卵からヒヨコをかえす・・・難しい漢字を使うと孵卵(ふらん)と言いますが、その期間はニワトリの場合で約21日間、アヒルで約28日間、ウズラで約20~24日間、種卵を37℃程度で温め続けることで、可愛いヒヨコが出てきます。

ただ温めればヒヨコが育って出てくる訳では無く、卵は1日に数回、適度に傾けなければなりません。これを転卵と言います。自然界では親鳥がお腹の下に卵を抱えて温めますが、親が動く度に卵も動かされ、自然に転卵が行われています。これを真似るのが人工孵化(ふか)の際の転卵装置の役割です。

なぜ転卵を行なうか?
それは卵の中にある卵黄(黄身)が卵の殻の内側にくっ付いてしまう(癒着してします)事を防ぐためです。卵黄は哺乳動物であれば子宮と同じ役割を持ち、雛の成長のための唯一の栄養源です。これが殻にくっ付いてしまうと、殻の外から中に侵入してくる雑菌に卵の中が汚染されやすくなったり、卵から雛が出てくる前に雛は卵黄と自分の体の中に閉じ込めるのですが、それが出来なくなったり、正常なヒヨコの誕生を邪魔してしまいます。

人工孵化の際、ヒヨコが卵が出てくる予定日の2~3日前に転卵を停止し、卵を自然に横置きする事が多く、それが当たり前と思われています。その理由は、そうしないと孵化率が悪くなるから、かえった雛の状態が悪くなるからと考えられての事です。

しかし、自然界では、雛がもうすぐ卵から出てくるからと言って、親鳥は動きを止める事はありません。孵化するその時まで卵を動かしてしまいます。それでもちゃんと孵化します。温めた卵全体に対する孵化する割合はもしかしたら下がるかもしれませんが、孵化しない事はありません。

・・・という漠然とした常識の矛盾を心のどこかに持っていたのですが、当ファームの孵卵器で温めていた種卵で「やっぱりね・・・・」と思うような状態を経験し、やはり自分でやってみないと分からない事は多いとあらためて感じました。

当ファームで使用している孵卵器はいずれも手作り感あふれる(笑)、100%私のお手製です。観音開きのタンスやらローファーチェストやらを改造し、転卵装置を自作して組み込んだ物ですが、これが意外と使えており、現在は88個入卵可能な1号機、432個入卵可能な3号機を稼働させています。

 

 

 

 


 

 

 



この孵卵器で順次、種卵を温めて雛を孵しているのですが、ある時、入卵の記録が抜け落ちていたロットがあり、孵化し始めるまで全く気付かないという事がありました。ある日、あるはずの無い雛の鳴き声が孵卵器の中から聞こえてきて、不思議に思って扉を開けてみると、床に雛が数羽います。頭の中で?マークが渦巻きながら、転卵装置上の種卵を見てみると数個の割れた卵が・・・。その卵にマジックで書かれた日付を見てみるとちょうど20日前の日付。つまり、転卵装置が2時間おきに動いている中で、雛は卵から出てきたという事になります。

これは面白いと思い。床に緩衝材を置いた上で翌日までそのまま様子を見る事にしました。その結果、受精卵約30個の90%程度から雛が無事にかえり、全ての雛は元気に動き回っていました。
孵化前の2~3日は転卵を止めて静かに卵を置いておく・・・という私が見てきた常識はあまり重要では無いのかもしれませんね。少なくとも現段階のように小規模での孵卵、孵化であれば。

この経験で得たことでもう一つ・・・・。
使用中の孵卵器は汎用の紙製タマゴトレーに卵を立てて入卵する方式を取っています。つまり、卵は横置きではなく縦置きです。転卵を止めずにかえった雛達はいずれも縦になった卵から出てきたことになります。そこで、縦置きと横置きで孵化率が変わるのか?という疑問を解消する為、実験をしてみました。

さすがに転卵装置から雛が落ちてしまう状況は、雛にとって可哀想であり、分っていてそういう状況を放置するのは動物愛護の観点からも許される事ではありません。そこで孵卵開始から19日くらいにタマゴトレーに種卵を入れたままで孵卵器の床に置いてみました。
すると・・・、約80~90%の割合でちゃんと雛は孵化します。孵化した雛も弱いとか動きが悪いとかいう事も無く、設定の悪い孵化器なんかよりもよっぽど健康な雛が誕生してきます。

 

 

 



