25.1.24
城山三郎編「男の生き方四〇選(下)」を読んだら、一番最初に三菱銀行の頭取をしていた田実渉氏の「三度死にそこなった話」が出ていた。じつに率直な物言いの文章で、人間はけっきょく“信用”だという信念をあらわしていた。
年代が違うせいもあって、彼とはじっくり話をするチャンスがなかったのが、改めて残念な気がしてならなかった。
それに続いて目を引いたのは新日鉄の副会長だった「藤井丙午」の「わが闘争・新日鉄を追われて」であった。大型合併として天下の注目を集めた八幡・富士の大合併で成立した新日鉄の人事をめぐる裏話であって、ご本人の書いたものと思われるが、底の深い、兄弟垣に相せめぐような相克を率直に記したものであった。
私は、勿論両人を知っているが、なかでも永野重雄氏には、私が始めて政界に出た時に頼んでやっと後援会長を引き受けて貰った縁があった。
彼は、余りにも多くの人が後援会長にと頼んでくるので、全部例外なくお断りすることにしているが、貴方の分は引き受けることにしたと言われて、その理由をこういって他の人には説明しておくと言う。
第一に自分の前の日商会頭は鳥取県境港市出身の足立正さんであり、貴方(相沢)はその境港を一番の地盤としていることであり、第二は自分の国は中国山脈を挟んで鳥取と隣り合わせであるということであると。
いずれにしても、藤井丙午氏がかなり辛辣な人物月旦を述べてくれた永野氏が私の後援会長を引き受けてくれたことは大へんに有難かった。
永野氏は財界四天王の一人と言われていたが、又、私の亡くなった先妻の父・佐藤周一郎の六高の同窓であった。
今はもう、皆亡くなってしまって往時茫々の思い出である。
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