いきなりだが、先日、朝イチでハヤオ・モーメントを迎えてしまった。
と、いきなり言われても分かる読者の方は少ないと思う。
なぜなら、私がたった今作った造語だからだ。
和訳するとハヤオの時間(ひと時)である。
なんのこっちゃだ。
それは朝8時に起こった。
今朝、仕事場へ着いた時、机の上に置いてあった私の愛読する東スポ NT News(ローカル新聞紙)のトップページに目を奪われた。
「Fracking moratorium has been lifted」
もちろん、fracking (フラッキング)を見間違えてFワードだと思った訳ではないし、ダーウィンに住んでいればしょっちゅう目にする言葉なので、意味ぐらいは分かる。
要約すると
「フラッキング(水圧粉砕法)禁止が解禁」である。
水圧粉砕法とは地下奥深くに眠る燃料(天然ガス/オイル)を採掘する方法で、燃料を含む岩石に割れ目を作り、そこに大量の水と化学薬品を押し込んで、その圧力で天然ガス/オイルを押し出し抽出する方法である。
私のイメージではくずきり、あるいはところてんなのだが、そんなに平和的なものでもないらしい。
(水圧粉砕法に関する分かりやすい説明はコチラ)
上記のリンクを見て頂ければ一目瞭然なのだが、フラッキングには高い環境汚染リスクが伴い、特に地下水汚染や地震などの深刻な問題を起こす場合があるのだ。
その為、ヨーロッパの国々(ドイツ、ブルガリア、フランス、スコットランド)やカナダのケベック州、あるいはアメリカのいくつかの州ではフラッキングはすでに禁止されている。
ダーウィンやNT(北部準州)に住んでいる人は「No Fracking」のステッカーをはった車や、サインをつけた家や、またフェンスに貼られたサインを一日に10回程見たことがあると思う。
これがフラッキングに反対するサイン
今の政府は選挙の時に公約の一つとして「フラッキングをしません」ということを挙げていた。
しかし先日、NT知事が「科学者たちが推薦する環境リスク回避プログラムを全部施行する」という条件つきで、フラッキングをすることを了解したのだ。
フラッキングをしないという公約を信じて投票した人は当然激おこだし、そこで冒頭に戻って、私は「ハヤオ・モーメント」に陥った。
知らない人はいないと思うが、ハヤオとは作中で正しいことしか言わない、世界の「宮崎駿」である。
マエストロ・ハヤオはナウシカやらラピュタやらもののけやら千と千尋(一息で言ってみた)などで、水や土を汚すでないと繰り返し説いている。
私がこのニュースを知った時、ジブリ映画の有名なセリフ「汚れているのは土なんです!(ナウシカ)」「人は土を離れて生きられないのよ!(シータ)」などが聞こえてきた(妄想)。
なので、ハヤオ・モーメントである。
説明が長くなった。
さて、オーストラリアは乾燥したデカい国だ。
古い大陸であるお陰で、ガスや鉄、マグネシウムや石炭などの鉱物がふんだんに採れる。
掘ったら何か出てくると言っても過言ではない。
だから鉱山はこの国の大きな産業の一つだ。
ただ、草木が育つ土壌がうちの親父の毛髪並みに薄く(← ってか毛がないんだけど)、ペンペン草しか生えねえよって状態で、海岸線から離れたあたりは砂漠化し、水は大変貴重なものなのだ。
特にその辺りに住んでいる住民にとって地下の水源は命綱である。
生活水として利用しているのはもちろんだが、その辺りに住んでいる人たちの主な産業は酪農であり、水が汚染されたら牧草や牛にも影響が出るに間違いない。
また、フラッキングには大量な水が必要であり、その辺りの地下水脈を使用するので、水不足や地盤沈下を起こす懸念もある。
そして察しのいい読者ならお分かりだと思うが、その辺りとはNTのことであり、だからこそNTの住民は怒っているのだ。
先日行われたフラッキング反対デモ
知事もその辺の状況は熟知している。
しかし、この国の金儲け優先主義が災いし、国内にある天然ガスを海外へ売ってしまったために、国内で必要な天然ガスがないことに気付いたターンブル豪首相(←うっかり者※)が「NTよ、フラッキングを始めなさい。天然ガスを抽出しなさい」とプレッシャーをかけてきたのだ。
