日本のどこかでのお話です。
ある田舎の山奥の集落におじいさんとおばあさんが暮らしていました。おじいさんは先祖から受け継がれてきた古民家で、40年以上も夫婦で仲良く暮らしていました。
おじいさんは農家で自分の作物をJAに提供したり、直売所や道の駅での売上や国から貰える年金での生活。
おばあさんは村の民芸である養蚕をしていました。伝統民芸として次の世代に繋ぐため、時々、街へプロモーションしに出かけることもありました。
2人はこれからのことが心配でした。
デイサービスを日々受けるも、絶対に有料老人ホームには入りたくない。そんな意思は2人にも共通としてありました。
ある夜、2人は同じ夢を見ました。
神様?仏様?仙人?誰だかわからないけど、日本でないどこか?中国?場所も分からない。
そんな中、夢の中の男が優しそうな声で2人に語りかけます。
「あなたたちを長生きさせて、赤ちゃんをさずけましょう。その赤ちゃんは高校入学する頃に悪い賊を倒すでしょう。この箱の中に必要な生活費や賊を倒すための必需品が入っている。これでその子を育てて賊を倒すのに協力してくれないでしょうか。」
そう言い聞かせた直後、2人は目を覚ましました。布団を押し入れにしまおうとしたとき、枕元に夢で見た小さな箱が置いてありました。
おじいさんやおばあさんはその箱を置いたりした記憶はなく、誰かが中に入ってきたのかと疑ったのですが、決めつけもよくないので、とりあえずそのままにしておくことにしました。
おじいさんは自分の田んぼに稲の様子を見に出かけ、おばあさんは、公民館へいつものように養蚕をしに出かけました。道中の橋を渡っていると どんぶらこどんぶらこ と大きな桃が流れてきました。スーパーで売ってるすいかより2回りくらい大きい桃をみてびっくりしたおばあさんは、とりあえず桃を岸へ持ち上げ、持っていたスマートフォンでおじいさんに電話をかけました。
「おじいさんおじいさん!なんか大きな桃が流れてきたんだけど、持って帰ってたべませんか?」
するとおじいさんは大喜び、電話の向こうでも伝わってくるくらいのトーンで
「わかった!たのしみにしておこう」
と言って電話を切りました。
おばあさんは桃を軽トラの荷台に乗せ、落ちないようにロープで縛り、家に帰ります。
キッチンまで持っていくのもようやく、2人で協力して運び入れました。ピーラーで丁寧に皮を剥いで残り半分は冷凍庫に...と思ったが、大きすぎて入らないため、昔洗濯で使っていたたらいを小屋から持ってきて、氷水と塩で冷やしておきました。
その桃をふたりで食べると、今までに食べたこともないような美味しさで、どんなブランドなスイーツよりも美味しいと感じたのか、2人は無我夢中で半分もたべてしまいました。
急に2人は若返った。しわは消え、シミもなくなり、体の調子がすこぶる回復し、髪の毛もふさふさになりました。
最初2人はサプリメントや化粧品の効果かと思っていたが、どうやら桃が原因だと薄々気づきます。
2人は大喜びして手を取り合いながら喜びました。でも、住民票やマイナンバーカードに、戸籍として登録してある容姿や年齢と異なってしまい、このことを役場の人や保健所に説明しても理解してもらえるわけが無いということに気づきます。
とりあえず、口座から全ての金額を少しずつ、下ろし、おじいさんが老衰で亡くなり、おばあさんが後を追うように交通事故で無くなったと役場に死亡届を提出。そのお金は修繕費や葬儀費用や交通事故の時になくなってしまったと報告。税務署や役場はしぶしぶその苦しい設定を受け入れました。その後、2人の空き古民家を買って東京から引っ越してきた若い夫婦、という設定とし、1年以上の月日を要し、戸籍や住民票登録などの手続きを終えました。
若返ったおじいさんとおばあさんは、 忙しい日々から一段落し、体調もよくなってきたので、今晩夜の営みをすることを決めます。
2人は今晩の夜の営みのため、ドラッグストアに向かいあれこれ準備、そして久しぶりに幸せな時間を過ごしました。
無事に後日、産婦人科で妊娠が発覚し、数ヶ月後、男の子が生まれた。
2人は初めての子供に 「桃太郎」と名付けた。
役場の人は、苦笑いしながら、書類を受理しました。
小箱の中には沢山のお金が入っていたため、特に2人は今の仕事のままでいいと思い、特に就職活動等はしなかったといいます。
5歳になって幼稚園の年中さんになった頃、
重い荷物を持ち運ぶことができるようになり、やんちゃな子と喧嘩しても毎回勝つようになりました。しかし、その子はガキ大将や問題児になったわけでもなく、おちついた生活を送っていました。
小学生になり、桃太郎はスマートフォンを買い与えて貰いました。SNSに依存してしまうのではないか、と心配していた2人でしたが、決してそんな事はなく、勉強も優秀な成績をとり、クラスでの人気者、イケメンキャラの立ち位置を不動のものとします。桃太郎はその頃柔道合気道を通い始め、11,12歳で全国大会で黒帯の大人をも投げ飛ばし2連続優勝します。
14歳になったある日、村や町から空き巣の被害が相次ぎ、警察官や刑事も手に負えないほどの窃盗事件が勃発しました。その窃盗団のニュースは世界中のメディアが注目するのもので、いままでその村のことを知らなかった人でもテレビや新聞、インターネットを通して知名度があがっていきます。
桃太郎はメロスのように怒り狂います。絶対にその窃盗団を捕まえてやると心に決めました。
聡明な(かしこい)桃太郎はなんと、パソコンやスマートフォン、書籍などを使えるものは利用して、犯人グループのアジトを特定することに成功してしまいました。
おじいさんとおばあさんに、そのことを話し、アジトで懲らしめてくることを相談すると、2人は必死に止めようとします。
しかし、あの日の夢を思い出しました。
2人は、顔を合わせ頷くと、桃太郎に窃盗団を捕まえる許可を出します。
実はその窃盗団は通称「ONI」と呼ばれ、正確には「Organization Next Intelligence (次の知能への組織)」という犯罪グループの一味だったのです。
しかし、桃太郎は目立つのが嫌という性格があります。
このまま警察に言って逮捕の流れに持って言ってしまうとマスコミから注目され、穏やかな私生活に影響が出てしまいます。しかもこれだけでは住民の気がすみません。窃盗罪は10年以下の懲役または50万円以下の罰金であるため、自分や村の人達ののこの悔しさを全て発散することはできないのです。せっかくなので、懲らしめてやろうという算段なのです。
次回、後編では桃太郎の鬼退治がはじまります。





