26・12・7

 林望氏のエッセイである。

 末尾に「思い出」(あとがきに代えて)に「男の料理」なんて、くそくらえだ。料理に男も女もあるものか。あるのは、美味しい料理とまずい料理の区別だけだ」という一行がある。

 著者は子供の頃から器用な母親の手つきをみて育ち、「マヨネーズを作ったり、クッキーを焼いたり、新巻鮭をさばいたり、いわば料理百選、いつも私は母のそばで見習って大きくなったのである」とも書いている。

 外国のことをそれほどくわしく知っているとも思わない私も、イギリスの料理がうまくないことは昔から聞いている。

 一緒に大蔵省には入った仲間がロンドンに勤務していた。彼は大学に入るまで外国で過し、日本語より英語がうまいくらいの男であったが、今から六十年ほど前、私が初めてイギリスに出張した時、私に言った言葉がある。

 「相沢君、イギリスではうまいのはトーヴァ―・ソールぐらいで、しかも高い」。

 林氏も最初はそのように思ったが、イギリスの料理を食べるばかりでなく、自分で作るようになって、今や、イギリスの料理を忘れられないくらい愛着を持つようになった。

 仔細にわたる料理の仕方についての説明もあるし、何よりも、イギリス人の料理に向う気持がよく伝わる文章がつづいている。

 「イギリスは愉快だ」に続いて読んだ一冊で、皆さんにも一読お薦めする。