縦置きのままで孵化させる事が出来れば、横置きよりもスペースを有効に使えますし、孵化羽数のカウントも楽ですので、今は完全にこの形で孵化をさせる事にしています。

ちょっと気になってネットで文献検索してみると、2011年のPoultry Scienceの投稿文献で興味深い内容を見つけました。そこでは縦置き、横置き、はたまた逆さ縦置き(気室=卵の丸い方が下になる)状態で孵化を観察した結果、孵化に掛かる時間にやや影響はあるけれども、雛質や孵化率には大きな差は無いとの結果を得ています。転卵の有無は検証されていませんが、卵の位置(卵位とでも言うのかな?英語ではegg positionになっている)は孵化にはそれほど影響しない事が証明されていました。
やはり、どんな事も自分でやってみないとホントのところは判らないですし、エッと思う事が判ると仕事もどんどん楽しくなりますね~。既製品を使わず、手作りの孵卵器を試行錯誤しながら使っているからこそ、生き物としての種卵の基本的な部分を知る事が出来ています。面白い!!

 


   * これは青い卵のアローカナ母さんによる“自然な”孵卵=抱卵です
 

 

 

 

 

 

有精卵と聞くと、一般には「栄養がありそう」とか「自然っぽい」というイメージで、食べる卵を販売する上での宣伝文句のような扱いもされています。

栄養素としてはどちらも大差無く、食べ物としてはどちらも同じく卵に変わりありません。

ところで、有精卵はどんな物なのか?
たしか以前ブログで書いたかと思いますが、
卵の黄身の上に受精卵が存在する、温めればヒヨコがかえる卵の事です。
あくまでも有精卵であればヒヨコがかえる可能性を持つという程度です。

この有精卵を業務上、出来る限り多くヒヨコをかえす為に生産された物を「種卵(しゅらん)」と呼びます。
産業用(商用大規模養鶏)に用いられる肉もしくは卵専用品種では、孵化率(孵化したヒヨコの数と温めた卵の数の割合)が90%程度求められます。
そこまでの孵化率になる為には、親の栄養がしっかりしていないと達成出来ません。

人が食べる卵は有精卵であろうと、無精卵であろうと、まあ死なない程度、卵を産み続ける程度の栄養で飼っても、今の品種は勝手に産み続けてくれますが、種卵となると、親の餌の栄養が足りないと、卵の中でヒヨコは途中まで育っても最後には孵化しなかったり、孵化しても弱いヒヨコが出てきたりします。

ブロイラー品種であれば、種鶏農場で与える餌を色々工夫することで、受精率、孵化率を最大限高める努力を常に行なっています。
親鳥(種鶏)の摂取する栄養が、その子供であるヒヨコの成長、ひいてはその子が生涯生産する卵や肉にまで影響を与えます。

そんな事もあり、
今は卵や肉の生産者はあくまでもヒヨコから入手し、
確実な生産性を得るシステムに乗っかっています。
自家産雛は親の種鶏としての栄養面を考慮しないで続ければ、確実に生産性が落ち込んで行く事は間違い無いので、なかなか難しいのが現状です。

品種改良による末端での生産性、食べて頂く消費者に直接繋がる生産部分の工場は、ただ鶏の性質を良くするだけでなく、それに伴ってその鶏に与える栄養素まで考えて飼育方法まで制御する事が必要となってきます。

そんな事を知ると、自然養鶏等で最新の大規模養鶏用の商用品種を用いる事は、生産(飼育)方法まで一緒に開発された高性能鶏の能力を最大限発揮できない事に気付きます。

自然養鶏には自然養鶏用の鶏・・・・。
そんな鶏種も探ってみたいとも思っています。

 

 

 

 

有精卵を温めて、雛をかえす(孵す)事を孵卵と言いますが、
その期間は短いようで長い21日間。

21日間、ちゃんと雛が育っているかどうかわからないまま、
孵卵器の中で放置するのはちょっと不安なのは当たり前ですよね。

そこで、21日間の中で2~3回程、卵の中で雛が成長しているかどうか?実は有精卵ではなく無精卵を温めていないか?などを確認する為に、光を卵に当てて中身を透かして見る検卵を行ないます。

まあ、検卵しなくても、孵る卵は孵る、孵らない卵は孵らないのは変わらないので、必ずやらなければならない事ではありませんが、
自分が使う孵卵器の能力・癖を知ったり、種卵の受精率(有精卵率)を知ったりして、以後の仕事に活かすのであれば、
是非やってみるべきことだろうと思います。

でも!
私が初めて孵卵にチャレンジした時のように、
「気になるから・・・」「面白いから・・・」と、
毎日、いや数日置きでも頻繁にやっていると、
確実にせっかく雛が育っている卵でも孵化しない卵が増えます。

