僕ら兄弟は小さなころ、いつも同じ靴を履いていた。
「ピッチングで大事なのは、“足の運び”だぞ。」
という親父の教えに沿ったもの。
学校から帰ると、僕らは日が暮れるまで
ただひたすら相手のグラブにボールを投げ込んだ。
軸足のつまさきにためた力を腕に上手く伝えることを意識して。
そして、靴が破れてくる箇所の位置、大きさを親父が毎日チェックする。
親父が言うには、親指と人差し指の付け根より指1本分足首側の位置から
三角形と楕円形を足したような形に破れていくのが理想と教わった。
兄弟で競争をさせたかったのだろう。
僕らはいつも同じ靴を同じ日にはき始め、毎日親父のチェックを受けた。
「何度言ったら分かるんだ!そんなに靴を無駄にするなら、裸足でやるか?」
毎日、毎日そうな風に怒られた。
だから、僕ら兄弟はその部分に全神経を集中して相手のグラブをめがけてボールを投げ続けた。
その甲斐あって、兄11歳・弟10歳のとき、その技術を習得した。
そして、おそろいの野球専用シューズを買ってもらった。
僕らの夢は、もちろん甲子園に出場してプロ野球選手になることだった。
現在、僕は毎日スニーカーで過ごし、弟は革靴で過ごす。
結局、、高校時代は兄弟でバンド活動に夢中になり
大人になって、それぞれの道を歩んだ。
小さなころの写真を見ると、いつも最初に靴に目がいく。
いつから、同じ靴をはかなくなったのだろう。