEの音がした。
慌てて開くと、シン君からだった。
引っ越し手伝えないけど、代わりの奴らが頑張ってくれるそうだから、じゃんじゃん働かせてやれ。じゃあな。
私も直ぐに返事を返して、ちゃんと休んでくださいと最後に言葉を加えた。
超多忙なカレだけど、最近はLINEに応えてくれるようになり、それだけでも嬉しい。
ハードスケジュールな為、自分の家に戻る事も出来ずに、色んな意味で疲れ切っているだろう。
シン君は何時も私の為に色んな事をして幸せにしてくれる。
何でも私優先で、目頭が熱くなっていく。
アパートの事も、直ぐにオレのとこに来いって言ってくれて、そんなカレの元には行かずに、ガンヒョンを選んだ私。
甘ったれた私は、自分の事ばかりでー。携帯の画面をじっと見る。
バカだ。
本当にバカだ。
疲れ切っているシン君を傍で支えてあげたい。
何時もシン君に甘やかされて、ちゃんとしたとこが見えなくなっていた。
ガンヒョンと仲良くアパートで暮らすのではなく、シン君と共に過ごしたい。
私は、段ボールを玄関先に持ち運んでいる彼女の事を見る。
「何よー。ほらっトラックの音がしてるわよ。運ぶよー。」
「ガンヒョン・・あのね。」どうしよう、次のアパートを決めて、引っ越ししようとしている時、こんなこと言ったら。
「何?トイレしたいの?」笑う。
「あのね、ガンヒョン。私シン君が仕事忙しい・・。」
話の途中で「ガンヒョン!!トラック持って来たぞ――。」ギョン君がやって来た。後ろからはインさんも来た。
「あっ。」どうしよう。人が集まって言っても良いのか、どうか?モジモジとしていると。
「チェギョン、時間がないよ。トラックはもう来てしまった。ちゃんとした最終決定をしなさい。」ガンヒョンはちゃんと私と向き合う。
「ガンヒョン、私。」ガンヒョンは、私の答えを待ってくれている。
「ガンヒョン。」ボロッと涙が出てしまった。
「ほらっ、泣かないで。ちゃんと言いなさい。」私とガンヒョンが向かい合っている所に、ファンさんとお嫁さんのアン・ドナさん、イ・ジイ先輩もやって来た。
「何々、どうしたの?」皆シン君に頼まれて、私達の引っ越しの手伝いをしに来てくれたのに。
「わっ、私!シン君の事が大好き!」真っ赤になりながら叫ぶ。
「そんなのここに居る人達皆知ってるわよ。」状況はよく知らないが皆頷く。
「だから、ガンヒョンと一緒に住むのを止めてもイイかな?」ちゃんとガンヒョンを見る。
この部屋にいる人達が静まってしまった。
口を開いたガンヒョンは笑い「そんな事だと思ってた。」周りの皆は、驚いている。
「あんたねー、アパートの退去してくれと言われて、チェギョンが出した答えの時と、今の状況は全く異なってるのよ。何も怖気つくことじゃないわ。」腕組みをして立っている。
「えっ?」
「イイに決まってるでしょう。どうせ、一緒に住んだってシン君シン君ってうるさいんだから。さっさと室長の方に荷物置きに行くわよ。」ニヤリと笑う。
「ガンヒョンーー!」思いっきり抱きつく。
「何?チェギョンが一緒に住むのを止めるとなれば!」ギョン君が笑う。
「まったく。シェアする人がいないとアパートの一人暮らしは無理だわ。」
「ガンヒョン、俺のとこに来いよ。」真っ赤になり望みに掛ける。
嫌そうな顔をしながら「仕方がないわ。私の荷物ギョンの家に運んでくれる?」それでも段々顔の表情は笑い顔に変わっていく。
「イヤッホー――!」ガンヒョンに抱きつくギョン君。
「オイオイ、で、俺達は何を手伝えば良いんだ」話の内容は分かったが、来たからにはやらないと終わらない。
私とギョン君に抱きつかれているガンヒョンは、「じゃあ、持って行こうとしたテレビ冷蔵庫、洗濯機はリサイクル屋さんに持って行こうと思います。食器などは段ボールにいれて。」抱きつかれながら、事細かく皆に支持していく。
分かりやすい支持の為、仕事はバンバンと片付いていく。
私は、ガンヒョンと顔を見合わせ「ガンヒョン、本当にごめんね。」
「イイって。私だってあの時と状況が違って、ギョンの事を支えていきたくなったの。室長、インさん、ファンさん。ギョンのホテルを支えてきた人達がいなくなるんだもの、ギョンはきっと、てんてこ舞いになっちゃうから、ついてあげなくっちゃって思ってたの。だから、チェギョンが言わなくても私が言い出していたかも、ありがとうね。」優しく笑う。
