移住直後に知り合ったデイケアのマーガレットにわが子を預けることにはならなかったが、ずっと友達づきあいをしていた。

ある日マーガレットの家族を食事に招いた。マーガレットのご主人のラスと2人の息子、アダムとアロンの4人。

欧米の習慣で、初めて我が家にお客さんを招いたときは家中を案内する。リビングから始まり主人のオフィス、そして2階のベッドルーム。最後に一番奥にある夫婦のメインベッドルームに入った。私たちは子供のことを考えて、クイーンサイズの低めのベッドを調達していた。私側の床に一歳9ヶ月になっていた娘の布団を置いていた。その小さな布団を見たマーガレットは、"What's this?"(これは何?)私は、「裕子がここに寝るの」と、答えるとマーガレットは目を丸くして驚いていた。”It's wrong"(まちがっている)「子供が夫婦の寝室に寝るのは良くない。空いているベッドルームがあるのだから別にするべきよ。」

私たちはリビングにもどり、日本の添い寝の習慣を説明した。根本的な考え方が違うので、どちらが正しいという結論にはならなかったが、それぞれの良い点と不都合な点を率直に言い合えたのは嬉しかった。最後は「文化の違い」と言うところで納得。

私自身が子供のころ、ひとつ部屋の中に家族全員が布団を敷いて寝ていた習慣があるので、感覚的に幼いわが子を自分のそばに寝かせるのが身についていたのたと思う。私はやっぱり日本人だと、つくづく思った。

ある日の午後、カナダ人の友人とお茶を飲んでいた。私はそのときちょっと落ち込んでいた。乳幼児を連れての移住、良いことも沢山あったが、それなりの悩みや苦労もあった。祖国で一人暮らしをしている親の心配。だんだん日本語を話さなくなっている娘に対する複雑な思い。東京ほどの仕事がカナダでは得られない。。。

かなり親しくなっていた友人なので、つい日本人特有の愚痴を言ってしまった。

友達は私を心配して言ったことは、「ファミリードクターには話したの?」

私は驚いて、「なんでドクターに?」

「なんでって、そんなときはドクターと話すのが一番よ。私もストレスがたまったときはドクターに電話して、30分ぐらい話してくるのよ。それだけで気が晴れる。ファミリードクターは良く聞いてくれるから。」

私は、「予約のときは何ていうの?」と、聞いた。

彼女は「ただ、『私は30分ぐらい話したい』と言えばよいでしょ。」

これは私にとってはかなりのカルチャーショックだった。その後も数々の人との付き合いながらわかったことだが、カナダ人はお茶を飲みながら話すときは、愚痴は言わない。前向きの話ばかりで楽しい。だから私が愚痴ってしまったのを本当に心配してくれた。カナダ人は愚痴をファミリードクターにぶつけて、あとは明るく過ごしているのだと悟った。それぞれ違った文化を持つ国からの移民で成り立ている国なので全員がそうとはいえないが、少なくとも移民2世、3世ぐらいの多くはそのようだ。

私は移民一世。後に帰国することになるが、心の悩みでファミリードクターに電話をかけることはついになかった。

カナダに移住してから3年たったころ、日本からとサンフランシスコ在住の親戚がカナダの我が家に集まった。楽しかったが主人側の親戚ということもあり疲れもでた。目に「ものもらい」ができた。痛い!皆をバンクーバー国際空港まで見送るまではニコニコとがんばった。

目がはれてきたし、喉も痛く風邪気味のようだったので、ファミリードクターに予約をとりった。予約時間に行って待ち時間はたったの3分。Dr.Nagaleは相変わらずのファッションで陽気に登場した。まずは喉を診て、「疲れることがあった?」と。私は一週間の泊り客の話をした。ドクターは私の話を発展させる。「どこへ行ったの」とか、「何を食べたの?」と聞くのだが、私が答えると「それは良かった。あなたには素敵な家族がいるのね。ハズバンドも素晴らしい。」と、いつの間にかとても嬉しい気持ちになり、疲れも具合が悪いのも忘れてしまった。ドクターは、「えりこ!あなたは楽しい時間を過ごして、ちょっと疲れてしまったのね。家に帰り、暖かいものを飲みリラックスして休みなさい!」診察よりはおしゃべりに20分ほど時間を費やした。わたしは驚いたが”OK. It was nice talking with you. Thank you!"(おしゃべり、楽しかった)と言って診察室を出た。受付のWendyも、"Have a nice afternoon!"(良い午後を!)と、ニコニコ。

車に戻り、エンジンをかけようとしたとき目に違和感!バックミラーで自分の目を確認。確かに腫れている。『あのドクターは私の目に気がつかなかったの?この町には目の専門のクリニックはないし!』私はDr. Nagaleのオフィスにもどり、Wendyに話した。「ドクターに診てもらいたいの?」と、にこにこ『あたりまえでしょ!』と思いながら”Yes, please!"

再びドクターがにこにこと現れた。私の目をちょっとひっくり返して。「家に帰って水道の水で何度も洗って休みなさい。」これだけだった。『えっ、薬はでないの?』と、思いながらもなぜか嬉しい気持ちにもなり、再び挨拶をして岐路についた。

言われたとおり、水で目をジャージャー荒い、蜂蜜入りの紅茶を飲んでベッドに入った。どれぐらいで調子を取り戻したかは覚えていないが、喉も目も自然治癒ができたことは確かだ。