「そのバス停には、夜になると“もう1本”バスが来るらしい。」
これは、長崎のとある田舎町で実際に語られている話です。
大学生のユウタは、友人からその噂を聞いた。
「終バスが過ぎたあとに来るバスに乗ったら、帰ってこれないって。」
最初はただの都市伝説だと思っていた。
だが、その話には妙な共通点があった。
・乗客は必ず“1人だけ”
・行き先表示が空白
・降りた人間を見た者がいない
怖いもの見たさ。
そしてブログのネタになると思ったユウタは、実際にそのバス停へ向かった。
そこは街灯が1つだけある、古びた木製のバス停だった。
時刻表を見ると、最終バスは21時12分。
ユウタが到着したのは21時40分。
当然、人は誰もいない。
「やっぱりただの噂か…」
そう思った瞬間だった。
遠くから、エンジン音が聞こえた。
「え…?」
ヘッドライトが闇を裂くように近づいてくる。
バスだった。
だが、違和感があった。
・行き先表示が真っ黒
・運転手の顔が影で見えない
・中の照明が異様に暗い
そして、ドアが開いた。
プシュー……
誰も乗っていない。
ユウタはスマホで撮影しようとしたが、
なぜか画面が真っ暗のまま動かない。
その時、運転手が初めて口を開いた。
「…お待たせしました」
声は年齢も性別も分からない、
まるで複数の声が重なったような音だった。
逃げればいい。
そう思った。
なのに、体が動かない。
気づくと、ユウタはバスのステップに足をかけていた。
車内には、古い革の匂いと、
どこか湿った空気が漂っている。
座席に腰を下ろした瞬間。
後ろから声が聞こえた。
「次は…あなたの番」
振り返った。
そこには、誰もいないはずの座席に、
人影が並んでいた。
全員、下を向いている。
そして、全員が同じことをつぶやいていた。
「降りられない」
「降りられない」
「降りられない」
ユウタは立ち上がり、運転席へ走った。
「止めてください!!」
だが、運転席には誰も座っていなかった。
ハンドルだけが、
ゆっくりと勝手に動いていた。
次の瞬間、バスのアナウンスが流れた。
「終点です」
ドアが開いた。
外は、真っ暗だった。
街灯も、建物も、
何もない。
ただ、地面に無数の靴跡だけが残っていた。
すべて、バスから外へ向かっている。
だが――
戻ってきた跡は、1つもなかった。
その後。
ユウタのブログは、更新されなくなった。
ただし、最後の記事だけが残っている。
タイトルはこう書かれていた。
『もし夜に、時刻表にないバスを見たら――
絶対に、乗らないでください。』
そして現在。
そのバス停の時刻表には、
存在しないはずの時間が1つだけ増えている。
21時47分
備考欄には、小さくこう書かれている。
「※片道運行」