「ガンヒョンって、やっぱり男前。」私は憧れの目で見上げる。
「なに急に?」カッコイイと言われて照れている。
「私もガンヒョンみたく。」
「馬鹿ねー、あんたはそのままでいなさい。そのままのあんたが良いんだから。」デコピンを食らった。
「あっそうだ、次のアパートの止めるお金とかどうする?」デコピンされたオデコを擦りながら聞く。
段ボールを持ちご機嫌なギョン君は「金の事は気にすんなって。俺が払っておくから。2人への引っ越し祝いって事でな。」ニヤ――っと笑う。
「って事だから、気にしないで。室長もきっと同じこと言うから大丈夫。」最後の段ボールを持つ。
「これで最後です。」アン・ドナさんへ渡す。
全部の荷物を運び出し、ガンヒョンと手を繋ぎ合わせ何もない空間を見渡す。
「ガンヒョン、今までありがとうね。」「チェギョンこそ、ありがとうね。」二人顔を合わせて笑い合う。
そしてアパートを出て、お手伝いに来た皆の前に、今日のお礼を言う。
「今日は本当に有難うございました。当初の目的とはだいぶ違ってしまいましたが、まだお手伝い宜しくお願いいたします。」ガンヒョンの挨拶が終わり、皆それぞれの車に乗って、リサイクル屋さん、ギョン君ちにガンヒョンの荷物を置いてから、次はシン君のアパートに向かった。
私は、ファンさんとドナさんの車に乗せて貰い「今日は本当に有難うございました。突然の変更で本当にすみません。」ドナさんの運転するワンボックスカーの後部座席に乗り、今日の事を言う。
「イイって。なんたってシンから直々にチェギョンちゃん達の引っ越し手伝ってやってくれって言うんだもの。友達だから駆け付けないとね。」運転するアン・ドナさんは笑う。
「シンの彼女の為なら、僕達は何でもするるね。」幸せそうに笑うファンさん。
「昔みたいな悪さはもうダメだぞ。」アン・ドナさんが注意する。
「悪さ?」
「若かった時だからね―、もうあんな事出来ないよ。」苦笑い。
やっぱり、シン君達は夜遊びとか凄かったんだ。でも、もう過去の事だから。
「ほらっ、もう着いたよ。」あのアパートから20分くらい離れた場所にシン君のアパートがある。
トラックと車2台が停まり、私の荷物を運び出した。
「わ―――、ここが室長のアパートなんだー、やっぱ高そうーー。さっきも思ったんだけどチェギョンの荷物って少ないよねー」イ・ジイ先輩が見上げながら言う。
「えっ?そうですねー、半分くらいシン君のお家に置いてあるんで、思ってより少なかったですね。」
「そっかー、半同棲みたいな感じだったんだ。」さっきよりも声が小さい。
「先輩。」そうだ。先輩は何時も通りに接してくれるけど、ずーっとシン君の事好きだったのに、私って無神経だ。
「何心配そうな顔しないでよー。もう吹っ切てるんだからー。」バンと背中を叩かれた。
「先輩!」深々と頭を下げる。
「シン・チェギョン。頭あげなさい。あんたは室長といる事を選んだのよ。しっかり付いて行きなさいよ。」先輩の声が私の心に響く。
頭を上げて「はい!」と力強く返事をした。
「じゃあ、そんなチェギョンちゃんに、引っ越し祝い。」ファンさんが車から大きな紙袋を差し出してくれた。
「ファンさん、これは?」紙袋の中を覗いてみると、アルバムと、ディスクがいっぱい入っていた。」
「シンの高校から大学の様子が入ったDVDとか写真なんだー。」
「ファン!俺達も写ってるのか?」インさんが驚く「写ってるよ。皆時代だからねー、髪の毛が長くて今見ると笑っちゃうよ。」
「なん言ってるんだ、俺達はイケメンだったから、どんな髪型をしようと大丈夫。」ギョン君が威張る。
「あはははっ。チェギョンちゃん、落ち着いたらゆっくりと見てよ。」ファンさん、目が笑ってませんよ。
「シンの王様っぷりを見てあげて、現に血筋は王様だけどね。」ガハガハと笑うアン・ドナさん。
「じゃあ、チェギョン。俺達は行くから。」ギョン君はガンヒョンを連れてトラックの方に歩き出す。
「ガンヒョン!一緒に住まなくても、私達は親友だからね!」大きな声で叫ぶ。
