シンセサイザーは嫌い。
完成されたものは嫌いで
まだ余地のあるものが好き。
レトロが好きで
フォーマルなものに惹かれない。
原風景みたいなものを追って
空も見えないビル街の底で、沈澱物のようにその瓶に張り付く。
隙のない人に人は寄り付かず
脇の甘い自分は程度の低いうすら笑い。
子どもはわからないから楽しいので
わかることはもう終わり。
雨が何より嫌いだけど
雨の風景は嫌いではない。
「SP」と「空気人形」と「乱暴と待機」を立て続けに観て、美波の演技とやくしまるえつこの歌声だけが印象に残った。ARATAという俳優はいつどこで観てもどうやら同じだ。
うどんを啜りながら、そう思った。
洗濯をして、風呂を洗って、カフェオレを温めて、食器を洗って、掃除をする。
SPINGLE MOVEの白いスニーカーを買ったので、これを履いて晴れた街を歩く。
安いワインを飲んで、カマンベールチーズをかじりながら、本棚で埃を被っていた村上春樹のTVピープルをパラパラとめくる。
Ben foldsを聴くのも疲れて、Bill Evansを流す。
トマト缶とココナッツ缶を入れたカレーを作る。
大人の三人に一人は独りで暮らしていると言うけれど、街に出るとカップルと家族しかいなくて、楽しそうに行き交う。
彼らは同じように何かを犠牲にして繋がっているけれど、空虚なまでに幸せにしか見えない。
ケンタロウが事故に遭い、ホイットニー・ヒューストンが亡くなって、天皇が手術をすると聞いたけれど、
空は青く、雲は白く、電車は勤勉に走り続け、バスは決められたようにバス停で停まり、信号はいつも赤から青に変わり、僕は同じ路を歩き、同じ路を帰る。
うどんを啜ると、日本はいいなと少しだけ思う。
洗濯をして、風呂を洗って、掃除をして、食器を洗って、カフェオレを温める。
何もない1日がおわり、何もなさそうな明日の天気を少しだけ気にして、目をつむる。
うぐいすの鳴き声も全く聴こえない、この都会に近い下町で。

