辻村深月さんのある小説に、この先取り約束器が登場する。

 

 

使用者は、主人公(女子高生)の元カレで

 

容姿端麗、名門大出身の明晰な頭脳を持ち、裕福な家庭で

育ったボンボンで、挫折を知らない恵まれた青年であった。

 

彼は司法試験浪人で、もう何度も試験に落ちている。

主人公に会うたびに、浪人生の精神的ストレスや周りの社会人や世間の人間を

嘲笑した言葉などを話す精神的に幼稚な人間でもあった。

 

 

そんな彼は、ストーリーが進んでいくにつれどんどん劣化し、外見も内面もともに腐っていく。

 

サラサラで茶色がかった地毛は脱色しパサパサな汚い金髪になり、

顔は、鼻や口にピアス穴が開けられ、喫煙により歯はヤニで黄ばみ、

以前のような美しい面影はどこかに消えてしまった。

 

内面も荒み、怒ると手が出るようになり

小説の終盤では誘拐、殺人未遂の犯罪まで犯してしまうのだ。

 

主人公は、罪を犯しても現実から目を背けようとする彼の姿から

約束先取り器の約束を果たさなかった人間の末路をそこに見る。

 

 

彼の約束は、「将来弁護士になる」ことだった。

 

 

 

そして、約束の先取りとは将来弁護士になったとき得られるだろう人々の称賛だ。

 

自分は今司法試験浪人で、将来弁護士になるんだ!とか、

弁護士になったらこんなことをするんだ!と言えば

 

周りは「弁護士目指してるんですね、頭いい」とか「すごい」だとか口々に彼を誉めそやす。

 

そんな称賛に、

まだ弁護士になっていないのに、気持ちよくなって満足し努力を怠る。

 

→当然試験に受からない。

 

→同じことを繰り返し、一浪二浪と重ねていけば現状と理想の違いに次第に焦る。

 

 

そうして、「試験に受かり、弁護士になる」約束を果たすことから

逃げ続けた彼は堕ちていったのだ。