このままだと紹介文の「乙女ゲーム空間満載」看板に偽りありになるほど、某夫婦が出張りすぎている現状(苦笑)。
今度からひとつのお題に基づいて、賢者×アリシア話を書いていく予定です。賢者同士の話自体は繋がっていませんので、その時はその相手が攻略対象だと思ってもらえれば。
話の書き方は、ヒロイン視点か、会話のみか、賢者視点かのいずれかになるかと。まあ、私が一番書き易い書き方になると思います。統一感ナシ(苦笑)。
唯一共通のお題は 「気になる」 です。
じゃ、さっそくのトップバッターは実質賢者筆頭のあの方にやってもらいましょう。
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「気になる」 プラトンVer.
「それは口当たりが良くて飲みやすいですね」
「そうなんです。だからついつい飲みすぎちゃって……」
聞くつもりない会話が私の耳に勝手に入ってくる。
会話すること自体は別に構わない。
講義中の私語なら厳禁だが、今は休憩中。
どんな内容の話でも好きにやってくれて構わない。
よく人に「厳しい」だの「頭が固い」だの言われている私でも、休憩中の会話まで規制するつもりはない。
会話の主は哲人王候補のひとりのアリシアと、先だって私付きの世話人になったヒッポタレス。
つい先ほどまで補講(他の二人よりアリシアは少し遅れをとっている。最初に比べればずいぶんその差も縮んできた)をしていたのだが、休憩を見計らって私の研究室に世話人がお茶を持ってきた。
そこから今日のお茶の種類がどうだの、味がああだのという……いわゆる他愛もない世間話の部類に入るような会話がなされているわけだ。
なので当然、そこには知的好奇心を満たすものも哲学的探求を追求するものも存在しない。
聞いても詮無いものばかり。
自分でも充分にそれは分かっている。
分かっている……はずなのだ。
それだというのに、私の耳と意識は手前の書物には一向に向かず、その会話に向けてしまう。
ただただ規則的にページを捲り、目だけは書物の字を追ってはいたが、当然理解して読んではいない。
なぜ会話に意識を向けてしまうのだろう。
自分でも納得できる理由が見つからない。
これが「意志と結果どちらが大切か」といった行為倫理を問う話題であったら、間違いなく拝聴に価値のあるものだと認めて聞き入っているのだろうが、この会話はそのような種類のものではない。
それに、アリシアとヒッポタレスの会話は以前から何度も行われてきた、いわば見慣れた光景。
前は全く耳に素通り状態で、二人が会話に花を咲かせている間に、私は研究書などを読んでいた。
それだというのに、いつのころから書物よりも会話の方に意識が向かうようになっていった。
「へぇ~、そうなんですか!それは知らなかったです」
「ええ、そうなんですよ。それよりアリシア様、前から言わせていただいておりますが、世話人であるわたくしにそのような言葉遣いは無用です。どうぞ普通にお話ください」
「え!?ええ、わかってはいるんですけど……その、なかなか慣れなくて」
「慣れの問題ではありません。哲人王候補のひとりであるアリシア様が一介の世話人であるわたくしにそのような言葉遣いをすることはあってはなりません」
会話の流れが思わぬ方向に行き出したので目線ををそちらへ向けると、真剣な顔つきのヒッポタレスと、少し困惑気味のアリシアの姿が目に入った。
確かに、ヒッポタレスの言は正しい。
秩序を考えれば、目上の者が目下の者を敬うような行為や言葉遣いはあってはならないことだ。
「……それは、そうかもしれません、けど。でも、ヒッポタレスさんは私よりも年上で、年輩の方をそう簡単にタメ口で呼ぶことなんて、できません」
年長者を敬う。
その精神は間違ってはいない。
だが、この少女の考え方は、異なった階層でも関係ない。
彼女にとって年上は、年上。
そこには何の格差も存在していない。
尊い、と思う。
その考え方は、純然たる階級社会であるアテナイにおいて、そう易々と持てる考え方ではない。
「……アリシア様」
今度はヒッポタレスが困惑していた。
当然だろう、そのような考え方、今まで触れたこともないはずだ。
何の予備的知識もなく、いきなりそのような考え方に触れたら困惑するか、真意が全くわからず首を傾げるかのどちらかだろう。
……かつての私のように。
「アリシア」
「は、はい!プラトン様」
「あまりヒッポタレスを困らせるな。ヒッポタレスには世話人の立場というものがある。候補生のお前がそういう態度だと、その立場がなくなる」
「……は、はい」
その表情だと、私の言葉の半分も理解してはいないな。
この少女は、感情が表情に出やすいので、心情が読み取り易い。
「その、ヒッポタレスさん。まだちょっとぎこちないとは思いま……思うけど、タメ口で話せるように頑張りま、じゃなかった、頑張るね。……これで、いいですか?プラトン様」
「あまりよくないな。かなりぎこちなく聞こえる」
「そ、それはっ、慣れの問題です!慣れればスムーズになりますよっ」
「あと、名前のさん付けも不要。ヒッポタレスと呼ぶことだ」
「え!?そ、それはその、タメ口に慣れてから追々……」
「追々だと?お前の追々はいつのことになるのか分からないだろう。その証拠にこの間の定理の問題で――」
「プラトン様」
ヒッポタレスはこみ上げそうな笑いこらえるような表情で、始まりそうになった私の説教を止めるように名を呼んだ。
「ずいぶと長居してしまい、申し訳ございません。わたくしはこれにて失礼させていだただきます」
「ああ」
「アリシア様」
「は、はい?」
「プラトン様のおっしゃるように、まだぎこちないご様子ですが、わたくしにはそのような応対でお願いいたします」
「はい!頑張りますっ」
元気に答えるアリシアに笑顔で応じたヒッポタレスは、すっと私に近づき。
「先ほどは自身の身のほどを弁えず、失礼いたしました」
「何の話だ?」
「先ほどわたくしとアリシア様とのお話で、プラトン様のお気に障ったのかと思いまして。随分と気もそぞろのご様子でしたから」
……此奴め、アリシアと話している途中で、しっかりと私の様子も見ていたな。
どんな時でも主人の様子を見逃さない、世話人の鏡といえる行動だが、その評価は時と場合による。
内心の動揺をいつもの無表情で隠して、応対に応じる。
「………べ、別に気になどしていない。お前の考え過ぎだ」
「そうですか。わたくしの勘違いですね、失礼いたしました」
ヒッポタレスはあっさりと自分の意見をひっこめた……わけではない。
それは言葉尻だけであって、その何やら含みのある笑顔を見れば一目瞭然。
「……ヒッポタレス、お前まだ仕事があるのだろう。持ち場に戻れ」
苦し紛れに、そう言ってみれば、「お心使い痛み入ります。それでは本当に失礼いたします、プラトン様」とさらりと言い残して、奴は私の研究室を退出していった。
……何だ、この疲労感は。
休憩というのは、身体や精神を休める時間だというのに、私に襲ったのは軽い疲労感だった。
(終)
***
というわけで、プラトン×アリシア小話でしたー。
(て、言うかこれ、プラトン→アリシアじゃねぇの?というツッコミはなしの方向で)
予定していたものよりずいぶん甘くない話になってしまいました。
そしてなぜだか随分と出張った世話人・ヒッポタレスくん。
プラトン先生はいままでずっと研究一筋だったので、にぶにぶです。
自分がなぜそうなのか気づいてません(この段階では)し、気になる対象も会話だと思ってます。
それがどう変化するのか、はまた別の話で。














