私が剣道を始めたのは、たわいもない親の一言がきっかけだった。わたしは、友達はたくさんいたけど、運動のできないただのマンガ好きのおとなしい女の子だった。 私にも、何か一つでいいからとびぬけた才能が欲しかった。そのために...
―数年前―
「蒼衣」
母が私に言った。剣道を始めてみないか、と。
「蒼佑もやっているんだし、ほら...!漫画の六○四の剣でも剣道やってたでしょ」
「そうだよ!ねーちゃん」
二個下の弟蒼佑(そうすけ)が言う。蒼佑は、幼稚園の年長から剣道をやっている。それは結構昔から習っているほうで、私はたまに蒼佑の稽古や試合を見に行く。それはそれはきつそうで、運動音痴の私には到底やり遂げられなさそうなのである。
「絶対きついでしょ。私には無理だよ」
「あんた運動苦手でしょ、だからこそ運動しないと。運動できない人って、さらにやらないからもっとできなくなるんだよ」
母が言った。
私の両親は、剣道家である。強いわけではなく、どちらも田舎の子供大会の『一番』くらいだが。ただ、母は運動神経がいいので、私の気持ちはわからないのである。
「やだ」
あんなものやりたくない。
「たくさんの出会いがあるんだよ。剣道で、蒼衣の大好きな友達がたくさんできるんだよ」
私が剣道を始めたのは、母の言葉との運命的な出会いがきっかけだった。