28・5・8

 この本は一九九〇年代半ばアフリカ中部の国ルワンダで起きた部族間の虐殺事件を主題にしている。人口の九割を占めるフツ族が過去には歴史的にも政治的にも優位な立場にいたツチ族を襲い、徹底的な略奪、放火、殺害によって百日間に百万人を葬ったという人類史上に暗い影を落とすジュノサイドが行われた。日本の修道院から派違されていた熱心な日本人修道女スール・マリー(鳥飼春菜)が修道院の中で、ただ一人のカトリック教徒として身命を睹して転責を果たそうと努力するが、殺戮が行なわれている現場で現地人の庭師に犯されるという悲劇に遭う。しかも、それがために妊娠する。

 彼女はルワンダに商用で来ていた田中一誠に助けられて、やっと帰国。修道院も辞めたが彼の一言で中絶を止めた彼女は田中に深い愛情を抱く。しかし田中は自己が起した運転事故で両眼を失った妻を飽くまでも守る決心でいることを知って、赤坂での再開後二〇年後の再開を約束をして別れて行く、というのが荒筋。

 ルワンダの事件の激しさの描写を含めて、読み初めたらやめられず、一気呵成で読んだ。

 曽野綾子さんの力作である。