与えられたポイントは、
たった37。
強化をするには余りにも
心許ない数字だったがーー
雷真は、そこでふと
奇妙な直観を覚えた。
この空間では、自分の情報が
変更できる。
元の世界では、どれだけ
努力しようとも
変えようがなかった部分が、
いくらでも存在した。
生まれ、体質、限界。
触れば痛むだけの
確定した現実。
だが、ここでは違うらしい。
情報と呼ばれる何かーー
その扱い方次第で、
自分自身を書き換えられる。
そして何より、
世界が自分を正式に
読み込むまでには、
わずかだが
猶予があると感じた。
そこに勝機がある。
理屈で考えればそうなる。
しかし、その発想の
根底には、昔から拭えずにいた
世界はどこか作り物めいている
という癖の感覚があった。
ーー現実は、案外バーチャルに
近いのかもしれない。
そんな歪んだ考えが、
雷真の中ではいつも
静かに息をしていた。
だからこそ、
ここでも思ったのだ。
もしこの世界の仕様なら
仕様の隙を突けばいいと。
それは理論でもあり
同時に
「こうなりたい自分へ
書き換えれるかもしれない」
というどうしょうもなく
切実な願望でもあった。
雷真が黙り込んで考え続けると
ページをめぐる音だけが一定の
リズムで響く。
「...ああ、補足ですが」
案内人のおじさんは
視線を書類から外さず
業務マニュアルの一行を
読み上げるように言った。
「この空間に滞在できる時間にも
限りがあります。
それと、未使用のポイントは
失効します」
(いや、それもっと
早く言ってくれよ)
雷真は心の中で
静かにぼやいた。
雷真は焦りつつ
ページを閉じ
深く息を吸った。
雷真は決意する
世界を欺く必要が有ると。
異世界に行ってから偽装しても
意味がない。
そんなことは、
考えるまでもなく分かっていた。
ーー異世界は最初に読み込んだ
”元情報”を基準に
主人公を認識する。
そこからどんな偽装を
施したところで、
土台となる情報は
すでに”世界側”に
保存されてしまっている。
つまり、
異世界に渡ってからの偽装は
世界の元データを
上書きできない。
「なら、やるべきことはひとつ」
雷真は、この亜空間の
意味を理解した。
ここは
神凪雷真という
存在を完全に
読み込んでいない段階。
ここでなら
”元情報”そのものを
偽装できる。
ここでなら
”世界が読み込む最初の
データ”を自分で決められる。
だからこそーー
この空間で偽装し
本来の自己情報とは別の
”偽の基準値”を
異世界に読み込ませる。
雷真は全ポイントを
偽装スキルに注ぎ込み
情報を書き換えるための
土台を完成させた。
それは弱さを隠すためでも
強さを偽るためでもない。
世界が最初に手にする
神凪雷真というデータそのものを
自分の望む形に変えるため。
これが世界を生き抜く最初の
攻略だった。