※登場人物&もくじは
こちら────────────────
ep6.strange love~奇妙な前奏~
勇人があたしだけのスペシャルライブをしてくれたあの日以来、あたしと夏実は放課後毎日のように部室に通いつめていた。
eternalのメンバーともかなり親しくなり、あたしは部室で彼らと共に過ごす時間が楽しくて仕方なくなっていた。
「夏実~!今日も部室行こう!」
いつものように私が声をかける。
「うん!行く!………んだけど。」
夏実はいつになく神妙な面持ちだ。
「どうかした?」
あたしが尋ねると、
夏実がすぐそばにいた英機に向かって言った。
「英機は、今日も行かない…よね…??」
「ああ、ごめん。先帰るわ」
あの気さくな英機が嘘のように冷たくそう言うと、鞄をリュックみたいに両肩にかけうつ向きながら教室を出ていってしまった。
英機・・・
あたしと夏実が"eternal"の部室に行ったことを英機に話してからというものの、ずっとこの調子なのである。
あたしや夏実が「一緒に行かない?」と誘っても「行かない」の一点張り。
英機がこの調子なので、あたしも夏実も英機の前で"eternal"の話を出すことはほとんどなくなった。
前に確か勇人のこと嫌いって言ってた気がするんだけど・・・
やっぱり今も嫌いなのかな?
勇人はいい人なんだけどな・・・
あたしが勇人のこと好きだって言ったら、英機、どう思うんだろう??
あたしとしては英機に勇人のことで恋愛相談に乗ってもらいたいのだが、今の英機にはとても話せない。
英機に悩みを相談したり、あった出来事を報告したりしないことは初めてで、何だか嘘をついているみたいな感じがする。
あたしはこれまで何でも英機に言ってきた。
壁にぶち当たるといつも当たり前のように英機に頼ってきたのだ。
だから・・・
英機に言わないのは何だか無性にもやもやするのだ。
「残念だけど、行きたくないんだもん仕方ないよね…。2人で行こっか?」
夏実が少し寂しそうな表情であたしに語りかける。
「……うん。」
そうだ。英機の意志だから仕方ない。
それに、いつまでも英機に頼ってばっかりじゃだめだよね!
1人で頑張るいい機会だと思えばいいんだ!
そう自分に言い聞かせ、あたしは部室に向かった。
「お!夏実と美波!ちょうどいいとこに来たじゃん!」
部室の扉を開けると、いきなり可愛らしい美少年の顔が目に飛び込んできた。
「おー弘毅くん。今練習中?」
夏実が尋ねる。
「いや、みんなでメジャーデビューの話し合いしてんの!俺はなんつーか、難しくてよくわかんないし、なーんか雰囲気悪いから抜け出そうと思ってたとこなんだけど。ま、俺は抜けるけどとりあえずお前らは入んなよ!美々子も来てるからさ!」
え、美々子さん・・・!?
あたしは高校初日のライブ以来、彼女と話していなかった。
勇人にあの話を聞いてから、美々子のことが怖くなり、関わるのを避けていたのだ。
なるべくなら・・・話したくない。
「いや、やっぱり今日は帰ろう夏実。あたしたち、部外者なのにそんな会議に参加しちゃ悪いし」
あたしがそう言うとすぐに弘毅が言った。
「部外者なんかじゃねーよ!お前らのおかげで色んな意見が聞けたりして助かってるんだぜ?お前らもう立派な関係者じゃん!」
立派な・・・関係者・・。
その言葉にこんなに嬉しくなっている自分がいるとは思ってもみなかった。
あたし、eternalのみんなと、そして勇人とかかわれて、実はすごく嬉しいんだ・・・
美々子さんと関わるのは怖いけど、やっぱりそれ以上にeternalと関わりたい。
弘毅くんもあたしのことこんなに認めてくれてるわけだし!
「弘毅くん優しーっ!そういうことなら遠慮なく入っちゃうよ~★」
夏実がズカズカと中に入っていったので
あたしも弘毅に
「ありがとね弘毅くん」
と早口で言って慌てて後に続いた。
中に入ると、大きなガラスのテーブルを囲んで美々子と、eternalメンバーが座っていた。
テーブルの上には様々な小難しそうな書類が並んでいる。
みんな真剣な表情で、あたし達が入って来たことに気付いていないようだ。
「…念のためもう一度言っておくけど、ほんとに不祥事やトラブルが起きたらメジャーデビューは即取り止めにするってパパに言われてるの。"eternal"のメジャーデビューはあくまで、私がパパに交渉して成立したものだから…。特に注意しなきゃならないのはスキャンダルね。高校生とか大学生でアイドルみたいに売り出す人達にはそういうの付き物だから、女の子と付き合ったりするのは今後辞めた方がいいと思う。」
長々とそう言ったのは美々子だ。
相変わらず目を見張るほどの美少女だが、ところどころ見せる尖った言い方にお嬢様の雰囲気を感じさせる。
「なんでそんなことまでお前に言われなきゃならないんだよ。さっきから黙って聞いてれば好き放題言いやがって。別に俺たちは一度もお前にメジャーデビューさせろなんて頼んでないだろうが。全部お前が勝手に言い出したことだ。こんなコネみたいなメジャーデビューで不自由な思いをするくらいなら、そんなのこっちから願い下げだ」
ちょうど向かい側に座っている勇人が美々子を睨み付ける。
珍しく苛立っているようだ。
「勇人、どうしたの?なんだか最近私と話してるといつも機嫌悪いみたい・・・」
美々子が甘えたような声で悲しそうにそう言ったが、勇人は黙ったままだ。
しばらく沈黙が流れた。
う・・・
何この重~い雰囲気・・・
どうやらあたし達は最悪のタイミングで入って来てしまったらしい。
「まあまあ勇人、落ち着いて。こんなチャンス二度とないかもしれないんだからさ。それに、たかが高校生の俺達がメジャーデビューにまで漕ぎ着けたのは、紛れもなく美々子のお陰なわけだし、今は言う通りにしておくべきだよ。」
啓介が悪い空気を和らげるように落ち着いた声で勇人を諭した。
彼は見た目だけでなく、中身も本当に大人なのだな、と感心する。
どうやら感心していたのはあたしだけでは無かったようで、
あたしのすぐ隣から
「啓介さん素敵!!!」
という、お馴染みの甲高い声が部屋に響いた。
夏実・・・
いくらなんでもこの状況でそれはないでしょ!
