「それでは質問がある方はいらっしゃいますか?」
どうやら私たち就活生はこの台詞を聞くと右腕の疼きが止まらないようである。
「よろしいですか。」
「はい!」
と威勢のいい声が会場に響き、早押しクイズの要領で“ピン”と手を挙げる。まるで猫のしっぽだ。私より声がデカイじゃないかと苛立ち、絶対に必要のないプライドが傷つけられる。
そもそも、大学の講義中に一度でもそんな風に手をあげたことなんてあるのかと思ってしまうほどである。
説明会の回数を重ねるごとにさぞかし饒舌になったでろう人事の方々は、学生たちの紋切型な質問に一つ一つ丁寧に答えている。
職人を務めてもうまくいきそうだなあと心の中でつぶやいていると手はとめどなく上がり続ける。
「あぁ、人事の方々は毎年毎日同じ質問に答えるんだ、質問する側もよくよく考えないとだめだよなあ、退屈だよなあ。」と思い人事の方に目を向ける。
すると話の流れで出てきた『トウドケイ』とは一体何か分かるか、と私に質問してくるではないか。
面食らった。
『トウドケイ』とはなんだ?トウドと聞いて永久凍土しか出てこない。
ボキャ貧をこれ程恨んだ瞬間はない。
小中学校の頃、国語の教科書を一度でも真面目に読んだことはないから仕方がないと心の中で開き直る。覚えているのはクラムボンくらである。
でもまあ、凍った地中の温度を測るヤツだろうとひどく納得したので、震える声でそのように答える。
するとどうであろう。凍ったのは会場の雰囲気で、「コイツは馬鹿だ」と言わんばかりの視線を感じ、人事の方の『糖度計』との指摘とともに一気に冷笑が巻き起こる。
馬鹿を露呈させた瞬間であった。
