27・4・18
昭和三十年、というと今から六十年前大蔵省の役人として欧米に出張を命じられた。各国の予算編成制度を勉強する目的であった。といって、米、英、独、佛の四ヶ国についてであり、しかもこの程度の日数で調べることは限られているが、ともかく帰国して報告書を提出した。一番参考になったのは、米国の制度であった。後にシーリングの制度を取り入れたり、主計局に資料室を設けたり、したのは、その報告がいささか役に立ったと思っている。
とにかく、私にとっては、調査もさることながら各国を眼で見ることができて大へん勉強になった。観光も怠りなく実行した。
ところで、二ヵ月にわたる出張のうち、一番長く滞在したのはイギリスで確か十七日間だと記憶している。ロンドンの外、ブライトン、ケンブリッジ、オックスフォード、エディンバラなども歩いた。
ロンドンのチャーチという靴屋でしっかりした、大へん丈夫な靴を一足買った。
当たり前のことかもしれないが、やはり靴は欧米製がいいと思った。日本人が靴を履くようになってから百五十年ぐらいであるから欧米に較べれば全然短い。
私どもが小学校の頃は着物で通っている子がかなりいたし、高等学校の頃は下駄、草履が多く、靴は殆んど履いたことがなかった。高下駄でカロンカロンと鳴らして歩くのは却ってはやらなかったが、着物を着ることが多かったし、靴ではなかった。
どうも靴は昔から履いている欧米にかなわないようで、バリー、プラダ、フェラガモ、グッチィ、いろいろメーカーはあるが長く履いても皮が痛まないし、形が崩れない、縫目もほころびないなど、どうも差があるようである。お前は、日本のいい靴を知らないからそんなことを言うと叱られるかもしれないが、どうも、その思いは、今までのところ変らないのである。
初めてロンドンの街中を歩いている時一軒の靴屋が眼にとまった。チャーチという。そこでがっしりした靴を一足買って、その後愛用していた。その後何回目かのロンドン行きの時、思い出してチャーチに寄ったら、何と五十年前に買った靴と寸分違わない靴が店頭に並んでいるではないか。思わず、店員にそのことを話して、全く同じ靴をもう一足買い求めたのである。
日本でこういうことがあるのかな、と思い、イギリスのような古い伝統を守る国も又、良きかな、とつい賞めたくなった。
いささか、長い靴談議になって申し訳ないが、書いてみたくなった。
も一つ追加すると、ロンドンでネクタイだけを売っている店に偶然入ったことである。ネクタイだけを売っている店が日本にあるだろうか。私は、つい五、六本買って出たが、店の名は調べれば思い出すだろうか、今は忘れている。