25.3.5

慶応が明治に変ってわずか三ヶ月、暮に起った江戸の大火(赤猫とも言う)で火の手が迫った伝馬町牢屋敷で「解き放ち」をされた囚人のうちの三人の物語で、浅田次郎の名調子である。

部屋住みながら千石取りの旗本の倅でキンギレと呼ばれた官兵八人も切ったという直心影流男谷道場の免許皆伝、幕府講武所にもその人ありと知られた当代きっての剣客・岩瀬七之丞、麹屋五兵衛という大親分に代わって賭博開帳の罪をひとりで被った深川界隈では夙に名の知られた侠客で牢名主の繁松と江戸三美女の一人と言われた色白の別嬪で三十間堀の白魚屋敷あたりに巣食う夜鷹の大元締め、札付きの莫連女の白魚のお仙の三人についてどうしようとの大論議。

結局鍵役同心の丸山小兵衛の裁断で、鎮火報を聞いた後、暮六つまでに立ち戻れば三人ともに無罪放免、三人のうち一人でも戻らなければ戻った者も死罪ということになった。

ただ、これには丸山と同役の杉浦が異を唱え、御奉行様を入れての立ち評定となったが、三人三様にずらかっちまって、ひとりも帰ってこなかったら丸山小兵衛が腹を切る、ということになった。

三人が三様で明治の世に再びのして活躍する段数々にもあって、彼の作品としてもなかなかの力作である。



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