先生は結婚している。



年の離れた奥さんと、可愛い盛りの子供たちがいる。



それでも、先生は私を求めてきて、そんな関係がもう1年続いている。



この一年、たくさんたくさん泣いてきた。


先生を思って。



いつか、先生は私だけを見てくれるんだろうかと


明るい未来をみようとしたり。



でも結局、大事なのは家族なんだと思い知らされたり。



どれだけこっちが本気で思っても、



向こうは遊びでしかない。



本当はもっと会いたいって言いたかった。



もっと一緒にいたいって言いたかった。



本当はもっと、たくさん怒りたかった。



でも、そんなことをしたら「めんどくさい女」になっちゃうんじゃないかって



そしたら先生は離れていっちゃう?



だからたくさん言葉を飲み込んだ。



「離婚して」



「これからどうするつもりなの?」



喉元まで出てこようとする言葉も、必死に飲み込んだ。



きっと、返ってくる返事は分かっていたからかな。



先生にとって、私はなんだったんだろう。

高野さんからのメールを消した。


受信メールも、送信メールも、それから


アドレスも電話番号も。




高野さんが自分の手帳に奥さんの写真を挟んでいたから




携帯のアドレスと車のナンバーが自分の息子の誕生日だったから





ほかにもいろんなことがあったのかもしれない。

でも、少なくとも大きなきっかけになった。



結婚指輪のこと、自慢げに話す姿に


もう耐えられなくなった。



あたしはここにいるのに

なんとも思わずに、こんな話できるんだなぁ・・って。



高野さんにとって、あたしはなんでもない存在なんだなぁ。




所詮は遊び相手。


所詮は暇つぶしだったの。

高野さんにとってあたしはそういう存在だった。



高野さんは仕事がうまくいかなくなった去年の冬から、


あたしの傍にいるようになった。


今から思えば、

家族に心配かけられないからだったんだろう。



仕事の内容、家族に話しても仕方がないし。

適度に立場も離れてるあたしが、いい愚痴をはく相手だったんだ。



あたしはあたしなりに一生懸命高野さんを支え続けた。



高野さんが、ずっと好きだったから





結局あたしみたいな小娘には、どこまで高野さんの支えになれたのかわからないけど。






1年がたった今、高野さんの仕事は順調に回り始めた。



忙しくなってそれこそあたしと会う時間なんてなくなった。



高野さんの気持ちに、あたしの存在はなくなってしまった




仕事がうまくいかない苛立ちや虚しさを

あたしにぶつけてきてた。

でもそれも必要なくなったから、あたしも要らなくなった・・・


ってことか。




残ったのは、高野さんの匂いと


たまらなく寂しい

たまらなく愛しい

気持ちだけ。

今日は昨日言ってた飲み会に、頑張って参加してきた。



飲み会には約束どおり、由香(26歳)と高野さん(40代)と私。






由香と高野さんは大学の先輩後輩にあたる関係で、すごく仲が良い。



・・・・そう、何度も関係を疑ってしまうほど。



私が入社する前から二人は一緒に勤務していた。

仕事の内容上、ペアで勤務することが多く、繁忙期には家族よりも長く一緒にいてたかもしれない。




会社の誰もが、二人はできているという暗黙の了解があった。





私は入社してから、由香とすごく仲良くなった。



男の子みたいにさばさばした性格が大好きで、学生の仲間みたいにつるんでた。



高野さんとも、由香を通じて仲良くなったのかもしれない。




最初は私も他の人と同じように、二人は付き合っているのだと思っていた。




そうではないと、両方の口から聞かされても信じられなかった。





なんでかな。





っていうか、別にもう高野さんが誰と付き合っていようが、もういいんだけどさ。






今日は韓国料理を食べた。



家庭料理ですごくおいしかったし、まっこりも飲みやすくて大好きになったドキドキ






私は用事を思い出して、近くのスーパーに行った。




由香:「場所わかる?」



私:「うん、なんとなく^^」



由香:「一応、携帯もっていって」








どれぐらいだろう。


その途中、後ろから嫌な気配がした。








一定のスピードで、一定の距離を保って


何かが近づいてくる。





街灯が少なく、人通りのない細い道。




ヤン車に乗った若い男3人が降りてくる。





「どーこー行ーくーのー?」





突然、進行方向を大きな男たちの体でふさがれた。




ぬるっとした風が顔の汗をさわる。






全身の筋肉が・・・

強張っていくのがよくわかる。



一人の男が私の腕を掴もうとした。




次の瞬間、私はとにかく走り出していた。方向なんてわからない。

足のスピードを緩めたら終わり。

どうしようどうしよう

後ろの髪の毛が痛いほど、緊張している。

怖くて後ろなんて振り返れない




どこを走ってるのかわからないまま、



コンビニの看板が目に飛び込んできた。

助かった!





自動ドアが開くスピードがあんなにも遅いと感じたのは、はじめてかも。。







なんとか無事に2人の元にたどり着いてから、

それまでの一部始終を話した。






「何で電話しないんだ!」



って高野さんは怒っていた。




「何のために携帯を持たせたとおもってるんだ」






でも。




目が心配してくれてる。




昔の高野さんを見た気がして、

ちょっと、切なかった。