【新型デバイスより 期待される技術】
炭素原子が丸いベルト状に連なった
新しい分子「カーボンナノベルト」。
その一連の有機合成に際して、
名古屋大大学院理学研究科の
伊丹健一郎教授(46)と、
瀬川泰知特任准教授(34)ら
の研究グループが、このたび
世界で初めて成功しました。
六十年ほど前から理論的には
提唱されていたものですが、
なかなか実現できなかったため
「夢の分子」と言われています。
電子部品や太陽電池など
さまざまな産業分野への
応用が期待されています。
次世代ハイテク材料とされている
「カーボンナノチューブ(CNT)」
の高性能化にも一役買うでしょう!
今回の研究成果は、
十三日にアメリカの科学誌
「サイエンス」電子速報版に
掲載されています。
カーボンナノベルトというものは
四十八個の炭素原子でできており、
幅〇・四ナノメートル、直径は
〇・八三ナノメートルです。
ちなみに単位として
1ナノメートルは、
百万分の1ミリ。
こうした構造を持った分子を作製できる
可能性としては、一九五〇年代からも
文献などでは指摘されてきていました。
世界中の科学者が挑んできたものの、
炭素原子を曲面的につなげる技術が
非常に難しいことなどもあって、
成功例がありませんでした。
今回、この研究グループは、
石油から生成できる安価な物質
「パラキシレン」を原料に用い、
十段階の化学反応を経て、
原子を環状に結合させることが
できた、ということです。
最終段階において、
臭素とニッケルを使った反応で、
カーボンナノベルトは完成されました。
CNT(カーボンナノチューブ)は、
カーボンナノベルトと似通った構造を
しており、ダイヤモンド並みの強度に加え、
高い熱伝導性や、導電性を誇る素材です。
放電やレーザー照射の作製方法では
「偶発的要素が強い」ということで、
長さや太さのバラ付きが多いため
不安定な分子が混在するという
欠点があることも課題でした。
性質が安定しないということから、
産業応用には壁となっていました。
今回、合成に成功した
カーボンナノベルトは、
性質が均一にそろっています。
新たな炭素を結合させて
チューブ状に伸長できれば、
欠点を克服したCNT作製に
道を開くこともできそうですね。
【脅威のメカニズムと 技術の革新】
CNT(カーボンナノチューブ)
に関して言えば、つい先日も、
従来型のリチウム蓄電池よりも
15倍の容量を持った技術が
発表されたばかりです。
近年では、ハイブリッド自動車や
ソーラーパネル発電による蓄電池が
開発され実用化されてきましたが、
今後の展開としては、
容量の劇的な向上と
大幅なコストダウン
が見込まれてきます。
まさに脅威のメカニズム!
これまでは、少量の材料での
電池反応を調べる基礎研究が
中心とされてきましたが、
空気極材料としてCNT
(カーボンナノチューブ)を用い、
空気極の微細構造などを
最適化することによって、
リチウムイオン電池の
2mAh/平方cmに対して
およそ15倍ともなる、
30mAh/平方cmなどという
蓄電容量の実現ともなれば、
それまでの最新技術も
どんどん更新されます。
ジョブズ亡きあと、悲しいことに
注目の的であったアップル製品も
なかなか人気が高まりませんでした。
いまや時代は、新型デバイスよりも、
技術そのもののイノベーションにこそ
期待が高まることにもなるのでしょう。
【注目高まる 期待の大型新人】
カーボンナノベルトの研究は、
科学技術振興機構(JST)の
創造科学技術推進事業(ERATO)
というプロジェクトの一環。
伊丹教授は、
「科学者たちが何十年も
合成を夢見てきた分子。
電子デバイスなどへの
応用だけでなく、
新たな科学の分野の幕を
開くことになると思う」
と語っています。
「カーボンナノチューブ」
CNTというのは、
そもそもどういうもの
なんでしょうか。
『鋼鉄の数十倍の強さを持ち、
いくら曲げても折れないほどに
しなやかで、薬品や高熱にも耐え、
銅線や銀よりも電気をよく通して、
ダイヤモンドよりも熱をよく伝える。
コンピュータを今より数百倍高性能にし、
エネルギー問題を解決する可能性まで
秘めている……。』ということです。
約26年ほど前の1991年、
飯島澄男・名城大終身教授が
発見した物質です。
炭素原子が円筒状に結合した構造で、
直径は1~数十ナノメートルとされます。
(1ナノメートルは100万分の1ミリ)
長さは1000ナノメートル~数ミリ。
炭素原子が規則正しく結合しているため
鋼鉄の20倍の強度があり、
電気を通す性質は銅の10倍以上ある。
ナノテクノロジーにおける
これからの「主役」と
期待されています。
折り曲げることができる
液晶ディスプレイや燃料電池、
集積回路(IC)など、
さまざまな分野で
応用が期待されています。
これから先は、
カーボンナノベルトさんは、
注目高まる期待の大型新人
となることでしょう!




