2020年7月3日公開『Mother マザー』

2020年7月3日公開『MOTHER マザー』

実際に起きた殺人事件に着想を得て、ニュースなどでは見ることが出来ない母子の裏側を「フィクション映画」として製作された衝撃作。

学校に行けない息子を肯定し、自ら奔放で天真な姿を見せ息子を励ます反面、金銭面で困ると、息子に悪事をさせる母親。都合の悪い危機的な時には「私が産んだ子なの！」と鋭い目で言い放つ。その言葉だけを聞くと、一貫性のあるブレない姿勢を感じるが、事ある度に息子を所有物のように利用しているような態度が多い。

そんな母親に対して忠実な息子。　

誰が悪いのか？何が親子を追い込んだのか？

それを考えると頭と心が崩れそうになるが、監督である大森立嗣は「映画を観る人には答えを求めるのではなく、映画に向き合ってもらえたらと思います」と語る。さらに、「理想的な母親と真逆すぎる母親の間を描けたら、と思いながら映画に挑みました」とも。

共依存という難題を感じる本作には、監督のこの言葉が響く。事件の裏側を作品として表現するには奥が深過ぎるところに監督はブレーキをかけ、エンターテインメントとして成立しているところも勉強になる。

▪️男たちとゆきずりの関係をもち、その場しのぎで生きてきた母親(長澤まさみ)。

▪️「母親の歪んだ愛の形」に応える息子、周平(本作がスクリーンデビューの奥平大兼)。

▪️ゲームセンター浸りの訳ありホスト(阿部サダオ)。

主な登場人物(俳優)を3人挙げただけでも話題になる上に事件性があるため、「この先どうなってしまうのだろう？」という気持ちが率先して、上映中は知らぬ間に時間が過ぎている。

ただ、内容がキツい。

その辛いストーリーを吹き飛ばすエピソードとして、見る前に気に留めておきたいことは、母親役を率先して演じる長澤まさみの「私自身も母親という存在の大きさに自分が生かされていると感じているので、この役を演じたい」という意欲ある言葉。本作でも彼女は、違和感を感じない力演で率直に演技の幅を広がせた。

息子である周平が罪を犯してまで守ろうとしたもの。それは本作の最後まで見ないとわからないと言う点も注目してほしい。見ていてキツい本作には「見た者」にしか感じることができない行間がある。逆を言うと、それだけ短縮された映画なのだから、役者一人一人の数秒の演技が見逃せない。

ここからは本作とは少し離れた視点に飛んでしまうが、劇中で、母親(長澤まさみ)が自ら実家まで行き両親に対して「お金借してよ。昔から妹ばかり可愛がって、妹は大学まで通えた」と強く言い散らした時が気になった。実際は、姉である母親(長澤まさみ)は妹にも借金をしているとんでもない状況。しかし、そのシーンが頭の片隅に残ってしまい、見終わった瞬間は『MOTHER マザー　ゼロ」をフィクションとして見てみたいと思った。本作で長澤まさみは、顔にクマや白髪などの老けメイクをしているので、逆を辿れば高校生でもいける。

さらに個人的な感想が続いてしまうが、社会派映画を見てガッツリと討論(1人討論可能作)した後は、本作の監督(大森立嗣)作品である『セトウツミ』(2016年公開[ダブル主演: 池松壮亮& 菅田将暉)が見たくなるというのが私の余韻だ。