昭和24年短い期間だが、京都下京税務署長を勤めた。進駐軍の軍政部が各府県に置かれていて、内政のあらゆる面で指示をしてくる時代であった。あの頃は所得税の累進税率を恐ろしく高く、住民税を加えると最高税率は90%ほどになっていたと思う。だから、一寸気ばって働いて所得を上げても、殆ど手元には残らないということになれば、どうしても所得を隠したいという誘惑にかられる。もっともである。軍政部の指示によって所得税の調定額を一率に20%引き上げる更正決定をしたら、何と1万2千件の所得税申告者の9割から異議審査の請求があった。
税務当局者としてこれは無理だなァと思わざるをえなかった。
その当時は悪名高い取引高税もあった。あらゆる取引に対して1%の税を課した。頭に花の風車などのついた傘をかぶった街のアメ売りからも取引高税をとりたてた。俄かの税務署側の職員態勢にも無理があったのか、大混乱を来たしていた。取引高税の資料が直税に回る。売上げを抑えたとして所得税を課する。そんな筈ではなかったと取引高税係に業者がねじ込む騒ぎであった。
あまりの混乱を前にしてこの税は1年数ヶ月で廃止となった。
今消費税の現行税率5%は低すぎるとして、財政再建のテコに税率を倍の10%に上げようという方針が民主党からも自民党からも打ち出されようとしている。軽減税率を設けるや否やも含めて具体的な課税態容はこれからであるが、EUの諸国などとは異なり、もともと直接税を中心とする課税体系をとっている日本で、消費税率を高くすることは本当に慎重に検討すべきことであると思っている。そもそも良い税などいうものはないかもしれないが、ムリな税制はやはり失敗するということを忘れてはならないと思う。