元気?
今どうしてる?

私は、母親になったのよ。
毎日、母親してるの。


そう聞いて、連絡して、どうするつもりだろう。
どうしようもない。
なにも、話すことなんてない。
あの時と同じ。






元気?

どうしてる?




ただそれくらい、言える関係でいたかった。

時間が経てば経つほどに。
気付いたら

ではない。

本当は、1日1日を、ひと月ひと月を、1年1年を、
あれからどれだけ経ったのだろうと感じながら、
時には噛み締めながら、生きてきたとおもう。

それなのに、あれから10年が経とうとしていることに、どうして私はこんなに戸惑っているんだろうか。


妻になり、母になり、ここに立ちながら、時々込み上げる何かを、時に、押し殺すようにしながら。


私を私にするのは、私しかいない。

過去
自分がこのブログに書いた言葉に背中を押されてる。



明日で35歳。
「正直に言う。
僕のことは忘れるべきだ。
忘れるべきだと、離れる時に言ったはず。
君が、自分の道をまっすぐ進むことを願ってる。

さようなら。」


何故、あの時私は諦めなかったのか。

諦められなかった、というより、失えなかった。
私は、まだ私の愛を探していたから。
自分が誰なのかを。
愛するには程遠い自分を、まだ嫌いだったから。

あなたが行って4ヶ月が経ち、あの時あなたがくれたアドレスに、“どうしようもなくなり”メールをした私に、あなたはそう返事をした。

忘れるべきだと。
そう言ったはずだと。

……………………………

2008年の2月の半ば。
真冬の寒い日だった。
その数日前に静かに大雪が降り、それが溶けた東京の街。

あなたが行く前々日の晩。
雪が降る夜。夜22時頃、仕事を上がり家に帰るとあなたから電話がきた。
久しぶりに。

「会いたいけど、無理だよね」

会えない。さすがにもう家だから。
私がそう言うと、あなたは大きく息を吐き、言った。

「もう家の中空なんだ。荷造り終わった。」


その数日前、私は恐らくこれがあなたと抱き合う最後の時だという別れの日を、泣きに泣いて終わらせていた。
出発の日は知っていたけれど、いつが最後なのか分からず、いつまで会えるのか分からずにいた。
だから、出発の一週間前には腹を括っていた。


「あかなちゃん。
本当にありがとう。」
あなたは、電話口でそう言った。

「一度も言わなかったけど、僕は君が大好きだったんだ。本当に。」


初めて、あなたから言われた好きだと言う言葉。
一度も口に出さなかった言葉。
それは、すでに過去形だった。
初めてだったのに。


私は泣いた。ただただ、言葉にならず、泣いた。
子宮がまた縮んだ。
哀しいと、身体は言っていた。
ここに居てと。

でも、私は懸命に「ありがとう」と言った。
懸命に。



あなたが行く日の朝。
私は仕事で早番だった。
朝8時には、東京タワーの見えるその職場で仕事が始まる。

何時の飛行機なのか、どこから飛ぶのか、誰とその瞬間を迎えるのか、私は何も聞けなかった。
最後まで。
見送りには行かないと、ずっと前から決めていた。


ただ、その日の私はボロボロだった。
ボーッとして電車を乗り過ごし、仕事中はワイングラスを割った。
ふとしたら泣きそうな心を、必死につなぎ止めていた。

あなたが飛行機に乗るところを想像し、仲間に送られるところを想像し、NYという土地を想像した。
あなたの音楽を。
どうしようもない愛しさを堪えながら。


いつもは夜まで勤務なのだが、その日はマネージャーが私をランチタイムが終わる16時で帰らせた。
仕事場の誰にも、彼とのことは言っていなかったし、本当に偶然だったろう。

私が職場から霞が関の駅まで歩いていると、携帯が鳴った。
あなたからだった。

夕方5時近く。
まだ日本に居たんだ、咄嗟に私はそう思った。

電話に出る。

「行ってくるね」

あなたの、明るい声がした。

私は、伝えたい言葉を全て飲み込んだ。そして深呼吸をし、

「いってらっしゃい。簡単に帰ってくるなよ」

と言った。

「君は本当に、最後まで…」

彼はそう言って言葉を飲み込んだ。
そして、

「本当にありがとう。また会おうね」

とあなたは優しくゆっくりそう言った。

そして、短い電話はそこで終わった。


私は冬の早い夕暮れを迎えた東京のど真ん中で、一人立ち止まり空を見上げた。
振り返ると、夕日に照らされた東京タワーが見えた。

私は本当に一人になった。
一人。
やっと、一人になれた。
やっと。

終わった。

そう思ったが、寂しさで震えていた。

もう会えない。
会うことはない。


そのとき、私が聴いていたのがこの曲。


最後に君が微笑んで
真っ直ぐに差し出したものは
ただあまりに綺麗過ぎて 堪えきれず涙溢れた。

あの日きっと2人は、愛に触れた。

私たちは探し合って
時に自分を見失って
やがて見つけあったのなら、どんな結末が待っていても
運命と呼ぶ以外 他にはない。

君が旅立ったあの空に
優しく私を照らす星が光った

そばにいて 愛する人
時を超えて 形を変えて
2人まだ見ぬ未来がここに
ねえ こんなにも残ってるから

そばにいて愛する人
私の中で君は生きる
だからこれから先もずっと
さよならなんて言わない

あの日きっと2人は、愛に触れた

HEAVEN 浜崎あゆみ