※ターンブル首相ーNTがサイクロンの被害に遭っても5日程放置していたのに、クリケットの不祥事では即座にコメント出した豪首相。お金持ち。
この件に日本人としては他人事で済ます訳にはいかない。
なぜなら、豪州の天然ガス企業にとって日本は「上得意様」。
ここらで抽出されたガスは日本へ送られているのだ。
しかし、国内のエネルギー問題もさることながら、フラッキングをすることにより、そこにデカイ施設などを作る必要が出来るので、雇用を産むかも、という期待があるのも事実だ。
NT、特に内陸の方は仕事がなく、最大の雇用先は政府関係(公務員)、あとは先ほども出た酪農や観光業が細々とあるだけで、大勢の人たちが生活保護を頼って暮らしている。
今こうやって私がぬくぬくとハヤオモードになったりブログ書いたりボランティアなどが出来るのは、私に収入があり、段ボール製ではない家に住めて、周囲に生息するセミを食べて糊口を凌ぐ必要がないからであって、環境とか心配するのは仕事を見つけてから、という人の気持ちも分からなくはない。
※一方でオーストラリアの多くの鉱山業がFIFO(Fly In Fly Out)・・・仕事の時に他州から飛行機で来て一定期間働いて、仕事休みに飛行機で他州へ帰って行く雇用形態を採用しており、地元の人たちの雇用にあまり貢献していないという問題点も指摘されている。
フラッキングによって汚染事故などが起きない可能性だってもちろんあり、起こるかどうか分からない事故を心配するより、事故を起こさないように万全を期して施行すればよいではないかという意見も納得できる。
しかしやはり、ここで嫌でも思い出してしまうのは、日本で2011年に起こった東日本大地震によって起こった、福島第一原子力発電所事故だ。
その前にも、原子力発電所での事故はたびたび起こっていたにも関わらず(ウィキ先輩によると6件の原発事故が1990年代に日本で起きている。びっくり!)、そして「もんじゅ」や「東海村」の事故なども知っていたにも関わらず、うかうかしてる自分などは「危機管理をちゃんとやってるから、日本の原発は大丈夫!」などと根拠のない自信を持っていたのだ。
大ばか者め。
今、日本の誰一人として「日本の原発は安全!」と断言できる人はいないはずだ。
永遠ていう言葉なんて知らないのはアムロちゃんだけではないのである。
俺も当然知らん。
事故なんてむしろ起こって当然と思っていた方が間違いないのだ。
フラッキング解禁を悩む知事に、NTの上院議員は「子供たちの未来のことを考えろ。仕事がなくていいのか」と説得したらしいのだが、いやむしろ、事故が起こって水が汚染され、飲む水がなくなる方が子供たちにとって迷惑なのでは?
しかも事故は一瞬で起こるが、一回汚染された地下水脈や水源を元通りにすることは気が遠くなるほど時間がかかるのだ。
(そしてお金もかかる)
ってか、そんなにエネルギーが心配だったり、雇用を促進したかったら、大きな太陽光発電所でも作った方がいいのでは。
NT内陸は砂漠だけあって、晴れ続きだし、水を汚染することもないよ?
※ずいぶん上から目線の物言いだが、私のアイディアではなく、どっかで聞いた他人様の案を偉そうに言っているだけである。
どこで聞いたかは忘れてしまったが、アメリカの先住民たちが言ったという言葉がある。
「When the last tree has been cut down, the last fish caught, the last river poisoned, only then will we realize that one cannot eat money.」
「最後の木を切り倒して、最後の魚を採って、最後の川を汚染した時に初めて我々はお金が食べられないことを知るだろう」
ふ、深い。
深く首を垂れて頷くのみである。
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