わたしは生まれてくる瞬間のことを覚えている。
それまで、ゆらゆらと心地よい胎内にいたわたしにとって、外の世界はあまりに赤裸々で気持ちの悪い世界だった。世の中の憎悪という憎悪を一身に受け止めたような…そんな気分だった。『へその緒』と呼ばれるものを切られ、わたしは完全に一人になった。つながりを絶たれたのだ。
だけど、そんなに悪くなかったね、ここも。少なくとも退屈せずにいられるし。政治家も教祖様もサッカー選手もDJも美容師も幼稚園児も結局一人ぼっち。一人ぼっちの小人たちの集まり。わたしもそのうちの一人。
うん、悪くない。