最愛なる友からの便り
旅先の宿にて心地よい目覚めと共に迎えた朝、私の携帯電話には1通のメールが届いていた。
それは親しい友からの便りだった。
季節はもう、夏から秋に移り、涼しい風が心地よく眠気を覚ましてくれる。早朝の屋外の空気は鋭さを秘めて、眠りから覚めたばかりの肌身を引き締めてくれるように感じる。
どこからか甘い香りをふと感じ、そのさわやかな朝の目覚めを際立たせてくれた。おそらく、宿の方で朝食の支度をしてくれているせいだろうか。ありがたいことだ。誰かが自分のために、何かをしてくれている。
旅先の幸せな朝に感謝しながら、こんな早朝から届くメールを不思議に思う。
少しだけ、メールをすぐに開くことをとまどいつつ、あらためて内容を確認することにした。
それはごくありふれた挨拶のことばから始まる文章で、何気ない便りのようにも思えた。
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おはようございます!
そちらは元気ですか?
こちらは相変わらずです。
あなたの健康と幸せを心から願っています。
そろそろ寒くなってきますので、お気をつけてお過ごしください。
さようなら。
お元気で。
またいつかお会いできるといいですね。
できることならもう一度、あなたとお話がしたかったです。
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簡単な内容ではあるが、色々と考えさせてくれるメールだ。
彼女から便りをもらうのは随分と久しぶりで、連絡も、消息すらもわからなかった。まるで、いつもと変わらない日常を伝えるようなありふれた手紙のようにも思えるのだが、それはそうではないはずだ。
そう、そうではないはず。
これまでの歳月、君なしで生きてきた時間。僕の人生の中で、この精神に貴重な経験を積んだとも思える。
なぜだろうか。君の便りには違和感しか感じられないのに、ただひたすらに嬉しい。君とのつながりを確認できる、ただそれだけのことが、何より嬉しくて、何にもかえがたい。
僕たちは昔からずっと仲の良い友達で、君はいつも僕のことを気遣ってくれる。そんな仲良し仲間の間柄だと、信じていたのに。
それなのに、ある日突然君はいなくなり、僕の心に空いた穴は、ずっと塞がれないままだった。何がいったいどうなってるのか、どうしてそうなったのかもわからぬままに、長い間の時を過ごしてきたんだ。
怒りにも似た激しい悲しみが僕の心をおそう。
しかしそれもつかの間のこと、さわやかな朝の空気が、それらのいやな感情を消し去ってくれる。
私は彼女にメールの返信をすることにした。
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君に会うことができるとしたら、それは夢の中だけのような気がしていたよ。
本当にずっと君のことを心配していた。
もう何も言わないから、早く帰ってきてほしい。
何もいらないから、何も望まないから、君さえいればそれでいいから、早く君に会いたい。
でも君はおそらくそれを望んでいない。
君は本当は、僕と話をしようとする気持ちすら、持っていないんじゃないかと思う。
それでも構わない。
どうかお願いだから、君に合わせて欲しい。
僕が気づかなかったことを教えて欲しい。
何が君を傷つけていたのか、
何が君を苦しめていたのか、
僕のどこが君を遠ざけていたのか。
もう全てが、何もかもが終わったのだとしても、君だけでも取り戻すことができたら、僕はそれでも構わないから。
これは甘えかもしれないし、
エゴかもしれない。
もしそうならどうか許して欲しい。
そして、正しい方向に修正して欲しい。
今までいつもそうしていたように、
君の笑顔がすべてを変えるから。
でもそれでも、君の心が、僕を受け入れてくれないというのなら、
必ず僕は君の望むように変わろうと努力するから。
だから、どうか、お願いだから。
お願いだから、帰ってきて欲しい。
僕も今すぐ帰るから。
この旅は、本当に今すぐに終わるから。
君の香りとぬくもりが、僕の心を目覚めさせてくれるから。
いつまでも、どこにも行かずに、いつもそばにいて、微笑んでいて欲しい。
いつまでも、ずっと。
いつまでもずっと、君の心からの友であり続けたい。
永遠に、ずっと。
愛する友へ。
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そこまで文章作成し、わき目もふらずに送信する。
今までも何回も送信したが、彼女がいなくなってからは、返信されることはなかった。
いつまでも待とう。
もう今までとは違う。
長い旅はもうすぐ終わるのだから。