そんな過去の教訓を生かして、
今の私は、21日間のうち7日目、転卵を止める19日目の2回だけ検卵を行なっています。


では、検卵のやり方について・・・。

まずは、21日の間で卵の中では何が起こっているかを知りましょう。

 

 

 

 

 



元画像が少し大きかったので、小さくしています。
画像をクリックして大きくして見て下さい。

7日目だと卵黄(黄身)の上に小さい雛が載っているのが分かります。
その数日前(3~4日目)から卵黄から卵の殻の内側に向けて、血管が張り巡らされていきます。
これは、卵の中の雛が成長する過程で呼吸(酸素‐二酸化炭素交換)を行なうための下準備です。

4日目でも血管が確認できれば、発生が進んでいると考えてOKなのですが、3~4日目のこの時期は結構シビアな時期(初期死亡が多い)ですので、出来るだけ安定する7日目以降を第一回目の検卵時期にした方が良いです。

では、検卵を行なうために準備するものです。

道具はたった一つ、LEDなどの小型で強力なライト。

 

 

 

 

 



上記商品は私も使っていますが、100均で売っているもので十二分です。
100均には色々のタイプがありますが、電池長持ちタイプでは無く、光量の大きいもの(LED9発!とかって感じの物)を選ぶのがコツです。
光が弱いものはまともに卵の中を見れません。

あと一つ、
検卵時に最も重要な事!

孵卵器から一時的に卵を出すわけですから、
少しでもリスクを減らすために、
検卵する前に部屋の温度を最低でも30℃くらいまで上げておきましょう!
室温20℃とかで数分間、「あれやこれや」と気になりながら卵を弄っていると、確実に卵の内部も温度が下がって雛が弱ってしまいます。
卵の中の雛はまだ自分で温度を作れないと覚えておいて下さい。


さて、では実際の検卵です。

卵には上下(?)の形が違います。
尖った方を鋭端、丸い方を鈍端と呼ぶことにします。

検卵でライトの光を当てるのは、丸い方=鈍端からになります。
非常に強い光量のライトであれば、鋭端もしくは卵の側面から光を当てても、十分に透かして見ることが出来ますが、
通常は鈍端から光を当てるのが最もやり易いはずです。

 

 

 



このようにして、鈍端に光を当てるのですが、
この図にある卵上部の緑・赤・紫(それぞれ7days,14days,21daysと書かれています)の部分は卵の内部の空洞(気室)です。
この気室の下に血管や小さい初期の雛があります。

この気室は、図にあるように、7日目、14日目、21日目と、孵化に近づくにつれて徐々に大きくなっていきます。
これは、内部の湿度が抜けていく事が要因ですので、7日目、14日目など、まだまだ孵化まで時間があるのに、この気室が必要以上に大きい場合は、孵卵器内の湿度が足りない(乾燥している)事を示します。

では実際にこうやって光を当てて透かした卵の様子を見てみます。



孵卵7日目前後の卵。

 

 


 

 

 



内部に血管がクモの巣のように広がっている様子や、
雛の眼玉(黒目)が見えます。
完全に暗い場所で強い光を使って見ると、心臓が鼓動しているのも確認出来るかもしれません。


ちなみにどんなに待っても雛が誕生しない未授精卵(無精卵)を検卵すると、21日間経っても何も変化がありません。

 

 

 

 

 



卵の中で黄身だけがゆらゆらと見えるだけで、非常に明るく光を通します。


さて、以上が検卵についてのお話ですが、
もう一度だけ注意点をおさらいします。


1.検卵は孵卵器から出されて冷やされる為、最小限の回数だけ行う

2.検卵する際は行う場所(孵卵器のある室内)を30℃近くまで温める

3.一度の検卵に掛ける時間は出来る限り短く(30秒程度)



兎にも角にも、
種卵から無事に雛を孵す事が目的ですから、
検卵はあくまでも「未受精卵を取り除く為」、「発生の進み具合を確認する為」に留める事が大切です。
以前の私のように、気になるからと言って、毎日のように検卵したり、
一回の検卵でいつまでも卵を弄り回したりしないように注意が必要です。

でも・・・・
卵の中でうごめく小さな命を見るのは神秘的で興味深いんですよね~。


最後に孵卵途中における、卵内部の様子を検卵で見た時のイメージです。
気室が少しずつ大きくなっていくのが、見て取れると思います。
(この画像は28日間孵卵が必要なアヒルのものですが、鶏は21日で必要な日数は異なっても発生の進み方は同じです)