さすがに空気読めなさすぎだから!
夏実の声に反応し、みんなが一斉にこちらを向く。
「何だ、夏実ちゃんと美波ちゃん来てたのか。……ひょっとして、今の話聞いてた?」
啓介が尋ねる。
「あ、はい。少しだけ。メジャーデビュー決まったんですね!…聞いちゃまずかったですか?」
「いや、全然いいよ。ね?美々子?」
啓介が美々子をちらっと見る。
「もちろんよ」
笑顔でそう答えつつも、美々子の表情はどこか強張っているような気がした。
「こっちに来て座ったら?おいで。」
啓介は優しくにっこりと微笑んで手招きするので、あたしと夏実は言われた通りに空いている場所に座った。
「で、話の続きだけど。」
美々子が切り出す。
「スキャンダルについてはみんなを信用するとして、音楽業界最大のタブーは別にある。それは・・・
クスリの発覚よ」
美々子はさっきから全くしゃべっていない実の方を一瞬ちらりと見た。
嫌な沈黙。
なんで実さんの方を見たんだろう・・?
それに心なしか、空気がまた悪くなったような。
よく見ると、勇人だけでなく啓介までもが神妙な面持ちで美々子を見ている。
「わ、私は別に、eternalの誰かがクスリをやると疑っているわけじゃないの。ただ、才能のあるミュージシャンであればあるほど、薬物との結び付きが強いと言われているし、クスリって一度やると止められないって言うから………
「美々子」
啓介がいつになく強い言い方で美々子の言葉を遮った。
「それ以上言ったら、さすがの俺も怒らざるを得なくなる」
「……ごめんなさい」
美々子は少し戸惑った表情を浮かべて謝罪した。
実(まこと)は相変わらずうつ向いたままだ。
どういうことだろう・・?
よくわからないけど、穏やかな啓介さんがあそこまで言うってただ事じゃない。
気になる・・・
気になるけど今はとても軽々しく聞ける雰囲気じゃない。
「お前、ほんと何考えてるんだ?」
勇人が冷たい声で呟く。
「……え?」
美々子は目を見開いて驚いた表情を浮かべた。
「勝手にメジャーデビューとか言い出すわ、スキャンダルだの薬物だの余計なことばっかり言うわ。それに……」
勇人がちらりとあたしの方を見た。
一瞬視線がばちりと合う。
が、すぐに勇人の目線は美々子の方に戻った。
あー、びっくりした…
・・な、なにドキッとしてんだ、あたし!
「…それに、美波にも意味わかんねー嘘つきやがって」
勇人は声こそ荒げることはないが、かなり怒っているようだった。
きっと勇人は、美々子さんがあたしに「自分が勇人の彼女だ」と嘘をついたことについて怒っているのだろう。
もういいのに・・・
随分前に誤解は解けたんだから・・・
とりあえずこの空気、どうにかしないと!
あたしが勇人を宥めようと口を開いたそのとき、
くすくすくすくす
と、上品な笑い声が静かな部室に響いた。
美々子だ。
・・・何で笑ってるんだろう?
「・・そう。そういうことなのね。」
美々子は俯いたまま小さくそう呟くと、パッと顔をあげ、あたしを見ながらにっこりと微笑んだ。
「勇人は美波ちゃんと本当に仲が良いのね。」
・・・え?
あたしと、勇人の仲が良い・・・!?
「そ、そうですかねぇ…」
あたしがそう答えると、意外な答えが帰ってきた。
「ええ。勇人ばかり羨ましいわ。私も美波ちゃんと仲良くしたい。良かったら私とも仲良くして?」
人形のような整った笑顔の彼女が、すっと手を差し出した。
なんだ・・・
美々子さん、やっぱりいい人じゃん!
警戒したりして申し訳なかったなあ。
「こちらこそ、私で良ければ仲良くしてください!」
あたしも笑顔でそう答え、美々子と固い握手を交わした。
この時のあたしは、まだ何も知らなかった。
これを境に、恐ろしい悪夢のような日々が、あたしの身に降り注ぐようになるなんて。
呑気にかまえていたこの時のあたしには、到底わかるはずもなかったのだ。
(続く)
──────────────────
美々子ちゃん編続きます

美々子ちゃん編早く終えて
英樹くん編が書きたい(笑)(笑)