今朝の9時半ころだった。親友のイトちゃんから、「小熊の死体があるけれど、要るかい?」と電話があった。南アルプスの林道へ工事に出かけたら、死体があったという。

朝の9時半だから、昼ころにはクマの死体が届くものとボクは思っていた。しかし、待てどもちっとも、イトちゃんは来ない。できれば、すぐにでもお腹を開いて、何を食べているのか、胃袋を見てみたいなぁー?そう、勝手に想像していた。仕事に行く途中で小熊の死体を拾い、そのまま携帯電話の電波の届かないところで仕事をしていたらしい。3時半になって、小熊は届いた。肥料袋に無造作に入れられていた。御秀堂 「汚えでぇー、洗ったほうがいいぜ」そういって、袋から小熊をとりだした。味噌汁のような体液なのか、滴り落ちている。全身を水道で洗い、写真を撮りはじめた。

眼は、生きているように、輝いている。死んでいるのなら眼にも力がないはずだから、おかしいなと思いつつ、記録写真を撮りはじめた。そのあと、ノドのあたりが、ピクピクと動いた。「おい、イトちゃん、これまだ生きているぜぇー」「ほんとかえぇー 死んでいるんじゃあないかい?「これ、助かるかも知れないから、獣医さんとこへ連れて行こう…」撮影もそこそこに、すぐに連れてくるようにとの指示。さっそく届けたのだが、蘇生をやってみるので一日預からしてもらう、ということだった。生き返るかどうか分からないが、あのつぶらな瞳を見てしまうと、なんとか生きてほしいと思った。しかし、生き返れば、それなりに今後が大変だし、まあ、今夜というヤマ場をどう迎えるかである。

それにしても、生きていた小熊を「死体」だと早合点してしまったイトちゃんにも困ったものだ。状況を聞けば、6-7mほどの崖下の林道で見つけたのだという。あと、1mで、昨夜来からの川の濁流に流されるところだったらしい。小熊の脇にはこぶし大の石が7-8個くらい落ちていた、そうな。太ももくらいの太さで1mほどの枯れ木も一緒にあった、という。小熊が生きていたとなれば、母親はイトちゃんに対して襲ってきた可能性もある。過去に檻に小熊が入り、それを守るために、近づく車にも敢然と襲いかかってきた母熊のいたことを近所の猟師から聞いたことがある。なので、母熊がいれば、それなりの行動も見られたと思う。しかし、三便宝 母熊の気配はまったくなかったという。ひょっとしたら、母熊は川に落ちてしまって濁流にのまれたのではないか、とイトちゃんはいう。それとも、もう1匹の小熊を連れて現場を離れた可能性も、ある。

獣医さんは、小熊のレントゲンも撮ってくれるというから、7mの崖の転落によるダメージもおいおい結果が分かるだろう。それにしても、謎の多い小熊事件だが、自然界ではこういうことも多いのだろうなぁ。今年も、もう3組の親子熊が中央アルプスのボクのフィールドでは観察されているから、南アルプスでもこのような事件に出会うということは、自然界ではけっこう子熊が次々に誕生していることが実感できる。そして、日ごろから自然界の動きにこうして関心をもって見届けている者の前には、いろんな意味で自然界が情報提供してくれのだなぁー、とも思った。