「あったり前でしょう!じゃあ、又会社でね。」バイバイと手を振りトラックに乗り込んだ。
インさんはイ・ジイ先輩の事を誘っていたが、逆方向の店に行く用事があるからと断っていた。
インさんは、仕方ないなーと、1人で車に乗った。
ファンさんとアン・ドナさんはここから近くの自分達の家に戻る。
私は4個の段ボールと共に外に立っている。
皆自分達の車に乗り、私に手を振ってくる。
「チェギョン、又ね。」「じゃっ!」「昔のシンを見てやってね。」「今度パン買いにお出で。」「チェギョン、会社でね。」
インさんが「チェギョンちゃん、シンにLINE送っておいたから、じゃあ。」皆の車が走り出す。
イ・ジイ先輩も反対方向に手を振りながら歩き出す。
皆の車は一緒に走っていたが、それぞれの道に分かれていく。
ギョン君とガンヒョンは真っすぐに、インさんは右に曲がっていった。
ファンさんとアン・ドナさんは左に曲がっていった。
私は、皆の車が見えなくなるまで見送り、ちょっとだけ寂しいキモチになった。
段ボールの上に座り、シン君にLINEを送る。
この間のシン君の提案はまだ有効ですか?引っ越し先をシン君の部屋に変更したいんですけど?
シン君の部屋の暗証番号は知っているが、やはりご本人の了解を得てから入ろうかと。
1時間ぐらい待ってみよ。
紙袋からアルバムを取り出し、シン君の過去の扉を開き始めた。
色んな写真のシン君は、無表情で写っているのが多いが、若いのに威厳たっぷり。
アハハッ、やっぱり王様だーー。
それにしても、カッコ良過ぎる。こんなカッコイイ人ならすれ違っても記憶に残っていても、この頃はユル君の事しか頭になかったかな?
夢中になって写真を見ていると、目の前に人影と高そうな靴先が見えた。
「ここに捨て猫がいるってLINEが着たんだが。」久々な声に、私の身体がビクッと驚く。
「!!」驚きながら頭をゆっくりと上げると、シン君が私を見下ろしていた。
「チェギョン。」私のお気に入りのスーツを着たカッコイイシン君の生声に私の頬は熱くなっていく。
「インからLINEが着た。「捨て猫、お前が拾わなければ、俺が拾っても良いか?」って、今韓国の政府との会議が終わって帰る途中だったが、他の男に拾われたら大変だから、慌ててここに来てもらった。」私に携帯の画像を見せる。
シン君のアパートの横に、4個の段ボールと私が立っている画像があった。
「中に入れば良いのに。」ギューっと私を抱きしめる。
「シン君の返事を聞いてからと思って、シン君の提案の有効期限は切れてませんか?」私もギューっと抱きしめる。
「良いのか?オレの部屋で?」久々なシン君のイイ声に、腰が抜けそう。
「シン君の傍に居たいです。」腰が抜けそうでフラフラし始めた足元に、もっとシン君に抱きつく。
ずーっと抱き合っていたかったが「社長代行ー。お時間です。」キビキビとした声が聞こえる。
シン君の身体がビクッとなり、私から離れる。
「後5分待っててくれ。」シン君は車の外に立っている人に言った。
段ボールを3個持ち上げ「お前には持たせたくないんだが、今日は時間がない。あと一つはお前が持ってくれ。」一番小さな段ボールを持たせる。
「ほらっ、お前の引っ越し手伝いに行けなくて悔しかったが、これでオレも手伝ったことになるよな。」アパートのエントランスで、暗証番号を打ち込み自動ドアが開く。
エレベーターの上昇を選び、二人で並んで段ボールを持っている。
スーツを着てカッコイイシン君と、髪を束ねてジャージ姿の私がエレベーターの扉にうつる
不釣り合いな私だけど、シン君の傍にいたい。
「シン君、大好きです。これからも宜しくお願いします。」見上げて笑う。
「お前なー、反則技使うなよー。会社の方も父が復帰してようやく目度が立ちそうだ、オレの社長代行の任務も今日で終わりだ。最後の社長代行命令を使って今日は社員達を家に帰らせる。今日は絶対に帰ってくるからな。風呂入って待ってろ。」シン君の顔が近づき、軽いキスをする。
お風呂に入って待ってろって、恥ずかしいが「待ってます。シン君の大好きなご飯作って、お風呂に入って待ってます。」エレベーターが到着して、扉が開き私達は段ボールを持って中に入り込んだ。