夏目漱石を義父とする松岡譲の娘婿にあたる半藤一利の漱石の人物評である。
身内の人の書いたものだけに面白いところと詰らないところが混在している感じであるが、漱石の著書に長く親しんで来た私はいろいろな感情をもって読んだ。
私は、漱石の後期の著作よりも「吾輩は猫である」「草枕」「三四郎」「二百十日」など初期の作品に漱石らしさを覚えるものの一人である。
何故か漱石全集が父の本棚に並べられていて、高等学校の頃全巻読みあげたことでもあって、道後温泉も小天温泉も訪ねた。
「草枕」の中で那美さんとして出てくる女性・前田卓が妹の夫・宮﨑滔天などとも亡命中国革命家を助けての活動を描いた「草枕の那美と辛亥革命」(安藤恭子著)を先頃読んだ。
漱石が泊った宿は、宿屋専門の湯治宿ではなく、前田家が道楽のようにやっているものだと聞いた。那美が夜中温泉の湯煙の中にその白い素裸を浮び上らせたのは事実のようで、その湯風呂も現存していて、私も見た。
ともあれ、この漱石をあれほど幕う弟子たちが幾人もいたということは甚だ羨ましいことである。